第5話 タイプ:ノーマル
朝、公園の出口にあるコンビニへと続く道を歩くと季節の移り変わりを実感する。
GWも終盤、気づけば上着を着なくても寒さを感じなくなるくらいの暖かさに、俺、
「夜斗君じゃないかい?随分久しぶりな気がするけど。おはよう」
顔見知りの人に声をかけられた。
(彼は誰だ。夜斗)
俺に疑問をぶつけるのは異世界で皇子だったらしいスミャホル。電霊という種族らしい。
(ちょっと待って、そんな警戒する必要ないから。後で言うよ)
スミャホルはここ数日、出かけるときは俺と行動を共にしている。本人が言うにはいつ追手がきてもおかしくないかららしい。
「追手?そんな物騒なものに追われてるの?」
「ああ。もちろん夜斗があの日追い払ったのも追手の一種と言えばそうだが、そいつらを仕向けた元凶のもっと高い強さと知能をもった犯人がいるんだ。私が何らかの方法を使ってあの中級を振り切ったことはきっとバレているが、相手は恐らく、私がリンカーを見つけたことまでは気付いていないはずだ。だから、しばらく一緒に行動させて欲しい」
話は戻り、現在。
「久しぶりです。
久しぶりに会う昼田さんに返事をする。
「正解。よかったら上空君もするかい?数日前に降った雨のせいで少し散らかっててね」
確かにGWの中盤は雨の日があった。お陰でその日に課題はすべて終わった。
「でも俺、先にコンビニで飲み物買わないと。丁度家にあった分がなくなって」
「なるほど、なら僕と一緒に公園の掃除を手伝ってくれたら、それはおじさんがプレゼントするよ。何日分?」
「そうですね...明後日の夜には帰ってくるので、二日分って感じですかね」
「分かったよ。なら、手袋取ってくるからちょっと待ってて」
そう言って昼田さんは俺の為に手袋を取りにいってくれた。
(で、結局誰なんだ?あの男は)
(
(なるほど、店に行ったときによく合うのか?)
その答えは半分正解半分不正解という感じだ。
(それもあるけど、俺の両親が良く旅行いくでしょ?毎回ついてったわけじゃないから、その時によく面倒見てもらってたんだ。どっちかと言うと母さんと父さんの友達って感じかな)
(なるほど)
(一番最後に会ったのが中学休んだときだから、多分半年くらい会ってなかったのかな。一応通学路として毎日通ってるんだけど)
毎朝高校に行くためにこのコンビニの前を通る。店に入る訳じゃないから会わなくてもおかしくないけど、高校に入ってからは初めてだった。
「おっ、いたいた。夜斗君も大きくなったねえ」
「まだ高校生ですよ。今は晴天ですね」
「ということは4月からも相変らずここは通ってたのかい?まったく見なかったな」
「はい、俺も意外でした。多分会うの半年ぶりくらいですか?」
「そうなるのかな~じゃ、始めよう。ここから大体あの分かれ道辺りまで」
そう言って掃除の範囲を指さす。
「了解です」
そうして俺と昼田さんは清掃を始めた。
いざ始まると思ったより集中してしまったのか、分かれ道までは早く終わった。ゴミ袋を持って昼田さんのところまで行く。
「あそこまで終わりましたけど、どうしますか?もう少しやってもいいですけど」
「もうそこまで終わったのかい?早いね。じゃ、そんな夜斗君に甘えてもうちょっとお願いしようかな」
「分かりました。となると次は大体あそこぐらいまでだな」
自分で目星をつけてそこまで掃除する。数十分後、足音が聞こえたと思ったら俺の傍で止まった。
「
「うっわびっくりした!お前かよ。おはよう、
(誰だこいつは)
(それもまた後、バカだから警戒する必要ないよ)
またスミャホルが聞いてきた。そして昼田さんより雑な扱いになっているのが、改めて焼司をバカだと証明してるようで少しおかしかった。
「ああ、そうなんだ。聞いてくれないか、夜。なんとGWは7日中2日休みなんだ!こんなこと滅多にないぞ!」
