第8話

「はわ〜……やっぱり何回見ても、トシさんの着こなしってサイコーだわ……」

「あ、ほんと? 嬉しいなあ、ちゃんとした品物を見慣れたひとに言ってもらえるのはいいことだよね」

「私も、トシさんは着物姿がよくお似合いだと思っておりますよ」

「照れちゃうなあ」

 シルエットの美しいセットアップに適度な高さのパンプス、さりげないアクセサリーで身を飾った葵。普段通り、自慢のスリーピースと手入れの行き届いた革靴、きっちりと撫で付けた乱れのない髪の一木。そしてトシは、父の代から着込まれた大島紬を着流し、組角帯に煙草を忍ばせ、足元はKEENのサンダルで遊びの感覚を忘れない。目を引くのは上物代わりに羽織ったアジアンテイストの大判ショールだ。事務所の上の古着屋――と見せかけていたサクマの居城からピックアップしてきたものだった。

「まさかお洋服たち……ほとんどサクマさんが見せてた幻覚ってのにはめちゃくちゃびっくりしたけど、リアリティのためにちょっとだけ本物混ぜてるってのはなんか、サクマさんのちょっと細かいとこ感じて面白かったなー」

『おもろいてなんやねん! ウケ狙いでやっとんのとちゃうんやで!? 例えるならそう、蜘蛛の巣みたいなモン……』

 葵のカバンから聞こえる流暢な関西弁は三人の他には聞こえない。入れ物こそドロップの缶とはいえ、妖怪にも程近いという怨霊の入っている状態は普通ではないが、三人は平然とそれを取り扱っている。

「そういう細かい伏線がきみらしいよ、サクマさん」

『知ったよーな口を……ハ、鬼子がこうまで丸っこくなっとるんも滑稽な話やがな!』

「なーに強がり言ってんの。結局いまも昔もトシさんには負けてんでしょ? じゃダメじゃん。勝てないじゃん」

『おーおー、おどれら黙って聞いてりゃ好き放題……なんやもういちいちキレる方がアホくさいがな』

 私鉄を乗り継いでしばらく揺られる。休日の昼間に放送される散策番組のように下町を歩く。依頼を受けた顧客の家は住宅街の中にある。

「こちらかな」

「依頼時のお名前、表札とも相違ありません。時間もちょうどです」

「あ、じゃああたし、行っきまーす!」

 インターホンを鳴らし、名刺を持ち、待機。一年足らずで叩き込まれた「営業」のノウハウ。それは店頭であろうと、訪問形式であろうと発揮されるものだった。

「こんにちは! ご依頼いただいておりましたY.T特殊清掃の池之下と申します! 川崎様のお宅で間違いありませんね?」

『……違います』

「え?」

 思いがけない返答だった。表札には確かに「川崎」と書かれている。振り返る葵に、トシも一木も困惑した表情を見せる。自分たちにも表札の名前は「川崎」にしか見えていない。必死な視線がそう訴えている。

 葵は即座に気を取り直して営業モードに入る。

「大変失礼いたしました。お伺いしたいのですが、川崎様のお宅はどちらでしょうか?」

『間違えちゃったのねえ。いいのいいの! ここらへんは似た家が多いから、仕方ないわね。川崎さんのお宅は三丁目よ。暑いのに頑張ってて、どうも、ご苦労様ね!』

「ありがとうございます! 失礼いたします!」

『あらあ、本当に美人さんねえ〜!』

 インターホンの活動時間がきたのか、それ以降声は途切れる。容姿を褒められることには慣れている葵はサッとカメラの範囲から離れると、トシと一木を振り向いて困惑の表情を見せる。

