第1話 ゲームスタート!

 科学の進歩というものは、本当に偉大だと思う。


 脳ミソだけになっても、プレイできるVRゲームがあるのだから。


『ヒュペルボリア・クエスト』。


『生前』に専用のブレインマシンインターフェースを購入し、届け出を出しておけば、『収容』されてからも接続してもらうことが可能だ。


 脳に直接、BMIを繋ぐため、没入感や臨場感は、生身で体感するのと段違いに高いという。


 その分脳に負担がかかることと、ソロプレイ専用なのがネックらしいが、やり過ぎる前に、数時間ごとに係員が接続を外してくれるし、俺友だちいないし。プレイする上で支障はない。


 ということで、早速マシンが接続されたらしく、ジジ、という電子音が一瞬鳴ると―――


「ようこそ、ヒュペルボリア・クエストの世界へ」


 目の前に―――つまり、脳の視覚野に、石造りの、神殿のような空間と、その中央で諸手を広げる羽の生えた女の映像が描き出される。


 その質感はかなりリアルで、まだ遠い女のほうに、思わず手を伸ばすと―――確かな感覚と共に、俺の両手が、視界の中で空を掴んだ。


「ああ、ちゃんとある……」


 俺は手で顔を触り、体を触り、下を見下ろすと―――しっかり、俺の足が、胴が、体が、暖かな感触を主張していた。


「おおおおお!すげえ!ちゃんとあるよ……ホンモノみたいだ……!」


 ……裸だけど。そんな俺に、トーガを纏った天使が語りかける。


「勇者よ、新しき体を得ましたね。さあこちらにお出でなさい。再誕の儀式を施しましょう」


 と、同時に、頭の中に直接テキストメッセージが表示される。


《これは、チュートリアルメッセージです。プレイヤー(つまり、あなたです!)がゲームの中で路頭に迷ってしまわないよう、サポートする便利な機能です。さあ、まずは天使と対話し、ゲームを始める準備をしましょう。……どうやって歩き、話せばいいのかって?このゲームは、プレイヤーの脳波を感知します―――つまり、現実世界であなたがそうするように『しよう』と思えば、再現することができます!》


 天使の声は、聞こえる―――つまり聴覚野を刺激するようだが、チュートリアルメッセは信号として受信されるらしい。不思議な感覚だ……


 俺は言われた通り、『そうするように』歩いてみた。裸足の足の裏が、ごつごつした石畳を捉え、蹴り出す、この感覚―――!


 俺は涙ぐみさえしながら、天使のもとへ歩いて行った。


「新しい体は、問題なく動かせるようですね。さあ、勇者よ。これを受け取りなさい」


《紫崎晴は、『ステータスカード』を手に入れた》


 おお!ティロリロリン!という軽快な効果音とともに、天使は俺にA6ほどの大きさの、金属質のプレートを手渡してきた。


 それを受け取ると、チュートリアルと同じ方式のナレーションが頭の中で流れる。


 そして、頭上からきらきらと黄金の光が降り注ぎ―――つるりとしていたカードの表面に、焼き込まれるように文字が刻まれていく。


「これで、あなたはこの世界を冒険していく力を得ました。今、そのカードに刻まれたものが、あなたの新しい体の情報となります」


 つまり、初期ステータスということか!俺は、ワクワクしながら、カードの文字を覗き込んだ―――


【ステータス:紫崎晴】



 HP 22

 SP 15


 物攻 12

 物防 7

 俊敏 8

 精密 8

 知力 9→魔攻9

     →魔防9

 精神 6

 持続 8


 スキルスロット【】【】【】【】【】【】



「……これって、どういう基準で割り振られてます?」


《はい。現実の人物像に倣った配分になります》


 と、チュートリアルは言うが……


 うーん……これ、ゲームの仕様としてはどうなんだろう。ステ配分は完全にランダムで、好きな系統を選べはしないようだ。


 ―――物理系は、攻撃力こそ高いが、防御力とは五ポイントも差がある。防御力もステータス平均よりやや低めくらいだから、とんでもなく脆いということはなさそうだが、序盤からタンク系で安定して立ち回れるわけではなさそうだ。


 高い物理攻撃を軸にしたいところだが、俊敏は決して高くないので、速攻系も視野には入れど、実現するのは少し先の話だろう。


 痒いところに手が届いていない感じだなあ。せめて魔力系から二、三ポイント物防に引っぱってこれないものか。


《この世界では、基本的に初期ステータスは変動しません。装備とスキルの補正、それからイベントやクエストをこなすことで割り振りポイントが得られることがあります。【信仰】或いは【冒涜】のスキルを入手することで、『奇跡』の隠しステータスが開示されますが、これに割り振りはできず、イベントでの増減のみとなっております。スキルは、各種イベントの他、各所のショップで売られている『スキルの書』を買うことで習得することができます》


 チュートリアルが言う。つまり、ステータスの振り直しもできなければ、序盤からバンバン敵を倒してレベルアップもできないわけか。戦うかどうかの立ち回りを覚えないと、すぐにゲームオーバーになってしまいそうな……マゾゲーの臭いがプンプンするぞ。


「それでは、餞別を」


《紫崎晴はスキル【炎撃】【エンチャント炎】【炎快】を修得した》


 天使は、白い腕を俺の頭にかざし、再び黄金の光に包まれた。それで、いくつかのスキルが与えられたらしい。


 が……なんか炎系に偏ってるな。俺はステータスカードで、それぞれの効果を確認した。餞別ってくらいだから、チート性能でもいい気がするが、どれも名前が初期クラスっぽいんだよなあ。


【炎撃】[SPを消費して、炎の塊を放出する。魔攻+3]

【エンチャント炎】[SPを消費して、一分間武器に炎を纏わせる。その際、物攻+5。デフォルトで知力+1]

【炎快】[SPを消費して、状態異常を回復。三秒間、徐々にHPを微回復。魔防+3]


 なるほど。まんま初期スキルだな。エンチャントで物攻を上げられるようだが、他の補正は魔力に偏っているし……


 チートで近道はできないというわけか。これは地道にクエストをこなして、ステ振り・スキルとも充実させていくしかなさそうだ。


「それでは、剣と魔法の世界へ。いってらっしゃいませ、紫崎さま」


 天使が言い、その手をこちらにかざすと、俺の視界を、真っ白な光が包んでいった―――


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