待つ人
さながら忠犬のようである。
待てと言われたからこの場に留まっている、それだけのことが、何故だか酷く虚しく思えた。
いつ訪れるかもわからない相手。空白を切り取ったような虚ろな時間がただ流れている。廃れた駅にて、私は特に何をするわけでもなく、待ち人が来るまでの間、ぼうっと突っ立っていた。息が白み、夜風が頬を撫ぜる。
──待て、動くな、待て。これがしつけられた犬であったなら、疑念の一つも浮かばずにいつ来るかもわからぬ相手を待つのみだと思う。だが私は人間だ。それもかなり疑り深い部類の、人の子だ。
「……淡い期待は、抱くだけ無駄ね」
私の口から溢れた言葉は、果たして本心だろうか、それとも。私の思考ごときでは判別できない。
ただ、「待つ」という行為そのものを、私はさほど嫌悪してはいなかった。だからなおのこと、自分が嫌になって仕方がない。
あるいは、それは、盲目的な恋にも似ているようだな──と、私は力なく、声を上げて笑った。
電車が駅を通過する。冷えた風が落ち葉を舞い上げ、私の横を過ぎていく。
待ち人は、まだ来ない。
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