サイバー・サバイバー
さぶすりー
1章 非日常
第1話 サバイバー
子供は何に憧れ、何になりたいと感じるのだろうか。とある物語の英雄?ヒーロー?はたまたカッコいい大人?もしかしたら人じゃなくて強い動物かもしれない。これは、ひとりの少年の少々ねじれた運命をめぐる物語である。
約1ヶ月ぶりに聞くスマホのアラームで目が覚める。液晶を触ると6:30と表示がでた。
「そっか、今日からこいつにお世話になるのか..、ううっ..」
布団から身体を起こし顔を洗いに行った。顔を洗いに行った後はトースターにパンを適当に2枚セット。その間に色々と朝の準備を済ませる事にした。
カーテンと窓を開け、布団をたたみ、制服と今日の持ち物の再確認。ついでに誰かから連絡が来ていないかも確認したが、Twitterの通知くらいしかなかった。パンをかじり、景色を眺めながら思う。良い景色だな、ほんと。マンションの5階ということもあってか見晴らしはよかった。
パンだけでは流石にお腹が膨れなかったので適当に冷蔵庫にあったバナナでも食べた。うちの親は果物好きだな。いつも何かしら入ってる気がする。
朝食の片付けがおわってもまだ7時30分だった。二度寝する可能性も含めてあの時間だったが、少し早すぎたかもしれない。ゲームのログインを済ませ、いよいよやることがなくなった俺は学校に向かうことにした。
通学路、なんてことない様に見えるが今月上旬に咲いた桜は散り、緑が生え始めている。学校自体は徒歩15分ほどという安定した場所にある。徒歩で15分だと走るともっと早いし、自転車だとさらに早い、たぶん5分もかからないだろう。
一応寝坊した時のことも考え、学校には自転車通学で登録したが、俺は景色を見るのが好きだったので基本歩きで来ていた。何せ15分だしね。それとなく今日の授業や帰ってどうするかを考えていると後ろから聞き慣れた声が飛んできた。
「おいおい、
そうやって意地悪な目が俺を覗く。
「それはいったいどこのどいつが流した噂なんですかねー、
回答として俺も悪意のある目で反撃する。
「え?同じクラスの中村だけど」
「嘘つけ。お前が俺の言ったことを拡大解釈して人に話してるからだろ」
「いやいや、そんなことはないって!」
「ある。それ以外ない」
否定する友達に対して目を細める。
「それはいくらなんでも酷すぎるぜ夜~」
「うるさい。てか歩いてる人の横で一緒に喋るなら自転車から降りろ」
そういうと俺の友達、朝日
「てか朝なのにキレッキレだな」
「二度寝前提で目覚ましセットしちゃったからもう大分覚めただけだよ」
そんなこんなで俺と焼司は学校まで他愛もないお喋りを続けながら歩いていった。
学校の玄関についたが、やはり明日から休日のためか、みんな浮かれた顔をしている。少し人の数が少ないと感じるのは明日からの7連休が待ちきれなくて家族と旅行などにでかけたやつがいないからだろう。俺は靴を履き替え教室に向かった。
「ああ、
焼司は相変わらずうるさい。というか何がそんなに気になるんだ..。目を輝かせている視線の先にいるのは、間時
うちのクラスの美少女兼学年一の美少女だ。一言で表すなら高嶺の花。金髪のロングと青い目が特徴だ。
俺自体は異性に興味があまりないので、特にいちいち何かを感じたりしないけど、隣のバカはいちいち感動して俺に話しかけてくる。俺が異性に何も思わないのは、こいつが一役買ってるのかもしれない。
「おい、間時さんが英単語帳をめくっているぞ!なんてうつくしいんだ!」
当たり前でしょ。今日英単語テストなんだから。
「今日は単語テストだから普通だろっ!迷惑だし早く席いくぞ」
「えぇ~、なんでだぁ~」
俺は焼司を引っ張り席に連れていった。こいつが1番前で俺が2番目。こいつと仲良くなった理由はこれだ。こいつのお陰で俺は出席番号1番になるのを免れている。
「じゃあ、この練習一番は..って朝日は相変わらずか、じゃあ、上空」
後ろを向いて苦笑した先生が、流れで俺を当てる。
「こたえは2√2です」
数学の時間、英語の単語テストが終わり午後二時という事もあってか何故か焼司は当然の如く爆睡していた。まあ、1番をあいつが持ってくれてるだけいい。
1番はテストが返されるのが早いが、同時に様々な人の目に留まりやすいという欠点もある。俺の苗字は
まあ、よく寝るから俺が当たる事もまあまああるんだけど。
はっきり言って学校中に起きるかもしれない嫌なことはほぼ杞憂に終わった。当たったのは数学だけだったし、英単語テストも何の問題もなかった。
長い休みの前日ともなると自習にして進まない教師すらいる。お陰で、GWの課題は8割終わった。
「そうだ、夜。お前暇だろ!手伝ってくれよ~」
掃除が終わって焼司が俺に話しかけてきた。こういうときは大体めんどくさいやつだ。絶対。
「今から図書委員のあつま..
