第9話
抑えられない衝動と隠す苛立ちが交互に入れ替わる。二人ソファーにすわりテレビを見ている。雅はほろ酔いでニコニコしている。私の気持ちも知らないくせに。と思いながらも私の手は震えている。足の震えも無理やり抑えている。こんなにそばにいるのに手に入らないものなんて、神は本当に意地悪だ。そんなことを思っていたら
「!!!!!!?」
雅がもたれかかってきて眠り始めた。「あぁ、どうすりゃいいんだよ。これは本当にもう...」と思いながらも理性で抑えながらしばらくそのままにした。
終電の時間が近づいたので雅をソファーに寝かせ、そばにあったブランケットをかけた。「そういえばピッチってPメールがあったよな。雅はピッチ持ってるんだろうか?番号とPメール使えるかどうかを紙に書いて置いておこう。」と置手紙をして倉敷駅に向かった。
家に帰りREBECCAのフレンズ状態だった。嬉しいのか恥ずかしいのかどことなく罪を犯したような感じだった。自室でベッドに寝っ転がり「はぁ。」と深くため息をつき、顔を枕に押し付けそのまま眠ってしまった。
あれから幾度とおおせを重ねた。結局、雅はピッチは持っておらず、直接会うことだけが手段となった。そして勉強は全く手につかなった。ただ毎週水曜日だけが待ち遠しく、それだけが楽しみで長い一週間と短い1日を過ごした。とある水曜日に雅が
「(今度の日曜日、休みなんだけどどこか旅行いかない?)」というので
「(行先は?)」と聞くと
「(その時決めよう!)」
「(いいね、それ!)」
私は行き当たりばったりの旅は好きだ。以前、呉野と共に福山まで旅したことがある。これは時効にしてもらいたいが、広島の福山に電車で行き、つまらないので福山からの帰りに自転車を盗んで倉敷まで帰った。途中に自転車が壊れ、トラックの後ろになんか掴めそうなところがあるので赤信号でトラックを止め、そこに掴まって数キロメートル乗って帰ったことがある。
そして日曜日に倉敷駅で待ち合わせた。彼女は全身ヒステリックグラマーの服。スプリングパーカーにTシャツ。ジーンズのスカートにマーチンの靴。彼女のダボっとした服装がとても可愛らしかった。そしてバッグもヒステリックグラマー。私はというとABAHOUSEのシャツとパンツ、ISSEI MIYAKEのシューズだった。なんとも凸凹なカップルだ。
「(倉敷駅からじゃいまいち行くところがないから岡山駅まででない?)」と雅がいう。
「(それじゃそうしよう。)」と私。
四月の上旬である。電車からはあちこちで桜のある風景が映る。倉敷岡山間では割と田舎道だ。まぁ、岡山県自体が田舎だが。電車のなかでは特に話すこともなく淡々と電車が駅まで着くのを待った。
岡山駅まで来て、
「(次どうする?)」と私。
優柔不断な私にとって引っ張ってくれる雅はありがたい。
「(あれなんて読むのかな亀甲『きっこう』?)」と雅。
「(なんだろね?なんか面白そうだから行ってみよう!)」と私。
そう言って切符を買い、電車へと乗り込んだ。
私は横に人がいると(特に左)神経症が出るのだが雅と一緒だと何故か出ない。だからこうして電車の座席に座ってても全然気にならなかった。
「(なんだか私達逃避行してるみたいだね。このままどこまでも遠くにいけたらいいな...)」と雅。
「(うん...。そうだね...。)」と雅の手を強く握った。
本当にこの二人の旅がどこまでも続くような気がした。そんなに遠くな距離ではなかったが、二人の世界とは俗に言う永遠の刹那というものか。
とそんな中、高校生ぐらいのカップルが
「あの二人全然しゃべってなくね?たまに身振り手振りしてるけど、耳が聞こえない人なのかな?」と。
「『あぁ、そうだった!私達の会話は全部脳内での会話だった!周りからすると奇妙かもしれない!』」
そう思うと雅が
「(気にすることないよ。そんな不条理なことなどを全て含めて自分として飲み込まないと自分を保てないよ?それよりせっかくの逃避行の雰囲気が台無しだねw)」
「(確かに。雅は大人だね。...。てゆーか、あの二人の話聞こえたの?)」と私
「(駿を通して聞こえるものは私にも聞こえるのよw)」と雅。
「『なんだかよく分からないな。テレパシーというものは...』」
そうこうしているうちに
「次はかめのこう、かめのこう」
というアナウンスが流れた。
「(あれってきっこうじゃなくてかめのこうなんだね!」と私が言って二人が
「あははは!」と笑った。
「(でもこの駅、カメの形になってるね!カメの目は時計になってるよ!可愛い!)」と雅
「(確かに面白いね!でもここには他には何もなさそうだね。もうちょっと先の方まで進んでみようか?)」と私
「(そうだね。)」と雅が言って、終点の津山まで行くことにした。
to be continued.
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