第4話

自分には前世の記憶がある。

それは決して楽しいとか幸せとかそういうものでは無かった。

母親に愛情などなくあったのはきっと憎悪に似た何かだろう。

父親は生まれた時には家にいず別の家庭にいた。

それは所謂、不倫というものだ。

きっと自分の顔が父親似だったから母は憎悪を抱いていたのだと思う。

母はよくホストに通っていてほとんど家には帰ってこなかった。

当然ご飯にありつけるのは母が上機嫌な時くらいだ。

それ以外の時は水道水と砂糖で腹を膨らませていた。

しかしそんな日々はずっと続かなかった。

父親が帰ってきたと思えば母親を一晩中殴り続けた。

理由は母が相手の女性に全てを打ち明けたからだ。

結果父親は離婚を突きつけられた。

その腹いせに母を殴り続けた。

父親が部屋からようやく出ていき母に駆け寄ってきて一言呟いた。

「こんなダメな母でごめんね」

例えどれだけホストに尽くす母でもたまに見せる母親のような行動を好いていたんだと思う。

母は痛いであろう身体を必死に動かし化粧台の棚から財布を取りだし一万円を手渡してきた。

「これで美味しいご飯を買ってきなさい」

そう言われ近所のスーパーで母と自分の弁当を買って帰ってくると母は首を吊って死んでいた。

その後警察に保護され施設へ入りカウンセリングを受けたが誰一人として母を良く言っていなかった。

傍から見れば母は良い親ではなかったんだと思う。

けどそれでも自分にとって母は必死に生きようとしていたと思っていた。

周りの大人たちの同情するような目に耐えきれず屋上から身を投げた。

人はきっと言うだろう生きていればいいことがあるのだと。

頑張っていればいつか報われると。

人の心というものはそんなにも頑丈じゃない。

何気ないたった一つの言葉で簡単に枝のように折れてしまうものなのだ。

心の折れた人には生きる指針が生きていいのだと思える理由が必要でなければ生きていることに意味が見いだせない。

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