第2話 電霊とバグルス

 朝、スマホのアラームが鳴る。

「何だこの警報は⁉うるさくて休めない!」

「スマホのアラームだよ、今消すから。それともう朝だぞ」

アラームより、スマホから飛び出したスミャホル声に起こされ俺も目を覚ます。こいつ、スマホのアラーム機能も知らないのか?

「アラーム。つまり人間が使うこの機械には時計と同じ機能があるのか?」

そうやって訝しげに鏡面を見つめるスミャホルに返答する。

「そういうこと。スマートフォンっていう多機能携帯電話だよ。今使ったのは時計としての機能だけど、ゲームもできれば買い物もできる」

「そうか、私たちの世界ではそのような物は必要なかったがこちらではいるのか...」

「そういや、スミャホルは持ち主のところに帰らなくてよかったの?俺についてきてたけど、お前、あの男の子のゲーム機に住んでいたように見えたんだけど」

「それは少し違うな。確かに私は君から見るとあの機械から出てきたように見えたかもしれないが、あれは、私がバグルスをやり過ごすために、隠れていただけで、普段からあの機械に住んでいるわけではない」

ますます、どういう事か分からなくなった。

「え?結局どういうこと?」

「なんとなく気づいているとは思うが、私はこことは違う世界の住人なんだ」

「ゲーム機から出てきたって事は電脳世界か何かってこと?」

「まあ、今それを話すのは止そう。君は恐らく準備があるだろう。昨日だって寝る前は着替えていた」

詳しく聞こうと思うと話を逸らされた。でも、準備があるのも事実だ。

「確かに準備はしないと。取り敢えず朝ご飯食べよう。どうせスミャホルに聞かなくても後で分かるし」

俺は起きて朝ごはんの準備をした。と言っても昨日とほぼ変わらない。なんとなくハムを乗せたくなったのでトーストの上に乗せたくらいだ。


 午前9時、大体の準備が終わった。

「さっきからリュックに何を詰めているんだ、君は?」

「メモ、勉強道具、財布、そしてペットボトル。別に遠足に行くわけじゃないけど、遠出になる気がするから」

「ええと、その、昨日の内に聞けばよかったんだが、いい加減君の名前を教えてくれないか?ずっと君と呼ぶのも申し訳ないんだが」

「え?言ってなかったっけ?」

記憶を思い起こしてみるが確かに名乗ってなかったかな?

「昨日は色々あったのは分かるが、あの時それは後でと言ったのは君だぞ...」

「ごめん。じゃ、改めて、俺の名前は上空夜斗うえそらよるとだよ。俺の友達は夜って呼んでる」

「なるほど、夜斗か。では、夜斗はどこに出かけるつもりなんだ?学校ではないようだが?」

スミャホルは学校は知っているのにスマホは知らないようだ。学校を知ってるなら知ってても良さそうなのに。

「この世界では今日から1週間休日だから学校はないよ。これから行くのは間時まどきさんの家、多分だけど」

「間時?誰だその人は?」

「多分だけど昨日俺たちを助けてくれた人。間時さんって確定じゃないけど、そんな気がする」

説明していると、あの出来事が昨日のように思い出せる。実際昨日だけど。見たことのない生物、犬によく似た化け物。そして増えた化け物を一掃する謎の少女のような怪物。あの瞬間だけ、本当に異世界に行ったんじゃないかと思うぐらい現実離れしていた。


 会話したのは数秒だったけど、改めて考えると、あの目とあの髪は間時さんそのものだった。俺が誰だったのか分かっていることも根拠の一つだと思う。最も近場ではあるだろうが、ガチの近所ではないので、他の人に気づかれなかったのだろう。最終的に昨日はクラスメートに命を救ってもらった。


 幸いなことに、男の子も命に別状はないそうで、結果的に俺は悪あがきしていただけなのが、申し訳なかった。多分この住所はお礼を言いに来いってことじゃなくて、謝りに来いってことなんだと思う。スマホで住所を打って経路を表示させると、自転車で10分と出た。

「近⁉そんなに近かったのか...」

「どうした夜斗?そんなに驚くことがあったのか?」

「いや、別に...」

高校にもなると電車で通学してくる人も多い。電車に乗ってもいいように遠出の準備をしたが、どうやらそこまで必要なかったようだ。昨日あったことの方がよっぽど非現実的だったと俺は思い直し、準備を済ませ自転車に乗って間時さんの家に向かった。

 

 自転車にのって15分。俺は悩んでいた。まさか相手もマンションとは思わなかった。ちなみに自転車で来た理由は普通に移動が速いのと、迷う可能性を考慮した結果だ。ただ、マンションのどの部屋かはメモに書かれていなかった。こうなるとマンション内の人に聞くしかないか...俺は丁度マンションから出てきた買い物に行くであろうおばさんに間時さんの部屋番号を聞いた。おばさんは何故かニコニコしながら教えてくれた。