焼司、多分お前勘違いしてるぞ。普通の人は7日あったら2日休みが基本だから。まあ、運動部が基本的に土日の片方部活がある部が多いことを考えると、確かに喜ぶことなのかな?どっちにしろな気はするけど。
「おおっ、
そんな事を言っていると昼田さんがやってきた。
「おはようございます!ン?ハッ、そうか!夜、お前おじさんに頼まれてやってたのか!」
「まあ、そういう事。焼司は昼田さんと話すのいつぶり?」
「多分コンビニ意外だと数年ぶりだな!俺も手伝いましょうか?ゴミ拾い」
「ほんとかい?夜斗君はいい友達を持ったね」
そう言ってにこやかに笑う。
「俺がとかいうよりは、ただ単にこいつが良いやつなだけだと思いますけど、でも焼司が手伝ってくれるなら助かるかな」
そんな事もあって焼司も手伝ってくれた。始めてみるとすごい勢いで進み、結果的に俺が目標としていたところまで終わった時にはかなりの場所が終わっていた。
「二人とも、本当にありがとう。これで残りもそんなに多くないしGW終了までには終わりそうだよ。はい、これ」
そういって昼田さんは俺と焼司に飲み物をくれた。もちろん俺のは二人分ある。
「あれ、夜ってそんなに水飲むのか?」
「いや、元々手伝ってくれたお礼に2日分もらうって約束だったんだよ」
「なるほど。そういうことか。じゃ、もうすぐ昼飯の時間だし俺は行くぜ!また学校で~」
そう言って焼司は勢いよく走っていった。他の人にぶつからないといいけど。
(なんとなく、朝日焼司がどのような人間かを理解したぞ...)
どうやら俺がスミャホルに向けて説明する必要は特になくなったみたいだ。
「夜斗君は学校に馴染めてる?多分ここ1ヶ月見てないから休んだりはしてないと思うけど」
どうやら昼田さんにはまだ心配されてるらしい。高校生だから普通と言えば普通なのかもしれないが。
「はい、幸運なことにまた焼司と同じクラスになって。それに最近また新しく友達が増えたんです」
「ならよかった。また相談したい事が出来たら全然相談してくれていいからね」
「はい。じゃ、俺もこれで」
「うん。また来てね」
俺はそう言って自宅に向けて歩き出した。しかし、公園の家側の出口で足を止めた。
(どうした、夜斗?)
(いや、なんか不思議な感じするんだよな、ここ)
そういって出口付近を見つめてしばらく立っていたが、少ししてその違和感に気づいた。この出口付近がさっきの掃除した場所と同じくらいきれいなのだ。出口だから先に昼田さんが掃除した?もしくは人の出入りが多いからゴミが端によけられて綺麗なだけなのだろうか。
(いや、多分そんなに重要なことじゃないと思う。戻ろう)
そう言って俺は公園を掃除した満足感に満たされながら、家に帰った。そのあとで意外な結末が待っていることも知らずに...
午後、あの後何気なく一日を過ごしていたら、あることに気が付いた。
「あれ、電池切れてる」
テレビのリモコンの電池が切れている。たまたまつけようと思わなければ気づかなかっただろう。
最もつけようとした理由が本当にやることがなくなったからとは誰にも言えないけど。時計を見ると15時を回っている。少し面倒だけどそれこそコンビニかどこかに買いに行くしかなさそうだ。
「どこに行くんだ、夜斗?」
「テレビのリモコンが切れてたみたいで。電池を買いに行かないと」
「電池というのは、小型のエネルギーコアみたいなものだったな。どこに売っているかは私は知らないが、家から出るのであれば同行しよう」
どうやらスミャホルの世界には電池はないらしい。スミャホルたちが電霊と呼ばれていることと、何か関係があるのかもしれない。そんな事を思いながらマンションの一室から出て、コンビニに向かった。
歩いてさっきの公園まで来たときに不意にスミャホルが声を上げた。
「夜斗、嫌なにおいがする。君さえ構わなければ、中断して家に戻ろう」
「え?どうしたの急に。何があったの?」
スミャホルに聞こうとしたその時だった。
「助けてくれえぇ!」
