第3話 コネクト
「俺?」
状況がよく分からない俺に
「そう。当たり前って言うとアレだけど、王族の力は一般の電霊より強い。だからそれをうまく引き出すリンカーがいれば、今の状況なんて簡単に解決できる」
スミャホルがそんな大事な存在だったなんて。この話を聞くまでただの一般人、いや一般電霊だと思ってたのに。
「ああ、たまたま
スミャホルも苦しそうな顔をしている。昨日の男の子を助かる判断は間違っていなかったのだと感じる。
次に、疑問だったところを聞く。
「次の質問だけど、なんでスミャホルと間時さんは俺以外の人に見えてなかったの?」
スミャホルはまだしも、姿が変わった間時さんも他の人には見えてないように見えた。
「それは多分電霊の性質。電霊は力を扱える人にしか見えないの感じ取れないから。霊感がない人は幽霊が見えないのと同じ理屈。コネクトしてる時は身体が電霊の性質に変わるから、同様に見える人にしか見えなくなる」
実際に幽霊がいるかは置いておいて、分かりやすい説明だ。
「そのさっきから出てくるコネクトって何?」
ずっと疑問に思っていた事をぶつけると、間時さんは小さく笑い口を開く。
「それが今日教える内容で一番大事だからよく聞いて。それじゃ、説明に入るけど、コネクトはリンクの上位能力みたいなもの。多分そこの皇子様はリンクしか知らなかったんだと思うけど。リンクは昨日の
「つまり、少年漫画の合体進化的な感じなのか。だから昨日間時さんを見たときに服を着てるってよりかは、そういう生物みたいな感じがしたのか...」
間時さんの顔が軽蔑と驚きに変わった。
「ごめん。それに関しては私はそう思って考えたことないから共感できない。あ、そうだ。最後に言っておくけど人を助けた場合は何かしらで近くの人間に被害者がいる事を伝えて。そうしないと折角助けたのに結局救えなかった、なんて悲しいことになりかねないから」
「そっか、ごめん。そこまで頭が回らなかった」
「別に初戦闘、しかもリンクで戦ってた人にそこまでは求めないから。昨日は相手を道路に叩きつけて音を出したでしょ?あんなのでもいいから。見える人がいる場合もあるからそういう人に声をかけるでもいいし」
こうして一通り昨日の事の真相、起こったものとその原理が分かった。
壁に掛けられていた時計を見るとそろそろお昼時になりそうだ。
「了解。どうしようか?話してたら割といい時間になっちゃったから、そろそろ帰ろうか?」
「よく考えたら家の人は?上空君こそ午前中から女の子の家行ってよかったの?」
「あ、言い忘れてた。俺の親、長期休暇になるとよく旅行に行くんだ。今回も昨日から瀬戸内海旅行だって」
「へぇ...おうち裕福なんだ」
その声色は妬みというより関心が近い気がした。
「まあ、俺が中学上がってからだからお金貯めてたんだと思う。俺も中学の時は数回一緒に行ったし。結局公立高校だと私立よりはかからないし、大学分はお前が高校生の間に稼げるからって」
「かなりお金持ちなんだね。上空君」
「いや、マンションの値段はこことさして変わらないだろうし、どうせ旅行ですぐ使うから。それで言うなら、間時さんも親から見れば一人海外なわけだし同じじゃない?」
色々言われたが、おあいこな気がして反撃してみる。
「バレた?まあ、上空君の事情は理解した。けど問題ないよ、私が上空君の分まで作ればいいんでしょ?」
そういう事を頼みたいわけじゃない。確かにそうしてくれるならすごくありがたいけど。初対面なのにお世話になりすぎだ。
「いや、そこまではいいよ。どうせもうすぐ用が終わって帰るんだし」
「いや、上空君の用は無くならないよ。だって今日の午後は実践練習してもらうから」
ニコニコ笑う間時さんの顔が悪魔に見えた。
傍から見れば美少女ニコニコしている、とてもいい絵面だと思う。けど俺の精神状態まで含めれば最悪な絵面とも言えるだろう。
「えぇ...実践って何するの?まさか間時さんと戦うなんて言わないよね?」
もしそうなら本当の意味で今日が命日かもしれない。
「まさか、流石にリンカー同士で戦ったりなんてしないよ。戦う意味がないし。それにこのままだと、上空君にコネクトのやり方を教えるっていう一番の目的が達成できなくなっちゃう。ところで、否定しないってことはOKってことで良いよね?」
最終目標はそこだったのか。
「良いよ。調子のって午前中に来たのは俺の自己責任だし、お昼まで作ってあげるって言ってもらってまで断る理由がないしね」