 インターホンを押す。これで人違いだったらえらい事になるが、この部屋に間時さんがいる事が裏付けであると信じて待機した。

「は~い。ん?早いね。ちょっと5分くらい待って貰える?」

インターホンから聞こえてきた声は俺に5分待てと言ってきた。どうやら早く来すぎたらしい。自分でも午前中に行くのはどうかと思ったが、GWの課題もほぼ終わっていた。それに加えて、昨日起こったことについて早く知りたいという気持ちと、謝るのは早い方が良いという一般論もあり、色々考えた上でこうなってしまったのだから仕方ないと思う。


 それにせっかくの長期休暇、初日に行くべきだ。それとも遠回しに追い払われているのか?でも、俺が来ることに対して何も言ってこないということは推測はちゃんと当たっているので、大丈夫だと信じて残り時間を待った。


「ごめんね、待たせて。入っていいよ」

「良いと言われたからには入りますけど、勝手に男を家に上がらせて良かったんですか?」

「全然、私一人だし」

家に上がりながらその言葉を聞いた俺は半分感動した。まさか、この歳で自立して一人暮らししてるのか⁉いや、俺と同じで今家にいないだけかもしれないし、第一うちの高校はそんなすごい高校じゃないはず...

「あ、言い方が悪かったよね。正真正銘の一人暮らし、親はイギリス。髪でわかると思うけどハーフなの」

「それ、今日初めて家に入れる人に言うことですか?」

親密な人が少ない方の問題だけど、こんな距離感で良いのか?

「いいよ。私はなんとも思ってないし。それより、仮にもクラスメートなんだから、もうちょっと口調柔らかくしても大丈夫だから。その方が私も色々言いやすいし」

遠回しに敬語やめろって言われたようだ。まあ、気に障るようなことしたのは俺の方だし、家に入れてもらってる側だから、甘んじて受け入れよう...


 リビングにつくとそこには綺麗に整えられた家具達があった。さすが間時さん。見た目通りしっかりしていたのは先ほどの発言からもわかる通り予想通りだったようだ。

「適当に座って。お茶いれるから」

「いや、自分でペットボトル持ってきてるからいいよ」

「やけに念入りなのね。意外」

「調べたら意外と近かったから。最初は電車もありえると思ってたから用意してただけ」

そういうと間時さんは納得したような顔でテーブルを挟んで向かいに座った。

「あとは前の席の人があんなのだからってのもあるけど」

「アハッ、ちょっと言いすぎじゃない?でも確かにそうかも。朝日君があんなにバカだとそうなるのか!」

残念だったな焼司しょうじ。お前クラス一の美少女にバカ認定されてるぞ。会って1ヶ月もしてないのに。

「にしてもよく分かったね。コネクトしてるときは目も神も色が違うし、服装も全然制服と違うのに。しかもクラスメートだってところまで見抜いたんだ」

知らない単語が出てきたが、一旦相手の質問に先に答える。

「まあ、初対面の人が俺に住所渡すわけないと思ったし、逆を言えば目と髪は色は変わってたけどそのままだったし、声が決定的だったかな。あとは...いや、そんな感じかな」

スタイルが明らかに普通の人に比べて美人だったとも思ったけど、失礼だからやめておこう...

「なるほど、ようするに容姿で判断したと。上空君女子に対してそんなことも言うんだ」

見抜かれてる!流石に良くなかったな。

「ごめん」

「いや、別に初日からスタイルいいねとか、そういう類のことはいわれてるから。むしろ容姿だけで良く分かったなって褒めてるの。自分で言うのも何だけどコネクトしてる時は仕事モードだから普段と雰囲気もちがうし」

「確かに第一印象は怪物って感じだったかな」

「ここまでで思ったけど、上空君って普通に女子と話せるんだね。もっとテンパるのかと思ってた」

意外という言葉が聞こえてくる目で俺を見つめてくる。

「俺がどんな陰キャだと思ってるか知らないけど、分け隔てなく話せるほうだよ。陰キャって言うほどそういうコンテンツに触れてるわけでもないし。それより、そろそろ本題に行った方がいいんじゃない?予定あるかもだし」

