第41話 存在感を現すマルティナ

 それから会議は何日にも及び続けられた。いくつもの国が貴重な書物を提示したり、王家に伝わる伝説という形の情報を公開したり、ラクサリア王国内だけで調べていたら到底知り得なかった情報が、次から次へと発表される。


 そんな毎日にマルティナの瞳は日に日に輝きを増していき……最初は大人しく座っていただけのマルティナが、二日目には少し意見を発するようになり、三日目には発表された情報に質問を重ねるようになり、ついには四日目にはテーブルに大きく半分ほどが完成している魔法陣を広げ始めた。


「皆様、とてもたくさんの有意義な情報をありがとうございます……! 皆様のおかげで半分ほどしか分からなかった魔法陣が、かなり完成に近づきそうです。ソフィアン様、私が今までの情報を統括して書き加えても良いでしょうか!」


 マルティナのその言葉に、ソフィアンは苦笑を浮かべつつ会議室に集まる皆に視線を向けた。


「皆様、マルティナのことはしっかりと紹介していませんでしたが、マルティナは規格外の記憶力を有しています。そうですね……マルティナ、二日目の会議で提供された歴史書を覚えているかい?」

「もちろんです」

「ではその歴史書の三十一ページを最初から読み上げてくれ。歴史書を持っている方は、内容の確認をお願いいたします」

「分かりました。――であるからして、大山の麓にひっそりと暮らしていた人類は、人類の叡智を後世に残すため、書物を石箱に収納した。隙間を埋めるためには、防腐効果のある植物を――」


 それからマルティナが全くつかえることなく一ページを丸々読み上げると、全員の視線が歴史書を確認していた若い男に向かった。そしてその男が信じられないような表情で頷くと……今度は全員の視線がマルティナに向かう。


「このように規格外の記憶力を有しております。したがってマルティナは、今日までの会議で公開された情報をすべて記憶しているため、マルティナに魔法陣の復元という重大な役目を任せても良いでしょうか」


 信じられない能力を示された後でこの提案に反対できる者はいなく、皆からの了承を得られたところで、マルティナは嬉々として魔法陣を描き始めた。


「まずは歴史書に載っていた、そのまま書き加えられる部分を描いていきます。そのあとはそれぞれの情報から推測できるものを、そして最後は魔法陣の書き方から推測させていただきます」


 ラクサリア王国からの要望として、会議には瘴気溜まりや聖女召喚に関する情報の他に、魔法陣に関する情報も提供を求めていたのだ。

 したがって現在のマルティナは、簡単なものなら一から魔法陣を描けるほどに知識を蓄えている。


 マルティナが魔法陣を描いていく様子を、誰もがじっと眺めていた。会議室には沈黙が流れ、マルティナのペンを動かす音だけが響き渡る。


 そうして時間が過ぎること一時間ほど――マルティナのペンがピタッと止まった。


「……今までの情報だと、これが限界ですね。召喚に必要な座標を決める部分と、魔力を変換させる部分がまだ抜けています」

「あの、それなら我が国の情報が使えるかもしれません」


 それからはマルティナが不足している情報を提示し、それを持っている国が情報を公開するという方法で、魔法陣の復元が進んだ。


 そしてそんな日々が二日ほど過ぎ……八割ほど復元が進んだところで、マルティナのペンも、情報を公開する声も止まった。


「マルティナ、あと二割ほどの復元はできそうかな?」


 進行役であるソフィアンの問いかけに、マルティナは真剣な表情で魔法陣を見つめつつ、ゆっくりと頷いた。


「あとは今まで皆様に公開していただいた情報を今一度精査し、魔法陣の制作に関する知識を組み合わせれば……何とかいけるかもしれません。ただやってみなければ分かりません」

「分かった。ではマルティナ、任せても良いかい?」


 信頼の籠ったソフィアンの眼差しを、マルティナはしっかりと見つめ返し頷いた。


「お任せください」

「では頼んだよ。―それでは皆様、連日の会議お疲れ様でした。ここで数日は休養日とします。また数日後にこの部屋で会議を開きますので、日程が決まり次第通達いたします。それまではゆっくりと各部屋でお休みください」


 そうして連日に及んだ会議は一度終了となり、各国の代表たちは初日よりも晴れやかな笑顔で会場を後にした。

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