声がした方向に顔を向けると、男の人が蜘蛛の糸のようなものにひっぱられていった。そして目線でその先を追うと、それは姿を現した。
〈グシヤァあ!〉
とても文字では形容しがたい咆哮を出して、それは俺を睨んだ。
「やっぱりバグルスか!」
あの糸を見た時、現実であんな大きさの糸なんてないと思ったがまさにその通りだった。そして、こんなに簡単に現実に介入してくることに恐怖を覚えた。
それだけじゃない。見つめられた瞬間、一瞬で理解させられた。今の俺からすると遥か格上である事、今まで見たやつより圧倒的に強い事。
絶望に飲み込まれ、恐怖で動けなくなる一歩手前のことだった。何かがこちらに近づいてくる。
「夜斗君!なんだってまた君はこんなところにいるんだ!君はこういう良くないものに引き寄せられやすいっていうのかい?」
困惑しながらこちらに向かってきたのは昼田さんだった。
「とりあえず下がって!あの化け物はおじさんがなんとかする」
「へ?」
あまりに力のない返事をしてしまった。それでもおじさんは信頼できる瞳で俺に向かって優しく微笑んだ。
「コネクト:マニミム!」
そう言った昼田さんの周りに彼の電霊があらわれ、昼田さんはパワードスーツをまとった戦士に姿を変えた。あまりの驚きに身体が動かない。でも動かさなければ逃げることもできない。俺はスミャホルに向かってこう呼びかけた。
(俺を殴って!早く!)
俺の言葉の意味を理解したスミャホルがスマホから出てきて、その弱そうな見た目で俺を殴った。痛みと共に身体が動きを取り戻す。今の間だ!
「コネクト:スミャホル‼」
驚いたスミャホルの顔が見えたのもつかの間、俺はナイトに姿を変えた。
「夜斗君⁉どうして⁉」
昼田さんが驚くのもおかしくない。今はそれよりも...
〈グゴシャアア!〉
また鳴き声を上げたあいつを倒さなくちゃいけない!
俺は相手に向かって走りながら剣を抜きそのまま一撃をくらわす。相手の体に剣が刺さった。そして抜けない。このままじゃマズイ!俺はそのまま蜘蛛の足からパンチをもらい地面に吹っ飛ばされた。
(無茶をするな!てっきり逃げるのかと思っていたぞ)
(いや、昼田さんと協力すればいけるんじゃないかって。でも身体が動かなかったからスミャホルに動かしてもらった)
(まあいい、剣は回収しておいた)
見てみると確かに剣は戻ってきていた。どういう原理かは分からないけど。
「まったく夜斗君は...これじゃ昔に逆戻りだよ。最近は少し大人しくなったと思ったのに。取り敢えず、君は僕、タイプ:ノーマルと一緒に戦ってくれるんだね?」
困った顔をしていたが、口元は微かに笑っているようにも見えた。
「はい!」
「まずは状況確認から。蜘蛛にとらわれた一般人は3名。どれも今のところは命に別状はなさそうだ。つまり、あのバグルスは上級ほどは強くない。準上級ってところだね」
「そうなんですか?」
「ああ、やつから感じるエネルギー量では上級に及ばない。おそらく器の許容量がそこまでないのだろう」
許容量?後で聞いてみよう。
「上級じゃないなら、多少強くても2人なら勝てる。蜘蛛の足を一本ずつ壊して、最後に本体に強いダメージを与えれば倒せるはずだ。」
「なら俺が壊します。ノーマルさんは本体を狙ってください」
「分かったよ。でも無茶はしちゃだめだ。僕も手伝わせてもらうから」
その言葉を聞いて俺はまた相手に向かって走り出した。すると相手はこちらに背を向けた。背を向けてくるって事は!直後相手から放たれる糸、驚くべきは現実の蜘蛛と違い一度に3本出ていることだ。
俺は2本かわし、最後の1本を切って進もうと糸に剣を向けた。しかし、糸は剣の衝撃を受け止め、俺は糸に絡まれかけた。ノーマルさんが手刀で切り裂き、俺も糸を手で払う。
「蜘蛛の糸は粘性があるんだ。動物だから当たり前といえば何も言えないんだけど。それに蜘蛛の糸は地球上で一番硬い繊維だという話もある。多分夜斗君が思っている倍力を入れないといけない。もしくは魔法でとか。僕は使えないけど」
