第40話 瘴気溜まり対策会議

 他国にも瘴気溜まりが発生しているという情報が、ラクサリア王国に集まり始めてから約二ヶ月後。

 多数の国が集まる会議としては異例の速さで準備が進められ、本日ラクサリア王国の王宮にて、瘴気溜まり対策会議が開かれていた。


 場所がラクサリア王国に決まったのは、真っ先に黒いモヤが瘴気溜まりであること、そして聖女召喚という技術の存在に辿り着いたからだ。


 今回の会議にはラクサリア王国の隣国だけでなく、隣国を超えた先にある遠い国も多く参加している。大陸会議と呼ぶに相応しい大規模なものだ。


「皆様、本日は我が国の王宮にお集まりいただき、誠にありがとうございます。ではさっそくですが、会議の本題に入らせていただきます」


 王宮内で最も豪華なパーティー会場にテーブルを並べ、各国の代表が数名ずつ椅子に腰掛けている。ラクサリア王国の代表は召集国ということで国王が真ん中に座り、その左右にソフィアンとマルティナだ。


 進行役は計画のメンバーで外交官でもあるソフィアンが務め、マルティナはもちろんその知識量を買われてこの場にいるが、それだけではなく記録係も兼ねている。


 ちなみに此度の会議はすべての国に通訳が同行し、基準となる言語は開催国であるラクサリア王国で使われているリール語だ。リール語はこの大陸で使用している国が最も多い言語のため、国際的な会議ではよく基準言語として指定される。


「すでにご存知だと思いますが、現在この世界は瘴気溜まりという脅威に晒されています。この会議が計画されてから今日までの約二ヶ月で、瘴気溜まりの数は何倍にも増え、もはや押さえ込むのは厳しい現状となっているでしょう。そこで我らは聖女召喚という、過去の人類を救った技術の復活を目指します!」


 ソフィアンの力強い言葉に、そこかしこの国から同意を示すような肯定の言葉が上がった。しかしいくつかの国の代表は、訝しげな表情でソフィアンを見つめている。


 そんな国のうちの一人が、静かに立ち上がり口を開いた。


「聖女召喚というのは本当にあるのか? ただの作り話ではないのだろうか」

「様々な書物に記述があることから、信憑性は高いと思います」

「……では万が一本当にそのようなものがあるとして、復活に成功したらどうなるのだ? どの国から助けてもらう? この世界を一気に助けられるのか? そもそも聖女とはどんな力を持っているんだ?」


 次々と投げつけられた疑問にソフィアンは明確な答えを持たず、当たり障りのない言葉でここは乗り切ろうと笑みを浮かべたその時、立ち上がっていた男性の隣に腰掛けていた別の国の女性が優雅に口を開いた。


「あら、貴国ではまだ何の情報も得られていないのね? 我が国の研究班は聖女の能力に関する情報を得ているわよ?」

「……それは本当か?」

「ええ、このような場所で嘘を言うはずがないじゃない」


 女性の言葉にほとんどの国の人間は、驚きの表情を浮かべている。ソフィアンも内心では驚きつつ、それを表には出さないようにして笑みを浮かべた。


「その情報を公開していただけますか?」

「どうしようかしらね〜。公開することで我が国にメリットはあるのかしら」

「これは皆様にご提案となりますが、提供した情報の量と質、それから魔法陣の復活への貢献度などを数字で現し、数字が大きい順に浄化をしていただくというのはいかがでしょうか。――聖女の能力が一瞬で世界を浄化できるものであるならば、違うものを考えますが」


 ソフィアンのその言葉に少しだけ考え込んだ女性は、にこりと本心が読めない笑みを浮かべると、先ほどは明かさなかった情報を口にした。


「聖女の能力は、瘴気溜まりを一瞬にして消滅させられるものらしいわ。しかしそれは、瘴気溜まりに触れている場合に発動できるもの。したがって全ての瘴気溜まりを消滅してもらうには、聖女に世界中を巡ってもらうしかないわね。――この情報が高い貢献度として判断されることを期待しているわ」


 女性のその言葉により、少し斜に構えて会議に参加していた者たちも、姿勢を正して自国から持ち込んだ情報に目を向け始めた。


「公開ありがとうございます。とても重要な情報であると思いますので、適切な貢献度を計上させていただきます。では後ほど、聖女がどのように世界中を巡るのかについても話し合いを行いましょう」


 ソフィアンのその言葉に発言をしていた女性は背もたれに身を預け、立ち上がっていた男性が悔しそうに椅子に腰掛けたところで、次はまた違う国の代表が立ち上がり口を開いた。

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