第108話 生贄の魔法陣
四人で王宮を出たマルティナたちは、最速で東の森に着いていた。森の中はマルティナが歩くとあまりにも遅いので、マルティナはサシャに担がれている。
先頭は案内の騎士で、その後ろにサシャと担がれたマルティナ、そして最後尾がロランという順番だ。
バリバリバリッと雷が落ちるような爆音が響き、マルティナの体はビクッと震えた。
「さっきからあの異形、もう何属性使ってるんでしょうか」
「信じられないよな……」
「あんなに暴れまくってたら、森がなくなるっすよ」
「本当ですね……」
異形から少し離れたところを進むマルティナたちは、そんな感想を溢しながら足早に目的地を目指す。異形が暴れているおかげで野生動物や魔物は軒並み逃げたのか、ほとんど戦闘を行わずに進めているのは不幸中の幸いだ。
たまに逃げ遅れた魔物が襲ってくるが、それは先頭の騎士か、ロランによってすぐに倒されていた。
ガサガサっと近くの茂みが動く。そちらにマルティナが視線を向けたのとほぼ同時に、ロランが影を操って現れた魔物を縛り上げた。
「ギャウゥ……」
影は鋭く変化して、縛り上げた魔物の首に深く突き刺さる。魔物が完全に息絶えたところで、ロランは魔法を解除した。
「闇魔法って強いっすね!」
サシャが瞳を輝かせながらそう告げると、ロランは苦笑を浮かべつつ頭を掻く。
「はは、ありがとな」
そうして森の中を走ること数十分、マルティナたちは無事に目的の場所へと到着した。
マルティナはまだ魔法陣が崩れてなかったことに心から安堵し、さっそくメモでは分からなかった部分を重点的に見ていく。
「うわぁ……血で描かれてるとか、実物を見ると怖いっすね」
「リネ教って、相当ヤバいな」
マルティナ以外の者たちがそんな会話をしている中で、マルティナは相当な集中力で魔法陣を読み解いた。事前にメモによって大枠は分かっていたので、読み解くのはスムーズに進む。
(ここの意味は、これで合ってるはず。そしてこっちはこの部分と関連していて……)
しばらく真剣に魔法陣を見つめていたマルティナは、その内容が分かった瞬間、瞳を見開いてガバッと顔を上げた。
マルティナの顔は青ざめていて、少し手も震えている。
「あ、あの、この魔法陣の内容が、分かりました……」
尋常じゃないマルティナの様子にロランがマルティナの手を取ると、驚きに瞳を見開いた。
「おいっ、大丈夫か? 手が氷みたいに冷たいぞ」
「……は、はい」
マルティナは深呼吸をして心を落ち着かせ、ロランの手の温かさに僅かな熱を取り戻し、ゆっくりと口を開く。
「この魔法陣は、リネ様をご降臨させるなんて、そんなものでは全くありません。これは――無理やり生命を作り出す魔法陣です。それも魔法陣の起動に関わった、全ての術者の命と引き換えに」
生きた人間の命を使って、生命を作り出す魔法陣。その底知れぬ恐ろしさに、倫理に反した技術への嫌悪感に、ロランとサシャ、そして案内の騎士は例外なく顔色を悪くした。
「何だそれ、そんなの、ありかよ……」
「じゃあ、じゃあ、あの暴れてる異形は、元人間ってことっすか……?」
サシャが呟いた言葉に、マルティナはキツく唇を噛み締めながら頷く。そして魔法陣を読み取った時から考えていた、異形を倒す方法を口にした。
「もしかしたらあの異形は、取り込んだ人の数だけ命があるのかもしれません。複数の魔法属性を扱える理由も、取り込んだ人が持っていた魔法を使えるのだと思います」
「そういうことか……あり得るな」
「この事実を、ハルカたちに伝えましょう」
人間の命と引き換えに生み出された異形。それを倒すということは、間接的には人を殺すことになるのかもしれない。
しかし異形を放置しておけば、今生きている多くの人たちが危険に晒されるのだ。
マルティナは覚悟を決めて、異形が暴れる方向に強い視線を向けた。
「迷わず、敵を討伐しましょう」
その言葉に三人とも力強く頷き、ここまで案内してくれた騎士が名乗り出る。
「俺が伝えに行きます。伝えるべき内容の詳細を教えてください」
「分かりました。まずは異形が多くの人の命によって産み出されたこと、そしてその人数は、最低でも十を超えることを伝えてください」
マルティナが魔法陣を読み取った限り、あそこまで強大で強力なものが産み出されるには、最低でもその程度の人数がいないと無理なのだ。
「十人以上……分かりました」
「そして急所となる場所が、身体中のあちこちに点在している可能性も。それを一つ一つ倒していくことで、最終的な討伐に手が届くかもしれません」
その言葉にも騎士は頷き、マルティナ、ロラン、サシャの三人と真剣な眼差しを向け合ってから、異形と戦うハルカたちの下に駆けていった。
「これで、討伐できるでしょうか」
騎士の後ろ姿を見送りながらマルティナが呟くと、ロランがマルティナの背中を軽く叩く。
「俺たちにできることは全部やった。あとはハルカと騎士団を信じよう」
「そうっすよ。皆は強いから、大丈夫っす」
「そうですよね。待ちましょう」
三人は未だ激しく暴れている異形をじっと見つめながら、討伐成功を願った。
〜あとがき〜
いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます!
『図書館の天才少女』2巻の発売日が明後日と迫っておりますが、特典情報が公開されましたので、お知らせさせていただきます。
今回は特典を4つも書かせていただきました。
詳細は下記近況ノートにまとめてありますので、ぜひご確認ください!
https://kakuyomu.jp/users/aoi_misa/news/16818093088106646738
よろしくお願いいたします。
蒼井美紗
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