第9話


三笠と一緒にドラマの撮影が行われる現場へはいる。

周りにいるスタッフへ挨拶をしながら三笠が監督と言っていた中年位の男に駆け寄る。

「話は三笠君から聞いている。私がこの作品の監督で藤堂靖だ」

「葛島奏です。よろしくお願いします。藤堂監督」

「こちらこそよろしく頼む。今回は無理を言ってすまんな」

「いえ、事情はある程度三笠から聞いていますから」

「そうか。そう言ってくれるとありがたい。これが葛島君の台本だ」

藤堂監督から台本を受け取る。

「監督、配置これでいいっすかっ!」

「そっちじゃない。すまないが細かいことは三笠君に聞いてくれ」

「わかりました」

暇そうにしている三笠の所へ向かう。

「からかいに来たの?」

「安心しろ、俺もおひとり様だ」

「誰がボッチよっ!どこにも安心要素ないわっ!」

「誰もまだボッチって言ってないだろ」

「まだってことは言うつもりあったのねっ!」

「いや・・・ない」

「え?今の間なに?」

「冗談だ」

「どれに対しての冗談なの?ねぇってば」

「ところであれは何してんだ?」

モデル誌とかでよく見る今ドラマでもかなり出てる青年が若い女性のメイクさんと話している。

(空気も少し悪い)

「あー、神崎くんね。彼は特別なの」

「へぇ」

「突然ごめんなさい。私は三笠のマネージャーで遠月花蓮、貴方が奏くんかぁ。聞いていた話より美形ね」

「俺は葛島奏です。それで特別っていうのは?」

「彼の演技は三笠やあなたに比べれば三流以下で見れたものじゃない。普通に考えれば主演どころか助演すら論外。けど彼の父親が有名な監督の神崎透だからみんな関係を持ちたいのよ」

「そういうことか」

「うちの事務所も人のこと言えた義理じゃないけどね」

スタッフの女性は嫌な顔をしているが断ることすら出来ないのはそういうことなのだろう。

決して珍しいことでは無い。

子役の時に何度か見た場面だ。

「奏くん、会ってばかりなのにこういうこと言うのはあれなんだけど私になにかあったら三笠のことお願いね」

と耳元で三笠に聞こえないようそう伝えてきた。

何かというのは恐らく「うちの事務所も人のこと言えた義理じゃないんだけどね」という言葉と関係しているんだろう。

「分かりました」

「ありがとう」

「二人で何の話?」

「お前が良くも悪くも純粋でチョロいから心配だって話」

「なっ!チョロくないわよっ!」

「大丈夫、三笠はそのチョロさが可愛いから。

「花蓮まで何言ってるのよっ!」

(ここまで仲のいいマネージャーと女優を見るのは母さん以来だな)

「はいはい」

と遠月さんが三笠の頭を撫でる。

まるで姉妹のよう仲の良さに少し羨ましくも感じる。

俺と楓、郁は母の事件以来微妙に距離がある。


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