第28話 森の調査
カドゥール伯爵領での救助活動は三日目に突入した。現在は昼の時間を少し過ぎた頃で、ついに街中の捜索が全て終わったところだ。
「皆、三日間の尽力感謝する! 皆のおかげで多くの住民を救うことができた。しかしまだ終わりではない。このあとは街中の魔物を一掃し、街の外に散らばる魔物、そして魔物の出所である森の調査も行う」
エスコフィエのその言葉に、騎士たちとマルティナたちは表情を今一度引き締めた。
「これから先は四つの班に分かれようと思う。一班は街中の魔物一掃部隊だ。そして二班は周辺に散らばる魔物の討伐部隊、三班は森の調査班、最後の四班は各班の調整と避難した住民たちの管理部隊だ」
それからそれぞれのメンバーが発表され、マルティナは三班である森の調査班に割り振られることとなった。ロランとシルヴァンは四班で、ランバートはマルティナと同じ三班だ。
光属性の魔法使いも、森の中に瘴気溜まりがある可能性を考え、全員が三班に割り振られた。
「ではそれぞれの班で行動を開始してくれ」
三班の長はすぐランバートに決定し、ランバートは集まった全員の顔を見回すと、一枚の紙を取り出した。
「森の調査班だが、マルティナが記憶していた森の地形や河川の場所などから、瘴気溜まりがあるだろうところに当たりをつけてもらっている。まずはこの場所を調査していきたい」
紙には簡単な森の地図が描かれていて、いくつかの場所には斜線が引かれているようだ。主に川沿いのエリアが優先的に調査対象となるらしい。
「この場所はどうやって決めたんですか?」
騎士の質問には、地図を描いた張本人であるマルティナが口を開いた。
「いくつかの情報を総合的に判断しました。まず今回の魔物の大量発生ですが、森の近くにある街はいくつもあるのに、被害を受けたのは今回救助活動を行なった街のみです。さらにはこの街の周辺にある草原にも、そこまで多くの魔物は姿を見せていません。したがって、魔物があの街に辿り着いた理由があると考えました」
マルティナはそこまで話をすると、ランバートが掲げる紙に描かれた一つの川を指差した。
「この川は私の記憶では川幅が割と広く、アント系魔物は渡ることができないものです。そして今回被害を受けた街のすぐ近くを通ります。したがって、魔物はこの川沿いを街に向かって進んだのではないかと推測しました。川が道標のようになったのではないかと」
「確かに……あり得ますね。周辺の草原にもそこまで魔物の姿が見られないとなると、魔物の始点は川のすぐ近くという可能性もありそうです」
納得した様子で頷く騎士を見て、ランバートが大きく頷き口を開いた。
「そうだ。したがって本日は川沿いを徹底的に調査する。それで成果が挙げられなかった場合は、また別の場所の調査だ。ここまでアント系の魔物が大量発生している原因は必ず何かしらあるので、突き止められるまでは調査を終えるつもりはない。そのつもりでいるように」
「はっ」
「かしこまりました」
そこで三班の話し合いは終わりとなり、さっそく森に入ることとなった。騎士ではない光魔法使いとマルティナを隊列の中心に置き、周囲を騎士で囲む。
森からは今でも断続的に魔物が溢れ出してくるので、マルティナたちはまず川から少し離れた場所で森に入った。川沿いには魔物がひしめき合っているという予想からの対策だ。
「このまま川と並行するように森を進み、しばらく中に入ったところで川沿いの様子が目視できるところまでゆっくりと近づく。普段の森よりも確実に魔物が多いので、片時も油断しないよう注意してくれ」
「はっ」
「ではいくぞ」
先頭の騎士が慎重に周囲の様子を確認しつつ、隊列は静かに森の奥へと進んだ。森の中の様子はいつもより騒がしく、騎士たちは緊張の様子で剣に手をかけている。
森に入ってから数分後、さっそく魔物と遭遇した。近くの茂みがガサガサっと激しく揺れ、そこから飛び出してきたのは……茶色のアント系魔物。大きさはビッグアントよりも一回り小さいようだ。
「……っ、団長、この魔物は……! 街中にはいなかったはずです!」
飛び出してきた魔物を剣で止めた騎士の言葉に、ランバートは咄嗟にマルティナに視線を向けた。マルティナは冷静な瞳で魔物をじっと見つめていて、すぐに答えを口にする。
「サンドアントです! 砂漠地帯に生息している魔物で、やはり水に弱いです。歯には痺れ毒があるので気をつけてください。背中側は硬いのですが、お腹側は柔らかいので狙い目です」
その言葉を聞いた騎士はすぐに機転を効かせ、サンドアントをひっくり返した。そしてお腹に剣を突き立て、すぐにサンドアントは絶命する。
「マルティナさん、ありがとうございます」
剣を抜いてサンドアントが動かないことを確認した騎士は振り返り、マルティナに軽く頭を下げた。今回の遠征で騎士たちのマルティナに対する評価は、より上昇している。
「いえ、こちらこそ討伐ありがとうございます。サンドアントは森の中を歩くことに適した体の作りをしていないので、動きは遅いはずです。そこまで脅威にはならないと思います」
マルティナのその説明に三班の皆は感心した様子で頷き、またランバートの合図で森の奥に向かって歩き出した。
そしてそれからは何度も魔物に遭遇しながらも、マルティナの知識と騎士たちの確かな実力で問題なく森の中を進んでいく。
数十分で進む方向を変えて川に近づき……さらに十分ほど歩いたところで、先頭の騎士が立ち止まった。
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