第107話 報告と判明した黒幕

 何かあったらすぐ情報を伝達できるよう、政務部でいくつか目星をつけた書物を読み込んでいたマルティナの下に、一人の騎士が報告に来た。


 その騎士は、第一騎士団所属の若い男性だ。


 瞬時にそれが分かったマルティナは、異形との戦闘から離脱してまで自分に伝えるべき事柄があるのだろうと、素早く騎士の下に駆け寄る。


「何かありましたか!?」

「はいっ、団長の命により異形が発生したと思われる場所を調査したのですが、そこで巨大な血で描かれた魔法陣といくつかの本やブローチなどを発見しました。団長の命により陛下と軍務大臣に報告をし、お二人の命によってマルティナさんのところに来ております!」


 そう報告した騎士はメモ帳を渡し、マルティナのすぐ近くにいたロランに布を開いて本などを渡した。


「陛下より、これらから何か判明したならば、直接現場に情報を届けるようにとのことです。異形は攻撃がほとんど効かず、まだ討伐が叶っていません。それどころか足止めが精一杯という現状です」

「分かりました。ありがとうございます」


 そう感謝を伝えてから、マルティナはメモに描かれた魔法陣をじっと見つめる。いくつもの小さなメモ帳に描かれた魔法陣を、脳内で組み合わせて一つの魔法陣として完成させた。


 しかし画力が低い、しかも魔法陣に関してなんの知識もない騎士が描いたものだ。細かい部分を読み取ることはできず、マルティナは唇を噛み締めた。


(これを読み取ることで、異形の正体が分かるかもしれない。絶対に読み解かないといけないのに……この曖昧なメモからでは難しい)


 すぐにそう判断したマルティナは、ロランから本やブローチなどを受け取る。そして中を確認して――


 判明した事実に驚くとともに、期待していた魔法陣が載っていなかったことに歯噛みした。


「まず、今回の事件を起こした団体が分かりました。この本やブローチによると、リネ教のようです。多分その中でも、熱心な信者が起こしたのではないでしょうか。そして魔法陣については、リネ様をご降臨させるものと書かれているのですが――それは正しくないと思います」


 拙いメモから辛うじて読み取れた限りでも、この魔法陣がそのような神聖なものでないことは、すぐに分かったのだ。


「じゃあ、その魔法陣はなんなんだ? あの異形を召喚するものなのか?」

「それが……魔法陣自体はこの本には描かれていなくて、いただいたメモだけでは詳細が分かりません」


 ロランの言葉にそう答え、皆がマルティナを見つめる中――マルティナはすぐに決断を下した。


「私が現場に赴き、直接魔法陣を読み解きます。サシャさん、ロランさん、一緒に来ていただけますか?」


 その提案に皆はマルティナを止めようと口を開きかけたが、現状ではそれよりも良い案がなく、結局サシャが頷いたことで、マルティナの案が採用された。


「俺はいいっすよ。マルティナさんのことは、命に変えても守ります」

「はぁ……仕方ねぇな。分かった。現場に行こう」

「じゃあ、俺が案内します!」


 報告に来てくれた騎士が案内を買って出たことで、現場に向かう四人が決定となった。その流れを心配そうな面持ちで見つめていたナディアが、マルティナに声をかける。


「マルティナ、絶対に無理はしないのよ。そして、この街を頼んだわ」

「うん、絶対に生きて帰ってくるよ。現場にはハルカもランバート様もいるから大丈夫。それにサシャさんもロランさんも強いから」


 マルティナの笑顔にナディアがいつも通り笑おうとして、少し失敗したような笑みを浮かべた。ナディアに優しく抱きしめられたマルティナは、ナディアの背中に腕を回す。


「約束よ」


 ナディアが体を離したところで、今度はシルヴァンがぐっと眉間に皺のよった表情で口を開いた。


「マルティナ、魔法陣を読み解くことで何かが分かったとして、それを伝えるのは他の者に任せるんだ。マルティナの仕事はあくまでも魔法陣の解析、分かったか?」


 マルティナがやらかしそうな暴走を事前に止めるシルヴァンに、マルティナは苦笑しつつ頷く。


「分かりました。気をつけます。シルヴァンさんは私のことをよく分かってますね」

「……べ、別にそういうことではない! これは一般論だっ」

「ふふっ、そうですよね。無茶はせず、無事に帰ってきます」


 それから政務部の部長や他の官吏たちにも声を掛けられ、マルティナたちは政務部を駆け出た。


「じゃあ、森の入り口までは馬で行くっすよ!」

「はい。よろしくお願いします」

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