「手のひらクルクルじゃん。まあ、自分で言ったから構わないけど。食べられないものとかある?あったら避けるけど」
アレルギーの有無を聞くあたり、やはり配慮の幅に感動する。
「アレルギーはないよ。多分マイナーな物じゃなければ食べれると思う」
「分かった」
そう言って間時さんはキッチンに入っていった。時計は気づけば11時を回っている。コネクトの仕方を教えるまでの前説明にここまで時間がかかったなら、ある意味GW初日午前中に来たのは大正解だったのかもしれない。
間時さんが昼食を作ってくれてる間に彼女の相棒のコミュンさんに間時さんについて聞いてみることにした。何か分かればいい関係を築けるかもしれない。
「あの、コミュンさんっていつ間時さんと知り合ったんですか?」
「そうね、もうすぐ3年経つんじゃないかしら。私はそこの皇子様ほど有名な電霊ではないけど、
「基本的に違う状況の者もいない気がするんだが」
皇子様が口を挟んできた。
「一部では強くなるために自分でこの世界に来てリンカーを探す電霊もいるらしいわ。よほどの物好きなんでしょうね」
「そうなのか...確かに攻められることが分かっていればそれも一つの手か」
「話を戻していい?もうすぐ3年ってことは、会ったのって中学生になったあたりですよね?」
「そうね、小金が丁度一人になった時期と重なったらしくて、彼女は最初1人がよかったと嫌がっていたけど、今は受け入れてくれてるわ」
さっき親がイギリスとか言ってたし、色々あるのか。そういうところは触れないようにしよう。
「彼女は強かったわ。初めて戦ったのが上級だったのだけれど、私達はその戦いから生還した」
「上級⁉」
昨日の動きからプロだとは思ってたけど、そんなに才能があるなんて。でも、さっきの話をしてた時の顔から見るに、中学のときはリンカーで忙しくて友達が少なかったのかな。さっきみんなで話してるときはすごく楽しそうに見えた。
「早速コンタクトを取るなんてやっぱりマメなんだね、上空君」
「早いね、もうできたの?」
そんなに時間は経ってないはずなのに、昼食を抱えた間時さんが立っていた。
「冷蔵庫に残ってるので二人分つくれるのがこれだけだったから、好き嫌いの心配はいらなかったかも。それにパスタなんて茹でて具材混ぜるだけだから簡単だよ」
出てきたのはナポリタンだった。確かに好き嫌いの心配はいらなそうだ。ちなみに美女効果なのか知らないが親が作ったやつよりおいしく感じた。
昼ごはんからだいたい30分後。準備が完了したらしい。
「行きましょ。上空君」
間時さんはジャージに着替えていた。もしかして、変身前の服装とか関係あるのだろうか。
「ん?着替えた理由が知りたい?単純に気持ちの切り替え。緊急事態でもない限りは基本ジャージにしてるの。その方が身が入るってやつ?」
見透かされてた。まあ、俺が間時さんじゃないかって予想するのをさえ予想してくれると思ってたんだから普通な気もする。俺たちは間時さんの家から出た。
「まずは屋上に行きましょ。ついてきて」
「そう簡単に言うけど、入れるものなの?」
「うん。小さい公園になってるから。エレベーターですぐ」
でもそれだと他の人に見られるんじゃないだろうか。しかし、屋上につくとそんな不安は一切なくなった。清々しいくらい誰もいない。
「ね?この近くってでっかいショッピングモールがあるから基本的にここに人はいないのよ。最悪あそこにトイレあるし」
それは便利だな。まあ、今回は俺といるけど1人なら自分の部屋でやればいいんじゃないかと思わなくはないけど。
「じゃ、いくよ。コネクト:コミュン!」
そう言うと彼女の周りに橙色をしたコミュンが回り始めて昨日もみたあの姿に変わった。
「私はOK。あとは上空君だけど、やり方はリンクの時とほぼ変わらないから。多分一発でできるでしょ。リンク値の問題も無さそうだし」
「リンク値って何?」
聞いた事ない値が出てきたので聞く。
「簡単にいうと相性の値。リンクは50%あればいいから同じ電霊に対して複数の人が出来るけど、コネクトは75%以上必要だから基本的に1人の電霊に対して1人のリンカーって感じ。まあ、皇子様は人を見極めてたみたいだし、昨日の感じからしてあなた達が出来ない方がおかしいレベルだと思ってるけど」
ハードル上げるなぁ、この人。
「昨日どこから見てたの?」
「君が相手の牙にぶつけてでかい音を出した辺りから」
ほとんど見られてるじゃん!