「……」

 三丁目の同じ番地に家は、存在しない。仮称川崎家から歩いて数分の敷地には広々とした売地があるだけだ。

「願いを叶えるミセとかないです? 願いがないから視えてないだけだったり、しない?」

『何の話やねん……ん〜? 何やこれ、ただの空き地やん』

「念の為、売り地の看板に書いてある不動産会社に連絡を……」

 それぞれが動き出す中、トシは空き地を眺めて棒立ち状態だ。観察している最中であることはおそらく二人と一怨霊にしかわからないだろう。

 空き地には簡単にロープが張られており、勝手に足を踏み入れて荒らしたり悪戯されたり等のないよう手配されていた。雑草はこれから勢力を増してくる頃合いかもしれない。まだ背の高い草は生えていなかった。不自然に不毛の箇所もなく、配管が残されているようなこともない。

「うーん、なんだろ。何も感じないけれどね」

「少し前から、ですか……いえあの購入とかではなく! はい、近隣の方から当社に問い合わせがありまして……住所が近く間違えてしまったものですから。え、え、事故物件?」

 一木の言葉にバッ!と反応するトシと葵。カバンの中のドロップ缶もカタンと揺れた。葵がぴょんぴょん跳んで一木から携帯を取り上げようとしていたので上手く話をつないで引き継ぐ。多少駆け引きを伴う対話はほぼ葵に丸投げすることになっている。それはトシも一木もそういった電話が苦手だからという理由も少なからずあるが、確実性というものを求めるならば葵に任せるに越したことはない、という理由でもあった。

「お電話代わりました事務の池之下です。そうなんです清掃の、はい、代行でして。ええ、はい。そうなんですお客様ご住所がどうも頂戴してたのと違っちゃってたみたいで、ええそうなんです、それであのお伺いしたいんですけどもこちらはいつ頃解体とかされ……解体、する予定は、ない」

 一木の顔からさあっと血の気が引く。身の上話にしても物騒なものだが、彼は八年間事故物件に居住していたため物件系の話には敏感になりつつある。

「なるほどー事故物件っていうのも噂が広まっちゃっただけなんですねー、はい、はい、ええ、なるほど。孤独死……ああ〜そうだったんですかあ。広まりやすいですものね、そういったお話って。うんうん、なるほど。あ〜じゃあおそらくは弊社にきた依頼もそういった悪戯かもしれませんわ。ええ本当、困りますわね。どうも失礼いたしました! ええ、はい、失礼いたします〜」