「予定はないから大丈夫。勉強したくない日はネット見てるか散歩にでもいくか、バグルス倒してるかぐらいだし。上空君もでしょ?午前中に来たって事は」

気にかけたつもりが逆に気にされていたらしい。

「そうだね。課題はだいたい終わってたし、多分違う空気だから言うけど、謝らないといけないと思ってたから早めに来たってのが本音。あのバカは連日部活だし」

「まあ、始まって1ヶ月なら友達出来てない人もいるよね。アクティブな人はさておき」

「小金、せっかく客人が話題を誘導してくれたんだから、本題に入るべきじゃない?」

なんか出てきた。スミャホルと同じ種族なのだろうか。

「ごめんね、コミュン。高校始まってからあんまり同級生と喋ってなくて。自分が世の中からずれてないかの確認も含めて少し長話しちゃった」

確かに間時さんはいつも一人でいるイメージがある。もっともあのバカは毎日話しかけにいってるけれど。でも、間時さんがハーフなだけで世の中からずれることは無いように思う。

「コミュンって言うんだ。よろしく」

「あら、よろしく。でも、先に名乗るべきじゃないかしら?」

「あっ、すいません。間時さんは知ってるからうっかり。俺の名前は上空夜斗です。好きに呼んでください」

「ありがとう。夜斗...ね。面白い名前じゃない、そのまま呼ばせてもらうわ」

にこやかな笑みを浮かべそう言う。

「焼司には夜って呼ばれてるけど、他の人からしたら夜斗のほうが良いのかな?」

「どうだろうね。私はあんまり仲良くない人を名前で呼ぶのは抵抗あるから上空君にしてるけど」

「日本人は全体的にそんな感じだし、文化の違いかな」

「改めて、私は間時小金まどきこがね、よろしく」

そう言った後、間時さんの目つきが真剣になった。

「それじゃ本題に入るよ。あなたが昨日経験したこと。電霊でんれいについて。バグルスについて」

昨日から不思議に思っている知らない単語が並んだのを聞いて俺は本題に入る心の準備を整えた。

「お願いします」


 いい返事ね。彼女はそう言った後に話し始めた。

「まずは。例をあげると、コミュンやそこにいるあなたのがそれにあたる」

「スミャホルだ!よろしく頼む」

「スミャホル⁉え、嘘...だから、あんなことに...」

間時さんの顔色がまた変わった。

「え?どうしたの?」

「あ、ごめん。ちょっと衝撃的すぎて。順を追って話すから。まず電霊は私たちとは違う世界に住んでいる。それは昨日実感してると思う」

朝スミャホルにも言われたことだ。俺は昨日の出来事、イヌ相手にすり抜けた自分の身体を思い出し、ブレードはしっかり敵に当たった事を思い出していた。

「てことはあのイヌも電霊?同じ種族なの?」

「質問は全部終わった後で受け付ける。その方が効率良いし。電霊はこの世界で電霊に対しての相棒、簡単に言えば力を扱える人を探してその人にバグルスを倒してもらうのが目的。そうしないと彼らの国が滅んでしまうの。それで、さっき驚いた理由はそこにいるスミャホルが彼らの世界の一国の第二皇子ってこと」

「皇子⁉」

「ああ、嘘はついていない。間時、続けてくれ」

「そう呼ばれるのもなんか変な感じ...小金でいいよ。話を戻すけど昨日あなたが倒したのが。簡単に言うと私たちの立場からして敵に当たる存在。昨日あなたが倒したのは中級バグルス3体。私が倒したのは10体。バグルスには階級があって初級、中級、上級、あとは敵国の幹部とかそれ以上って感じ」

昨日のは中級だったのか...にしても何体出てるかすら把握できなかったのを間時さんはちゃんと記憶してる。やっぱりしっかりしてるんだな...お茶を飲んで間時さんは続けた。

「とは言え初級だと、それこそリンクでも怪我せずに勝てて、生命力も弱いから、放置しても害にならないレベル。少なくとも10体以上集まらないと中級1体にも満たない強さだし。見た目も小動物や虫なんかだから被害が出るのは本当に稀。中級はコネクトをうまく扱えるリンカーなら苦戦することは無いって感じ。現在中級バグルスはこの世界全体だと2億、日本で3000万程と言われていてそれに対して電霊は全員合わせて100万程と言われている。ここまでで質問ある?」

「電霊の数が圧倒的に少ない気がするんだけど」

「そうだね。電霊を人間に、バグルスを野生動物に見立てるのが一番分かりやすいと思う。電霊は人間と同じで知能があって育つのも遅い。こっちの世界の彼らはバグルスの格好の獲物だし。敵はエネルギーさえ増やせれば数も増やせるからそんなものだと思う」

「状況最悪じゃない?」

「いや、一概にそうとは言えなくて。こっちにいる電霊の50万には。つまり力を引き出せる人がいるって言われてる。しかもさっき言った通り一般的なリンカーはまず中級相手に死ぬことはない。しかも奴らの場合大抵の場合複数体で出現するから、そこまで劣勢じゃない。それに上空君の存在もある」

「俺?」

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