第54話 今後に関する話し合い
マルティナが笑顔になったことで会議室内の雰囲気は最初よりも数段明るくなり、さっそく今後に関する話し合いが進められた。
話し合いの開始から数十分が経過したところで、ソフィアンが決まった事柄をまとめる。
「では私たちから陛下と各国の代表者たちへの提案という形で、帰還の魔法陣研究の推進と聖女ハルカへの正式な謝罪と助力願い、そして適切な報酬の提示、これらを進言するという方針で良いかな?」
その言葉に、まず頷いたのはマルティナだった。
「私は異論ありません。ハルカさんの意思を最大限に尊重して、帰る方法が確立するまで危険や不自由なく過ごしてもらいたいですが……この世界の現状で、それが難しいことは理解しています」
いくらマルティナたちがハルカの意思を尊重したいと思っても、人類滅亡の危機が迫るこの世界で、それを解決する術を持つ聖女という存在が自由を享受できるわけはないのだ。
聖女召喚が各国の総意で行われたという現実を考え、マルティナたちは実現可能性が低い理想は考慮に入れていなかった。
「とにかく俺たちがやるべきことは、少しでも聖女ハルカの立場を有利にすることだろう。それぐらいしかできないとも言えるが……」
「でも大切なことよ。ハルカさんがただの一個人で、聖女の力を持っていて、しかし協力を拒否しているという現状は、各国が無理矢理にでもハルカさんに協力させようと、動き出す可能性が高いもの」
ナディアのその言葉に、マルティナたちは表情をより厳しいものに変えた。
「その可能性は高いだろうな。だからこそ、申し訳ないが……聖女ハルカにはなんとか協力に了承してもらう必要がある」
シルヴァンの言葉に、ソフィアンが頷いて話をまとめる。
「私たちが嫌われ役になってでも、聖女ハルカに協力を頼もう」
「はい。ハルカさんのためにも、言葉を尽くしましょう」
(でももし、それでもハルカさんに協力してもらえなかったら……その時には、私が命を懸けてでも、ハルカさんを守ろう。それがハルカさんの人生を壊した責任だ)
マルティナは内心で固く決意し、静かに拳を握りしめた。
そうして五人での緊急会議は終わりとなり、ソフィアンが一番に席を立つ。
「陛下への進言は私が請け負うよ。皆には聖女ハルカの様子を注視しておいてほしい。そして聖女ハルカが落ち着いた頃に、また皆で話をさせてもらおう。それから各国の代表者たちにも現状を伝える必要がある。日時は後で伝えるから、全員を集めた会議の準備もお願いして良いかい?」
「分かりました」
「またマルティナは、帰還の魔法陣の研究をさっそく始めてほしい。聖女ハルカへの説得材料とするためにも、早めに形になるという希望だけは欲しいからね」
「もちろんです。全力で取り組みます」
(召喚の魔法陣はあるのだから、その逆をする魔法陣も構築できるはずだ)
マルティナは帰りたいと泣くハルカを思い出し、必ず形にしようと決意を固めた。
聖女召喚が成功した翌日。昼過ぎのまだ日が高い時間に、各国の代表者たちはまた会議室に集まっていた。
昨日のうちにソフィアンがラクサリア王国の国王へと進言したところ、まず各国の代表者たちに現状を報告するべき、ということになったのだ。
ハルカを説得できていない現状で報告してしまうのは、マルティナたちとしてはできれば避けたかったが、各国からハルカの能力について調べさせてほしいなどという要望が多数届いていたため、先延ばしにすることは不可能だった。
いずれにしても多数の国が賛成する形で、ハルカに対して謝罪と助力願いをする方向、要するに無理矢理従わせるのではない方向に持っていかなければいけないため、皆が集まっての話し合いは避けては通れぬ道だった。
「さっそくお集まりいただき、ありがとうございます。昨日の召喚後に、聖女と少し話ができました。そこから判明したこと、またこちらからの提案についてお話しさせていただきます」
会議室にはラクサリア王国の代表として国王とソフィアン、マルティナがいる。進行役は変わらずソフィアンだ。
「まず――昨日召喚された女性は、間違いなく聖女でした。素晴らしい治癒の腕は、複数人が確認しております。そのため、瘴気溜まりにもその力が及ぶ可能性は高いでしょう」
聖女召喚は成功した。稀有な能力を有している。その事実に会議室内は湧き立った。一気に明るい雰囲気が部屋を満たす。
「これで我らは助かるのだな!」
「昨日はどうなることかと思ったが、一安心だ」
「聖女も人騒がせなものだ。まさか昨日のは、私たちを動揺させるための演技だったのか?」
「さっそく瘴気溜まりの消滅をしてもらおう。まずは近場で一つ消滅を試してもらい、能力が確実なものであることを確認するべきじゃないか?」
「そうだな。消滅を頼むにあたって、供物等が必要か?」
「最初に瘴気溜まりを消滅してもらうのは、ラクサリア王国であったな。明日にでも出立してもらうために準備を……」
「皆様、お待ちください」
湧き立っていた各国の代表者たちがそれぞれ好きなように口を開く中、ソフィアンの声が会議室内に響いた。
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