 電話を一木に返し、葵は改めて敷地を振り返る。

「トシさん……サクマさん……」

「うん、視えないね」

『わからんなあ。弱っとるせいやと思うが』

「ううん違うの、これが原因なの」

「え」

 葵が指し示したのは細く垂れ下がったロープだった。

「あのね、四方に囲んでロープ張る意味って、ここにはあると思います?」

「四方を……? ああ確かに、この土地をきっちり四角く囲むみたいになっていますね。ただ、立ち入り防止の名目でしたら前方の開けた箇所だけで良いのでは?」

「でしょ? だからこれ、パッと見そうは思えないけど……」

 トシとサクマ、二人の玄人による「答え合わせ」。

「なるほど、結界だね」

『ほぉ、騒がしいだけの小娘とはちゃうんか』

「池ちゃんはそういうのは詳しいよね」

「一応、それくらいは!」

 葵はロープを見て回っているが、彼女では感知できない程にきっちりと術がかかっているようだった。

「う〜ん、ロープ自体に細工がしてある感じは……ないし」

「何の変哲もないロープですね」

「ええ。撚り方が特殊とか、注連縄の形してるとか、そういうんでもないし」

「じゃ、切っちゃうしかないよね」

「ええ……?」

 指で「ちょきちょき」と手遊びしてはいるが、トシは視線は本気のようだった。

「一木くん、十徳ナイフ持ってるでしょ? 貸してくれるかな」

「アーミーナイフのことですか? あの、それなりに使い込んでますけど、大丈夫ですかね」

「わーっビクトリノックスだあ。さすが一木先輩」

 トシはすっかり閉口してしまった。年代の差は意外なところで大きく発露する。

「私が切りますよ。何が起きるかわかりませんし、わかったとして、皆さんはわかるかもしれませんが私にはわかりませんから」

 自虐か本心かがわかりづらいことを言いながら、一木はナイフをロープの下に据える。くい、と力を込めるが、ロープが切れる様子はない。

「おや……?」

「ナイフ、切れ味悪いですか?」

「いえ、手入れしたばかりですが」

「ああ……やっぱり僕に貸してみて。きっと切れるよ」

「何かコツとか、ご存知なのですか」

「コツはないよ」

 トシは借りたアーミーナイフで粗雑にロープを切った。細い見目に比べてなかなかに抵抗したものだが、それでも、ぷつん、と切れた。

「えっ」

 驚きの声には二つの意味が含まれていた。一木が切れなかったロープをトシが軽く切ってしまったこともそうだが、ロープが切れた瞬間に、まるで掛けていた大きな布を取り払うかのように、古いアパートが現れたからでもあった。

「うん、やっぱりだ。このロープはおそらく、きちんとそういうものへの対処を学んだひとが張った結界だったんだね。ふふ、切っちゃったねえ」

「なんで楽しそうにしてんですかあ! ウッワ! こっち見てるヤツいる! こっち見んな!」

『若造早速カラまれとんな、んなははは』

 一木が一木であるが故に、まったく動じない。一木からすればトシは一木から葉っぱを取るように手を動かしているだけだし、葵は蚊を追い払うように腕を振るっているだけだし、サクマは相変わらず声のみの存在で大きな態度を取るだけだ。

「何かこう……かけたらそういうのが視えるようになるメガネ……とか」

「それ、視界の端に見切れてビビるやつじゃないです?」

「確かにそうですね。取り消します。しかし、何とも普通のアパートですが」

「普通……? めちゃくちゃ古いですよここ……」

 死体が壁に埋まっていた事故物件に住んでいた一木には築30年程度の物件なら「普通」にカテゴライズされる。

「まあ、一木くんからしたら『普通』かもね。建物自体には何もなさそうだし」

「『家の中に何かいるから来て調べてほしい』、でしたね。大家さん、いらっしゃいますでしょうか」

「住んでたりしませんかねー」

 突如出現したアパートにまったく怯むことなく足を踏み入れる三人。カバンの中の怨霊は全員がどこかのネジが外れていることを改めて思い返していた。

「どう調べようかな。部屋の数はそんなに多くないけれど、しらみ潰しってのもなあ」

「鍵もないですしね」

 二人が顎をつまんでいると、葵が相変わらずの悲鳴を上げた。

「おわぁーッ!! 不審者ァ!!」

「彼からしたら僕らのが不審者だけれど……話せそうかい?」

「あっこっち来る。話せるかなあ。すみません、ちょっと大丈夫ですか?」

 一木には二人が虚空に向かって話しかけているようにしか見えないが、葵の視線の高さとトシの視線の高さから「大体175センチくらいの人影がある」という状況にあることを察する。

「あの〜、ここってなんか、封印されてたっぽいんですけど、思い当たる節あります?」

「あ、これ危ないかも、池ちゃんごめんね」

「お?」

 一木には視えないが、葵の腕を引いて前に出たトシがかなり筋の良い裏拳を叩き込んだのは、おそらくは葵の話しかけていた何かが良くないものに変質したのだろう。

「ウッワ! びっくりしたあ」

「いやはや、ごめんよ。こっちのが早かったからね」

『ダボカス。自衛くらいせんかい』

「大丈夫だもん! いざとなったら伝家の宝刀・池ビンタがあるもん!」

「いまのは?」

 アーミーナイフを念のため胸ポケットにしまい、一木は首を傾げている。慣れてきたものではあるが、やはり一人だけ視えていない状況は情報伝達の面で不便である。

「普通のひとかと思ったんだけれどねえ。池ちゃんの目の前に来たらこう、ぐわ〜っと口が広がったから」

「生きてるか死んでるかよくわかんないの、めんどくさいなー。あ、また誰かいる! すみませーん! ここに住んでらっしゃる方ですか?」

「あ、待って待って、あれもだめだ、住んでるひとじゃない」

 果敢に、と表現するか、無謀に、と表現するかはそれぞれかもしれないが、葵はさっさと動いてしまう。葵よりはまだ見分けのつけられるトシはそれを追いかけては空中に拳を突き出す。

