音色

 笛の音がして振り返ったら、小学生くらいの少女がランドセルを背にリコーダーを奏でていた。

 なんの曲かわからずに首を捻っていると、少女と目が合う。途端に少しだけ、気まずくなった。


「あ……えっと、上手だね。その曲……なんていうの?」

 無言を突き通す勇気もないため、私が先に喋りかける。少女は答える代わりに、ピロリロとリコーダーを鳴らした。


「あっ、ごめんね。突然話しかけちゃって」

 私が半歩下がって謝る。少女はリコーダーを口から離して、私を見上げると、

「……この曲、知らないの?」


 たどたどしい手付きで、少女がメロディーのワンフレーズを奏でてみせた。私は首を傾げつつ、少女の演奏に耳を傾ける。

 微かに、ぼんやりと聞き覚えがあった。けれどそれは流行りの曲なんかではなく、もっと昔に聞いたような気がして、なんだか違和感を覚えてしまう。

 それも、音楽として聞いたわけではなく、そう、他愛のない日常の只中でふと響いたような……、


「これね、私が死ぬ直前に流れてた曲なの」


 音色が途切れる。

 瞬間、びゅうっと吹き付けてきた強風に髪が乱れ、思わず目を瞑った。

 そして次に目を開けた時には、目の前佇んでいたはずの少女の姿はどこにもなかった。


「……ああ、そうだ。やっぱりこの音色は」

 呆然と立ち尽くして、私がそろそろと視線をずらす。

 目を向けた先には、踏切があった。

 そして、その向かう先にあるのは──駅のホーム。


 少女が奏でた音色が、やがて遠くから鳴りわたった。

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