ハロー!異世界~VRゲームに興じるはずが、邪神に導かれて異世界転生!?~
赤夏デンデロデロリアン
プロローグ
ぶっちゃけ言うと、俺はヒキニートだ。
いわゆる、こども部屋おじさん、その予備軍。
陽がな一日ソロゲーに興じ、腹が減ったらキッチンを物色して、即席麺にお湯を注ぐ。
笑ってしまうくらい、それだけで終始する、変わり映えのない日々の繰り返し。
親はもう何も言わないし、一応通っていることになっている通信制高校は、レポートの催促や、相談室の案内を送ってこなくなった。
たまに、隣家の幼馴染が連絡をくれる。各々スマホを買ってもらうまで、友人たちの連絡手段だった、もう誰も使っていないPCチャットで。
『お別れ会、もう他のみんなは済ませたよ』
たったそれだけの、短いメッセージ。
“アンタは、いつやるの?”
そういう、言外の含みを持った、俺にとっては死刑宣告にも等しい一言。
死ぬのが決まってる人間に対して、そんなバカなことなんでやる?
2035年、世界はちょっと狂い始めていた。化石燃料は思ったより早くなくなりそうで、産業が微衰退。AIも、順調に人間の仕事を奪っていった。
中流以下の家庭は収入が減り、出生率が輪をかけて下がったのにも関わらず、科学と医療の進歩は、平均寿命を押し上げ続けている。
大抵の人間は、例え心臓が潰れても、臓器移植と再生医療で生き延びられるようになった。傷病がきっかけで死ぬということは、もう過去のことになったのだ。
そこでぶつかったのは、今の四十代以上の大人たちの世代が重篤な病気になったとき、臓器移植のドナーが圧倒的に足りないということ。
そして結局、子どもを守りたいと思う親よりも、自分が死にたくないという大人のほうが『力』が強かった。
今では、年に一万人の中高生が死ぬ。いや、死ぬかどうか選べる。内臓を抜き取られ、寿命が尽きるまで生命維持装置と人工心臓に繋がれて、血管に直接栄養剤を流し込まれて生きるか。
そして、内臓の他、眼球、骨髄、筋繊維や神経系に至るまで、体のすべてを失った挙句、倫理的な観点からそこだけは残される脳ミソだけになって、薬液の中で幸せな夢を見続けるか―――
選ばれる子供は、完全に無作為に抽出され、『執行』には一年間の猶予がある。その間は、提供する臓器によって、『補助費』が支給される。
死んでるか生きてるかわからないアンタのことなんか見たくないから―――そう言っていた親の為に、俺は脳ミソ以外の『全摘』を選択したが、いざ金が振り込まれるようになると、あいつはろくに帰ってこなくもなった。
たまに食料品を買い込んで置いていくが、すぐにどこかへ『帰って』行ってしまう。
……中学の時、俺のクラスでは、他に三人の『ドナー』が選ばれたが、クラスメイトも、教師も、冷凍保存されて将来自分の中に入るかもしれない彼らのことを、持て囃し、励まして、それまでと変わらない日常を送らせてやっていた。
それから11ヶ月後。狂った世界から逃げ出したのは、俺だけだった。
あとひと月で、俺は肉体を殺されて、脳ミソだけの生き物に生まれ変わる。
その前に、昔の知り合いが『お別れ会』を開いてくれるという。笑顔でバイバイを言い合えれば、生き残ったやつらも、罪悪感を抱かずに済むから。
「あーあ!死にたくねえー!」
お隣さんがどんどん壁を叩いてくるが、そんなことはどうでもいい。
だってもう俺、死ぬんだし。
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