「ちょっと変じゃないですか?」

「変? きみの平常心レベルのこと?」

「ちーがーいーまーすー! ここのオバケのこと! なんか、あたしに寄ってきてませんか? こういうのって一木先輩の体質じゃないですか」

 一木も一木で寄られてはいる、という姿に関しては二人とも視えている。が、葵に向かって来たものに比べれば小さな葉くらいの大きさで、取り払ってしまえば追っても来れないような程度だ。葵の指摘通り、ここに集まっているものたちはやけに葵だけに近づいてくる。

「話せたりすればいいんですけど。だって、話すより前に実害出しにくるんだもん。話そうにも話せない!」

「もし……うちのアパートに、何かご用ですか」

「!」

 いつの間にか、敷地内、それも三人の背後に、誰かが立っていた。振り返ると気弱そうな青年が立っていた。身長だけなら立派だが、猫背と長い前髪がそれを打ち消してしまう。

「あ……あ、えっと、大家さん、です……? それとも、あの、ご依頼主さん……? 申し遅れました、私どもはY.T特殊清掃の者です」

「ああ! よかった、助かりました! お時間通りに来ていただいて、ありがとうございます!」

 青年の顔はぱあっと明るくなり、猫背もしゃんと直る。余程待ちわびていたのか、わずかに涙目ですらある。

「本当、大変で! あの、早速なのですが、一部屋ずつ見ていただけますか」

「い、いいですけど、大丈夫です? 何が起きたとか、そういう詳しいお話とかって……」

「見ていただければわかりますから!」

「え、ちょっ……!」

 青年は葵の手を掴むと、101号室に連れ込んだ。トシにも一木にも止める隙もないほどに素早い動きで、二人の頬に冷たい汗が伝う。

「……」

 ドアノブを捻るが、やはり、開かなかった。



「女だァ……!」

「……」

 壁に追い詰められた葵。青年との身長差は頭一つ分以上にある。

 それ以上に気にかかるのが、ワンルームの中央に積み重なった女の身体の数々だった。皆一様に薄着で、裸のものも少なくない。指先一本さえ動かず、距離的には生死はおろか「生者」か「死者」かの違いもわからない。


 だから、あたしだったのね。


「ヒヒ、上玉だなあ……! キツめの美人かあ……! 目がデカくてよお、身体は小さくて抱き心地が良さそうだなあ……!」

「……」

「……胸は小せェけど、妥協するかなあ……」

「言ったな? なあおい手前よォ、言ったな? ついに言いやがったな」

 普段のどんな態度からも出てこない、ドスの効いた低い声。葵はサクマの入ったカバンを肩から下ろし、その腕で青年の胸倉を掴み上げた。ごく自然な、しかし普通とはかけ離れた力でギリギリと青年の首は絞まってゆく。

「ぐ、げ」

「言いやがったなァーッあたしのコンプレックスってやつをよォーッ」

「動、け、ね……」

「言いやがったなァコンチクショウがよォーッ!!」

 サクマは何も言わない。キリキリキリ……と弓を引くように後ろに下がってゆく葵の右手がこの後どうなるかわからないわけではなかったが、ここで口を出して止めても面白いことは起こらないと知っていたし、むしろこのまま葵の平手が振り抜かれる方が何より面白いことになるとわかっていた。自分でも知らないうちに、サクマは心から楽しそうに笑っている。

「ひと様の身体を……とやかく言うんじゃ、あ、なーーーいッッッ!!」

 超至近距離での落雷。そんなような音がして、鍵は開いた。



「結論から言うとアレは『ゴミ捨て場』だね」

「確かにゴミクズ野朗でした!」

「いやそういう意味じゃなくてね」

 無傷どころかすべてを終わらせて出てきたことに対しては疑問は抱いていない二人であったが、一時的に(自力で解決してきたとはいえ)不埒な男と二人きりにさせてしまったことを、まずは詫びた。本人は合法的に暴力を振るうことのできる良い機会であったと晴れやかな顔ですらあったが。