「断る。どうせ図書委員の集まりにを俺に行かせてお前は部活の準備だろ」
部活に精を出す焼司ならではの悩みだと思う。
「確かにあってるけど流石に酷くないか⁉友達だろ!」
「忙しい陸上部なのに、正反対のイメージしかない、図書委員に入るとか言ったのが悪いと思うんだけど」
「うっ、なんだよ!確かにそうかもしれないけど準備があるんだ。この借りは後で絶対返すから!」
「借りとかそういうの好きじゃないから。行けばいいんだろ、行けば」
「流石夜~俺の相棒なだけはあるぜ~」
そういって俺の肩を組んでくる。というかいつから相棒になったんだ。
「とにかく、次はちゃんと他のやつに頼めよ。俺と違ってお前は知り合いたくさんいるんだから」
そういうと笑顔で返す。
「ああ、了解した!じゃ、図書委員の先生には言っておくからよろしくな~!」
そう言ってあのバカは去っていった。てか先生に言えるなら別に欠席すればよくないか?
どうせ主な活動は1回目で説明されてるわけだし。まあ、あいつなりに成績上げようと頑張ってるんだろうな...おれはシブシブ荷物を持ち、集合場所であろう図書室に向かった。
日が傾いている帰り道、少しため息をついて口から声が漏れた。
「分かってたけど遅くなるよなぁ...」
とは言え、多分運動部はまだ活動しているので「遅い」ではないかもしれないが。まさか、6月前半に開催予定のイベントの会議だなんて。
わざわざ焼司が頼んできたから、普段通りじゃない可能性も考えたけど、まさか的中するとは。俺自体家が近い+部活も何も入っていないので、対して人にこの気持ちをぶつけようとは思わないが流石に午後6時に学校でるまで遅くなるとは。
まあ、それでも6時15分には家に着くんだからすごいと思う。マンションの前の道路を歩いていると奇妙な現場を目撃した。
「あれは、犬?」
犬が何かを食べている?一般的にみるチワワとか柴犬とかじゃなく、いわゆる警察犬とかに利用されているっぽい犬だ。詳細な犬種は詳しくないので分からない。
普通、飼い主がいる犬は野生の生き物なんて喰わないから野良犬?でもここ東京だぞ、そんな3匹もいるか?しかも道を塞いでいる。このままじゃ通れない、と思ったが犬なら跨げば通れるか。そう思って何気なく横を通ろうとした瞬間、俺は絶句した。
違う、襲われているのは人だ!それも見た目からして小学校低学年かそれより下の男の子。イヌっぽいやつの鳴き声しか聞こえなかったのは何も喋れなくなるぐらい衰弱していたからか!
いや、考えてる場合じゃない、もしそうだとするとヤバいぞ!俺はイヌを攻撃しようとし、やつらにめがけてキックを放った次の瞬間だった。俺の足がやつらの身体を貫通した。つまりすり抜けたのだ。
「なんでっ⁉」
俺はバランスを崩しかけ、立て直そうとしたが、敵対する存在だとみなした奴らが容赦するはずがなかった。
「痛っ!」
思いっきり嚙みついてきた。噛みつくあたりやはり犬なのだろうか。しかし、これで俺はなぜ男の子がこんな危険な状態になっているのか理解した。
こっちの攻撃が相手に通らない
そのルールが分かったことは、俺に負けが確定したのを宣告するようなものだった。
「グァッ!」
倒れた俺の腕が何かに当たった。あれは?家庭用ゲーム機?ここからがさらに意味不明だった。俺の腕が当たったからか、そのゲーム機の電源が付き、液晶が付いたかと思えば青紫色に光出したからだ。そしてそこからクリオネの様な妖精の様なよく分からないものが飛び出してきた。
ここはゲームの中なのだろうか。もしかしたら最近流行りのこの世界は仮想現実でした!とかなら納得はできるかもしれないが、そんなこと認めたくはない。
そして良く分からないふよふよが俺に向かって語りかけてきた。
「君だ!ようやく見つけたぞ!私の力を扱えそうな人間を!」
俺は既に攻撃されている真っ只中だったため、視線でやつとコンタクトを取るしかなかった。取り合えず助けてほしいことや、名前や目的など...