「何でですか?」
シンプルな疑問にノーマルさんは簡潔に答えてくれた。
「僕も相棒も属性を持ってないんだ。それでもリンカーをやっているあたり、素質があるとも言えるし、ないとも言える。でも、その代わりと言っちゃなんだけど、タイプ:ノーマルの能力はいたってシンプルかつノーマル。身体強化さ。今はシフトアタック。残りはスピードとディフェンス」
「なるほど、それなら俺は水属性ですね。でも、俺なりたてで、上手く使えるか...」
「心配しないで。僕がカバーする。それに重要なのは足を切る事。そこは魔法より物理の方が早いからね。頼んだよ、ルーキー!」
そこまで言われたらやるしかない!俺は再び相手と向き合い一気に距離を詰めに行く。
相手はまた糸を吐いてきた。言われた通り、2本かわし、1本は水球で破壊する。
まだ、水球を維持できるわけじゃないけど、相手の方から近づいてくるので問題ない。俺は足の1本に狙いを定め、そこに力いっぱい剣を振り下ろす。
瞬きの間に切れるほど上手くないが2秒ほどで切断できた。相手が声にならない叫びをあげ、その隙にノーマルさんが一気に2本さらに壊す。
俺も!そう思った瞬間、また足が俺の顔に飛んできたが、今度は寸でのところで受け止める。
(力を込めろ、夜斗!)
必死に両手で入れてるがなかなか押し切れない。その時、相手の力が急に緩くなった。俺もバランスを崩したが足は無事に切れた。
「さあ、ラスト1本!」
どうやらノーマルさんが別の1本を切り落として怯ませたようだ。怒り狂った蜘蛛は俺に向かって飛び込んでくる。俺は咄嗟に水球を作ってぶつけたがそんなのはお構いなしとこちらに向かってくる。
「ヤバいぞ!」
「分かってるよ!」
スミャホルに乱暴に返事しながら、俺は無意識に剣を相手に向かって突き出していた。
〈グシャァ!〉
剣をくらった相手が、なぜかのけ反った。俺には何が起こってるか分からなかった。
「ナイスだ、あと1本壊す手間が省けた!あとはおじさんに任せて!ノーマルスマッシュ!」
技の詠唱と共にノーマルさんの拳が光り、エネルギーを纏った拳はそのまま相手に命中し、そのまま相手は消滅した。
「強い!」
「いや、さっきの夜斗の属性剣の方が威力が出ていたような気がするぞ」
スミャホルがそんな事を言ってきた。
「属性剣?いつ?」
「さっきの蜘蛛をのけ反らせたやつだ!気づいていなかったのか?」
え?あれが属性剣?ただ突き出しただけの剣が?
「見てたけど、夜斗君が直前に放っていた水を剣が吸収して纏っていたね」
ノーマルさんが解説してくれた。まった、という事は⁉
「ヤバいぞ。スミャホルの存在がバレてる!」
「コネクトした時点で大分手遅れだろ...」
あっ
「大丈夫、両親には言わないよ。基本はリンカー同士の関係に留めておくものだからね」
スミャホルが皇子だという事はバレてないらしい、わざわざ言わなければ触れられる事の方が少ないか。
「リンカーネームは決めた?」
「ナイトです」
「なるほど。いい名前だね。多分君の本名を知ってる人につけてもらったのかな」
「はい。俺にリンカーになるきっかけをくれた人で。一番最初に助けてもらったんです」
「そうかい、リンカーになってやんちゃしてる夜斗くんを見ると、本当に昔に戻ったみたいだ。後処理は僕がやっておくから、夜斗君は家に帰って休むといいよ」
その言葉を受け、お言葉に甘える事にした。
「今日は2回も本当にありがとうございました!」
「いいんだ。困ったら頼れる人に頼ればいい。それに年齢は関係ないし、逆に助けを求められたら、君が助けられる範囲で助けてあげればいい」
俺は家に帰った。帰ってから電池を買ってなかったことに気づいたけど、買う元気がなかったし、戦闘で時間を使ったので関係なかった。
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