昭和と令和の先の交差点
うまやはら こうたろう
第1話 たばこ
横浜駅改札前
「す~っふ~っつっ!」たばこの立ち上る煙が目に入り染みる。
目をこすっていると、
ガタンゴトン。ガタンゴトン。
のらりくらりと歩いていると、いつもの電車は私のアパート方面へ先に帰ってしまった。
「まあいいか~次に乗ろう」
カツカツ。疲れを隠せないヒールで歩みを進め、少し先に見える時刻表を確認する。
駅員に定期券を見せ改札に入り、ホームに到着した後、
いの一番に味気ない椅子に腰かける。
タバコを右手から離し、口でくわえる。
両手を自由にした状態でむくんだ足をもみほぐす。
「は~」というため息とともに、たばこの煙はもくもくと大きくなり、空に向かう。
チラホラいる野郎供も大きな煙を空に放つ。
実にこの時代は夜空に舞っていく煙のように曇りがかっている。
つまり、世知辛い。特に私のようなOLには。
実際は、過去から遡れば、恵まれている方だ。
戦争はないのだから。普通に生きているだけで有難いのだ。
だが、もっともっとと私だけでなく多くの人間は恵まれることを渇望している。
この時代に女として生まれたことに後悔している人も多いのではないだろうか。
せめて、このたばこの先のように小さな明かりがあれば、、、
そんな淡い期待を打ち消すように明かりをガタガタのヒールで押しつぶした。
毎日帰りは夜中だ。
華金の前日ということもあり、疲労もあったのだろう。
私は、椅子で眠りについてしまった。
「お姉さん、朝ですよ!起きてください!」駅員だろうか?
また終電を過ぎるまで寝てしまったのか、情けない。
そう思い、目を開けた瞬間驚きの光景が広がった。
起こしたのは紛れもなく目の前にいるロボットだった。
しかし、私の知っている最近人気になった猫型ロボットとは大きく違う。それの劣化版と言えば分かりやすいだろうか。
「まずお姉さん?であってますか?」ロボットは間違いなく私の目を見て話しかけてきている。
「あ、はい、、え、というよりここどこ!?」
「よかった、間違えるとアレに見つかって廃棄されてしまいますから。」
「いや、だから、ここはどこなのよ!?」
「どこっって、ここは横浜ですよ!」
そんなはずはない。私は横浜駅のホームにいたはずだ。周りはビルだらけのはず。
だが、現実は公園のような広場に代わり、沢山の緑が眼前に広がる。
「そんなばかな!アニメの世界だけじゃないの!タイムスリップとかいうやつ!」
「え、、何を言ってるんですか。まだ研究段階ですよ、それは。というよりお姉さん不思議な恰好ですね。それに怪しい匂いがしますが、、」もう一旦この状況を受け入れるしかない。それに夢の可能性が高い。
「え、匂い?」急な発言に椅子から立ち上がり体臭を確認する。仕事終わりとはいえそんなはずは、、
「まさか!そのヒールの下にあるもの見せてください!はやく!」
「私は自分の背丈の半分ほどのロボットに促され、ヒールの下にあるたばこのゴミを拾って見せた。
「あー、たばこのこと?これがどうしたの?」
「たばこ所持により現行犯逮捕します」
「えーー!!」
ガチャ。ロボットが手慣れたように手錠をしてくる。
私は仕事終わりに理不尽な理由で逮捕された。
「ピーポーピーポー」どうやら目の前のヘンテコは、お巡りさんロボットらしい。
急にサイレンが鳴り、見た目からは想像できない力で私をどこかへを連れていく。
「もう遊びもこのへんにしてよ~というより夢なら早く覚めて~!私」
「先程から意味の分からないことを!やはり幻覚作用があるんですね」
「いや、たばこにはないから~それにみんな吸ってるでしょ~?」
「何を言っているんですか!そんな時代は、とうの昔の時代の話です!いい加減に目を覚ましなさい!」
「それは、私も同じ気持ち。早く夢から覚めてほしいよ」
バキン。その刹那、もの凄い音が耳元で聞こえた。
どうやら、私とロボットを繋ぐ手錠が外れたようだ。
いや、違う。誰かが叩き壊してくれたようだ。
その代わり誰かに手を繋がれる。手の先には男の子がいた。高校生ぐらいだろうか。
「僕についてきて!ほら、走って!!」
「え!!」
「いいからはやく!!」
「はい~~~!!」夢ぐらい自由にさせてほしい。それにこの男の子は、年功序列という言葉を知らないのだろか。目上の人には敬語を使うことは当然だ。たとえ私が女であろうとも。ただこの男の子の方についていく方が良いと本能が判断したため、とりあえず指示に従った。
カッツン。カッツン。干からびたヒールも悲鳴を上げる。
私は営業職ということもあり仕事柄、足腰には自信がある方だが、やはり男には敵わないらしい。段々と息が切れ、足もついてこない。
「遅いよ!そんなだとリベラルさんに追いつかれる」お巡りさんロボットの本名はリベラルさんであることが分かった。それにしてもリベラルってどういう意味だろう。リベラルさんは想像と違い実に人間らしいスピードで追ってくる。イメージと違う。
「分かってるけど、私は男のあなたとは体の構造が違うの!それにあのロボットそんなに速くないじゃん!」
「ロボット!?また犯罪言語を!とりあえず黙ってついてきて!」
「なんでよ!?この時代犯罪だらけじゃない!もう嫌~!」
緑の広がる公園のような場所を抜けると、朝なのに薄暗く感じる街が眼前に広がる。
一瞬で雰囲気が変わった。そこは一言で京都のような場所だった。
「過去なの?未来なの?、、、夢なの?」
昭和と令和の先の交差点 うまやはら こうたろう @minatokara
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