「この世界は難解でな、さっきの物の電源がオフになっていて出られなかったんだ。ハッ!すまない、まずは最低限お礼をするべきだな」
ふよふよは口に当たるであろう部分をすぼませるとそこから水鉄砲の容量で何かを噴射し、俺から奴らを引き離した。
「私の名前はスミャホルという。君は?」
名前を名乗るふよふよは俺の名前を聞く。けど、優先順位がある。
「後だ、今はこいつらを倒して男の子を助けるのが先だ!」
「理解した。それなら君に力を貸そう。初めてでどれだけ上手く使えるかは君次第だが、君のポテンシャルを私は信じよう」
そういうとスミャホルはなぜか俺のスマホに入った。なぜ入れるのかは一切考えてる余裕がなかった。
「電源をつけて、叫ぶんだ!リンク:スミャホルと!」
ダサいという感情も湧いた気がするが使命感の前にそんなものは心にすら止まらなかった。
「リンク:スミャホル!頼む!俺に誰かを助ける力をくれ!」
言葉の詠唱が終わると全身から力が溢れてくる感覚がした。そして手に持っていたスマホに目を向けると上の方からブレードが出ていた。これで奴らを切れということは直感で分かった。
改めて前を向くと、さっきの3匹の内1匹はスミャホルのあれで倒したらしく、2匹しか残ってなかった。俺は片方に向けてスマホを持って切りかかった。
相手も俺の殺意を感じ取ったのか噛みつこうと飛びついてきた。俺は何も考えずやつの牙に目がけて剣を振った。
直後、俺の剣とやつの牙がぶつかり鈍い音がした。かなり相手の力が強い!
(おい、君!力を込めて振らないとやられるぞ!君の世界と何一つそこは変わらない!)
もっと、力を、出せ!
「うおおおぉ!」
1匹の顔面に傷をつけた。ゲームの中のキャラとか、昔の人はいちいちこんな辛い事してたのか!すぐに2匹目も襲いかかってくる。今度は気を抜かずに最大限の力で振った。
しかし相手の牙は想像以上に硬く、互いに弾かれるのが現状だった。なるほど、一応あの肉体を狙えって事か...何回か弾いて、相手が地面に足をつけた!今しかない!
「うおあああ!」
俺は1匹に向かって思いっきり刀身を突き刺した。しかし、喜ぶに浸るまもなくラスト1匹がまだ襲ってくる。
(任せろ!)
スミャホルがそう言った途端、ブレードが一度スマホから折れたと思うと再構成され、俺が向きを変えて切り裂くのと同時に相手に命中した。今度はさっきより上手く当たったらしくそのままイヌの首をはねたかと思うと青白く光り、塵になって消滅した。
俺の記念すべき初戦闘は怪我をしたものの勝利で終わった。
「はぁ、はぁ、はぁ...」
考える必要もないくらい息が上がっているのを身体で感じる。
「流石だ!君ならあのバグルスを倒せると思っていたぞ、本当にありがとう!」
スミャホルはスマホから俺にお礼を言った。その時だった。
「ウォォォン!」
鳴き声と共にバァン!という爆発音のような音がしたかと思えば、空間が裂け、さっきの奴らがゾロゾロ出てきた。
「「なっ⁉」」
俺とスミャホルは絶望するしかなかった。2匹でもあんなに手間取ったのにこれだけ出てこられたらもう勝ち目がない。俺は全身から力が抜け、膝から崩れ落ちた。
「しっかりしろ!あきらめてはいけない!」
無理だ...決して言葉でなんとかなるものじゃない。人は絶望すると動かなくなる。特にさっきので使命が終わったと思い、既に普通の人に戻った俺は全身が恐怖と絶望に包まれ、動くことはできなかった。
「..
謎の言葉が聞こえたかと思うと、橙色の炎がイヌを焼き尽くした。すると上から、見知らぬ少女が飛び降りてきた。
背丈的に同年代だろうか、女子にしては高い方だ。残った数匹も現れた少女の拳や蹴りによってあっけなく消滅した。特に最後の一発は相手を吹き飛ばして大きな音を立てた。
少女がこちらを振り向く。改めてみるとボディラインがよくわかるピチピチのスーツを着ているかと思えば、髪は綺麗な橙色で、腕の肘から先は手甲というより、まるで獣の脚だった。人間でいう手のある部分には4本の巨大な爪が生えている。首にオレンジのマフラーをして顔は人だが、俺から見てそれは、ヒーローというより怪物だった。
だが、とりわけ違和感があるのはその顔だった。目こそ橙色だが、容姿からしても人間部分は間違いなく美人だ。しかも既視感を感じる、有名モデルか何かだろうか。こちらが長い間見つめているのに気が付かないはずがなく、相手も途中から見つめ返してきていたが、先に表情が変わったのは少女のほうだった。
少女は数秒考えたあと、こちらにメモを投げてきた。
「それ、私の家書いてあるから、GW中に来て、1日ぐらい空いてるでしょ?」
意味不明だったが、そう言って彼女はどこかにジャンプして跳んで飛んで行った。ふと気づいて見てみると、空間の裂け目は消えていた。
すべてを現実と理解する間もなく、地域住民の人がこちらに駆けつけてきた。
「ゲートは閉じたようだな。おっと、悪いが隠れさせてもらう」
スミャホルはもう一度俺のスマホの中に入った。
幸いなことに地域住民の人からは俺しか見えなかったようで、俺は地域の人に凶暴な野良犬が3匹町に降りてきて、子供を襲ったなど色々説明を終えた末、帰宅することになった。
「一体何だったんだ?」
色々受け止めることができないまま、波乱のGWが始まろうとしている夜だった。
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