第5話

二年が経ち、[IRY]の人気度もかなりのものとなった。

出したアルバムのほとんどが発売当日即完売となっている。

オリコンも二年連続一位で海外人気も出てきた。

今日はそのお祝いとして甘木ゆいさんと家族四人での旅行だ。

お母さんはカツラとメイクで変装していてバレないようにする。

「千里さん、くれぐれも歌ったりカツラを外したリしないようにしてください」

と専属マネージャーの田沼さんが言う。

「分かってるって」

「マネさん、千里は私が監視しておくから安心して」

「よろしくお願いします、ゆいさん」

「信用されてないなぁ、私」

ゆいさんの運転する車で着いたはお母さんの友達の天郷という人の別荘らしい。

二年前にできたばかりということもあり綺麗な別荘だ。

周りには透き通るような水色の海が広がっていた。

「綺麗」

「ママ、遊びたい〜」

「待ってね。まず荷物を置きに行かないと」

「やだやだやだやだやだやだぁっ!遊びたい遊びたい遊びたいっ!」

楓が駄々を捏ね始めた。

こうなったら楓の説得は期待できない。

「千里、荷物は私が置いてくるから遊んできていいよ」

「ありがとう、ゆい」

お母さんは楓と一緒に砂浜へ行った。

自分はゆいさんと眠っている郁で別荘の中へはいる。

「奏くんは遊びに行かないの?」

「じっとしている方が僕は好きなので」

鞄から愛読しているライトノベルを取り出す。

「あ、それって異能学院だよね?」

異能学院は風弥文庫から刊行されているライトノベルで結構面白いと有名。

「知ってるんですか?」

「うん、私も好きなんだよね。その作品。こんな身近に同じ作品読んでる人がいるなんて思いもしなかった」

「僕もです」

「私はエルちゃんが好きかな。なんかこうどことなく千里に似てる」

「それは分かります。見た目は美味しそうなのに食べたら美味しくないご飯を作るところとか人の見えないところで努力しているところがよく似てますよね」

「うんうん。そうなんだよね」

時間を忘れて二人で話しているといつの間にか二時間くらい経っていた。

「いつの間に奏とそんな仲良くなったの?ゆい」

「たまたま同じ本読んでてそれで意気投合しちゃって」

「ま、まさか奏のお嫁さんを狙ってるの!?」

「なんでそうなるのよ。そういうつもりは無いから」

眠気に勝てずそのまま目を閉じた。

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