「霊的な用法での言葉を指しているのですよね?」

「そう、そっちね。そんな難しい話じゃなくてさ。たぶん、あの結界張ったひともきちんと依頼受けてやったんだと思うな。あくまで推測に過ぎないけれど……」

 残されていた痕跡から紐解くトシの見解はこうであった。

 まず、あのアパートで実際に孤独死が発生した。その無念に引き寄せられた弱い存在がアパートを拠り所とした結果、曰く付きの事故物件としての扱いが強まってしまい、本来の管理者である「川崎」はこれを管理していることを隠していた。管理会社にやり取りを一任し、万が一問い合わせがあったとしても、知らぬ存ぜぬを貫き通すのだ。

 しかし放っておけばおくほど弱い存在であろうとも集まり続けて数が増えれば影響を出す。そこで、とある霊能力者に依頼したところ、まずは結界を張る措置が取られた。結界を張った以上は余程のことがない限り、中のものが外に出ることはできない。

「余程結界の力に自信があったんだと思う。実際、市販のロープを使っていたのにナイフで切れなかった。僕が手を出してそれでも時間がかかったね。実際、すごいひとだとは思うんだ。けれど、それを利用してあそこを掃き溜めにしてしまったのは僕には疑問だ」

「掃き溜め、ですか……池之下さんに危害を加えようとしたということは、女性に対して悪意のある行為をはたらこうとするような、そんな存在をあの場に投げ込んでいた、と、そういうことなのですか?」

「うん。だからゴミ捨て場。あれだけ術ってものに長けたひとがわざわざやるってことはきっと何か別のことに使えると思ってのことかもしれないけれど、僕みたいなのがロープを切るとは思わなかったんだろうね。それから補足すると、あそこにいたのはたぶん、女性限定のヤツらじゃない」

 葵が首を傾げた。自分の目で見た事実としては、女性ばかりが標的にされた形跡があったと思ったからだ。トシは大きなため息をついた。

「たぶん、誰でもいいんだよ。自分たちより弱ければ、誰でも、何でも、ね」

「やっぱ、ゴミクズですね!」

 爽やかな笑顔で両手を握りしめる葵に同意すべきか否かを苦笑いでごまかしているトシに、一木は教員に質問する生徒のように小さく挙手した。

「何か別のことって、具体的には何ですか? 池之下さんの本にあった『蠱毒』みたいなものですか」

「近いね。あれって要するに、強い憎悪の煮凝りを呪いの材料にするってことだから。負のエネルギーって溜まりやすいし、集めるのにもそんなに苦労しないんだと思う」

「ロープの状態もそんな古くなかったですし、割と最近あれを作って、で、あんなのがいたんでしょ? 結構ポイポイ捨ててたんですかねー」

「でも、その分ね、すごく持て余す。扱うのがすごく難しいんだよ。サクマさんも一応あっち側の存在だけれど会話が成立するだけマシだ」

『ワシはそんじょそこらの低級とは違ってのう、マジモンの大怨霊様なんじゃあ』

 すっかり興味の失せたようなサクマの声が缶から聞こえてくる。やや鼻の詰まったように聞こえるのは缶の中で鼻をほじっているからだろうかというように思える。

「でも、まあ、そうはいってもビンタで消える程度のヤツだったんだよ。いや池ちゃんが強すぎただけかな」

「伝家の宝刀ですから! 懐かしいなあ、パパがせっかくの手作り弁当忘れまくるモンだからいい加減ブチ切れたママがとうとう手を上げたのも右ビンタだったし……なんだかんだでパパが酔っ払い仕留めたのも右ビンタだったし」

 伝家の宝刀でキャンディ缶に封印されるまでに至ったサクマはすっかり何も言えなくなってしまっていた。

「でも危ないからね、ちゃんとそこらへんは、僕とか一木くんに任せるんだよ」

「そうですよ。ああでも、万が一のときのための素振りはお教えできますが」

『これより威力上げてどないすんねん!』

 唯一その重みを知るサクマが缶の中から罵声を上げる。




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