「まあ、悩むよりやってみなよ」
まあ、確信したことしか言わなそうな間時さんがいうなら大丈夫だと思うけど。それじゃ、やるか。
「頼むよ。スミャホル」
「任せろ!私たちができないわけがない」
「コネクト:スミャホル!俺に魔を打ち倒す力を!」
そういうと俺の周りにスミャホルが回り始めて俺の中に入ったかと思うと、俺の姿が変わっていた。
「セリフには目をつぶっておくとして、上空君のその姿のイメージは騎士って感じね。中堅の」
そういわれて見てみると、鎧こそつけていないものの籠手や脛あて等、主要なところは押さえられている。
「それこそ、間時さんは怪物というか、動物っぽいよね。特に腕とか」
昨日も思った熊の腕みたいになっている腕を見ながら言う。
「知ってるよ、自分のことなんだから。防御性能は低いけど攻撃性能は高い。典型的なアタッカータイプなの。とは言え、アタッカーでも肉弾戦は珍しくて大体君みたいに何かしら武器を持ってる場合が多いけど」
言われて見てみると腰に鞘がついていた。そしてそこにはみんな知ってる当たり前のアレがあった。つまり俺の武器はこいつってことだ。
「あと個人的にはこの黒と橙の配色は夜の時に目を眩ませやすくて気に入ってる」
本人が気にしてないならいいけど、普段のおとなしい間時さんのイメージとは真逆だと思ったけど。
「それを言ったら君だってよっぽどみんなを護れる騎士には見えないんだけど」
「ごもっとも。で、コネクト出来たけどこれからどうするの?」
「それはもちろんパトロールに付き合ってもらうわ。コネクトしてるときは身体能力も上がるからそれにも慣れてもらいたいし」
そう言って間時さんは隣の建物に跳んでいってしまった。行動に移すのが早くて尊敬する。いや、もしかして無駄話が長すぎただけ?俺も急いで付いて行こうとしたが途中で何回か落下した。
間時さんはパトロールついでに自分の住んでる場所の近くを案内してくれた。俺も来たことがない場所ではなかったけど、わざわざ言うのもよくないし、移動の練習もしたかったので付いていった。俺の家も一応教えておいた。自転車で五分の場所はコネクトしてると二分より早く着いたので、そうとう身体強化がされていることが実感できた。ザっと全体を回って以上がないかと思ったその時、間時さんが急に止まった。
「見て。あれ」
指さされた方向を見ると昨日見たものと似たようなものがいる気がする。正直まだ慣れてないので確証は持てない。ただ、昨日と違うのはイヌではなくネコということだ。
「イヌ以外もいるんだ。じゃあ兎とかもいるの?」
「あんまり可愛い系は見たことないかな。犬はドーベルっぽいのしか見たことないと思う。私が今まで倒したやつだと蛇、蝙蝠、犬、猫、あと熊も数回」
熊もいるのか、意外と手強そうだな。そのイメージから上級が出てきたので聞いてみることにする。
「コミュンさんから上級倒した事があるって聞いたけどそれが熊?」
「熊だとギリ中級かなあ。明確なラインがあるわけじゃないけど、私が過去に倒したのは牛人だったから、こっちでみる野生動物は中級だと思う」
牛人⁉考えられるとしたらミノタウロスとかケンタウロスとかその辺りだろうか。神話に出てくるものがいるなら確かに野生動物だと中級かもしれない。
「って、そんなこと話してる場合じゃなかった。早く倒すよ。君の力も見たいし」
「中級以上はいるだけで倒すの?」
「当たり前でしょ!一般人がどうなるかは昨日自身で経験したでしょ?」
言われて思い出した。慣れないことだらけで抜け落ちていたが、確かに一般人じゃ何もできない。
「それに1体いたら大体5,6体はいると思った方がいいかな。事実昨日は合計12か13はいたわけだし」
俺と間時さんは建物から降り、相手と向き合った。ネコは気付くと4匹に増えていて、昨日と同じように空間に切れ目が出来ていた。あそこから出てきているってことだろう。
「じゃ、せいぜい見せてもらうからね、新人君!」
そう言って間時さんは俺を押し、強制的に戦闘開始させられたのだった。
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