デート
「デートに行きたいんだ」
そう告げた彼の表情は、緊張からかやや強張っていた。
「どこに行くつもりなの?」
私は平静を取り繕いつつ尋ねる。
「水族館とか、映画館とか……そうだなあ、行きたい場所はたくさんあるかな」
「あなたの行きたい場所で良いんじゃないかな」
「でも、なかなか候補が絞れないんだ」
「まあ、そうよね、初デートだし、悩むわね」
相槌を打ちつつ私が頷く。
彼はしばし黙り込んだ後、ふとなにか思いついたかのように顔を上げた。
「じゃあ、君はどこに行きたい?」
「え、私に聞くの? ううん、そうだなあ……映画館よりは、遊園地のほうが好きかな」
「へえ、そうなのか」
彼が瞬く。
私はうんと頷いて、少し呆れ気味に彼を見つめると、
「……けど、恋人とのデート先を、幼なじみに聞くのはよくないと思うよ」
私は最初から気になっていた疑問を口にして、なるべく穏やかに諭した。
すると彼は、困ったように笑って頬を掻く。
「まあ、そうだよね。彼女の双子の妹だから、てっきり好みも合うと思って相談したんだけど」
「それ、なかなか失礼よね。……一応、姉のためにも協力はしてあげるわ」
ため息まじりに私が呟く。姉の彼氏は、あいも変わらず優柔不断だった。
……そうして相談を重ねた末に、デート先は遊園地となったという。
丸一日遊園地で遊んだ後日、姉は「映画のほうが良かった」と、こっそり私に打ち明けたのだった。骨折り損である。
いつかの短編集 明日朝 @asaiki73
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