第38話 今後の方針決定
マルティナの笑顔によって会議室内の雰囲気が一気に緩み、誰もが体の力を抜いて表情を緩ませた。マルティナも雰囲気が変わったことが分かったようで、先ほどまでよりも気楽に口を開く。
「では皆さん、話を元に戻しますが……光属性の魔法使いでは対処しきれない事態に備えて、私たちは先ほど説明させていただいた聖女召喚の復活を目指すことになります。現在判明しているのは、魔法陣を使うということ。それだけだったのですが……先日、とても重要な書物を発見いたしました」
マルティナがその言葉を発してからソフィアンに視線を向けると、ソフィアンが優雅な微笑みを浮かべながら頷き一歩前に出た。
そして皆に見えるように、先日マルティナが読み終えたばかりの騎士物語を掲げる。会議室に入る前に、ソフィアンが王宮図書館から持ってきておいたものだ。
「この騎士物語は歴史書などではない娯楽小説で、私は何年も前に一度読んだきり存在を忘れていたんだ。しかし瘴気溜まりの話を聞いて、ふと思い出した。なぜならこの物語に出てくる設定が、あまりにも瘴気溜まり、聖女、魔法陣などに酷似しているからね。そこで先日マルティナにも読んでもらったところ、マルティナの見解は、過去の歴史家が後世に情報を残す手段として書いたものじゃないかってことだった。私も同じ意見だよ」
ソフィアンがそこまで話をしたところで、マルティナが話を引き継いで口を開く。
「この小説の中に半分ほど完成した召喚陣が出てきます。私たちはまず、これを元にして魔法陣の作製を試みたいです」
「その騎士物語、読んでも良いでしょうか……!」
歴史研究家の面々は好奇心を抑えられないようで、その中でもラフォレがガタっと立ち上がり口を開いた。
「もちろんだよ。皆で順番に読んでいこう」
「まずはラフォレ様でいいですか?」
ラフォレは歴史研究家の中で最も地位があるので、さすがにこの提案に反対できる人はいなく、騎士物語はラフォレの手に渡った。他の歴史研究家たちは、次に誰が読むのかで水面下の争いを繰り広げている様子だ。
「では今後の活動に関して、実務的なことも決めていきたいのですが……まず私たちは三つの班に分かれようと思います。一つ目が私とソフィアン様、そして歴史研究家の皆さんが属する、魔法陣の復活を目指す班。そして二つ目が政務部の皆さんで、各部署などとの調整を行う班。三つ目が騎士団の皆さんで、瘴気溜まりの監視や護衛などを行う班。これで問題ないでしょうか」
この提案に誰も反対しなかったので、班分けはマルティナの提案のままで決定となった。
「騎士団の皆さんにはとりあえず、瘴気溜まりの監視をお願いします。政務部の皆さんには各部署との仲介をお願いしたいです。また各班ごとの情報伝達も頼んでいいでしょうか」
「分かった。護衛などが必要になればすぐに言ってくれ」
「了解だ。俺らに任せとけ」
ランバートの頼もしい言葉にマルティナは感謝を込めて頭を下げ、ロランがいつも通りの口調で告げた言葉には頬を緩めて頷いた。
「ありがとうございます。ではよろしくお願いします。そして最後に一番重要な私たちですが……まずはとにかく書物をたくさん調べましょう。先ほど宰相様が王宮図書館の書庫と仰っていたのですが、そこには重要な書物があるのでしょうか……?」
隠そうとはしているが瞳の輝きが抑えられていないマルティナの言葉に、ソフィアンが苦笑しつつ口を開いた。
「王宮図書館の書庫には、内容を精査できていない書物がたくさん仕舞われているんだ。したがって掘り出し物もあるだろう」
「掘り出し物の書物……宝の山ってことですね!」
「全部かは分からないけれど、貴重なものもたくさんあるはずだよ」
「ではまずはそこを調べましょう! 私たちのしばらくの活動場所は、王宮図書館になりますね!」
王宮図書館の書庫の話、そして活動場所が図書館になるという事態にマルティナは嬉しさを隠せず、声が上擦って頬は赤く染まっている。
まるで大好きな人を思い浮かべているかのような表情で脳裏に描いているのは、少し埃臭い図書館の中だ。
そんなマルティナに周囲の皆は苦笑を浮かべるしかできず、慣れているロランやナディアは呆れた表情を浮かべていた。
「……そうだ、もう一つできたら実行したいことがあるのですが」
図書館に意識が飛んでいたマルティナは何かを思い出したのか、急に頬を引き締めソフィアンを見上げた。
「何かな?」
「できれば他国にも情報提供を呼びかけたいと思っていたのです。そこでソフィアン様が外務部で働かれているという話を思い出したのですが……ソフィアン様は、司書ではないのですか?」
「私の本職は外務部での外交官だよ。将来は爵位を得て外務大臣となるけれど、それまでは空いている時間もあるから、王宮に滞在中は司書としても働いているんだ。私はマルティナと同じように、本や図書館が好きだからね」
「そうだったのですね……」
外務大臣という地位が約束されているという話を聞き、マルティナは改めて目の前にいるのが凄い存在なのだと認識し、少しの間だけぼーっとソフィアンの顔を見上げた。
しかしすぐに軽く頭を振り、思考を戻す。
「ではソフィアン様、他国への情報提供呼びかけについては、中心となって動いていただけますか?」
「もちろん構わないよ。任せてくれ。私なら外務部にも顔が利くからね」
「ありがとうございます。とても助かります」
そこで今後に関する話し合いは全て終わり、マルティナが一切メモを取っていないにも関わらず、今日決まった話を脳内で簡潔にまとめて説明した。そしてその能力でも驚かれたところで、最初の会議は無事に終わりとなった。
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