第23話 救助要請
「マルティナ、お前のおかげだ!」
外務部を出たロランはニカっと明るい笑みを浮かべると、マルティナの肩をポンっと叩いた。
「お役に立てたのなら良かったです」
「ああ、今回はお手柄だぞ。やっぱりお前の記憶力は凄いな。いや、お前の場合は記憶力だけじゃないか。その記憶を有効的に活用する能力も高い」
「……そうなのでしょうか?」
「俺はそう思うぞ。全てを覚えられたところで、それを使う能力がなかったら意味がないからな。……よしっ、この調子で財務部も行くか」
そう言って意気揚々と歩き出したロランの背中を少しの間だけ見つめたマルティナは、嬉しそうに口端を緩めてから、駆け足でロランを追いかけた。
外務部で予算を減らすことができたことで、財務部では大きな問題なく予算を出してもらえる確約を得られたマルティナとロランは、軽い足取りで政務部に戻った。
予想より早くに仕事が終わったので、空いた時間でどの仕事を進めようか。そんな話をしながら政務部の扉を開けると……そこは、予想外の大騒ぎとなっていた。
「なんだ、何かあったのか?」
大勢の官吏が部屋の中を駆け回り、数多の声や書類が飛び交っている。そんな政務部の様子に二人は困惑しつつも足を踏み入れると、近くにいた男性官吏がマルティナを見てガタッと椅子から立ち上がった。
「あっ、マルティナが帰ってきたぞ!」
「やっと来たか! 今呼びに行こうと思ってたんだ」
「部長……どうされたのですか?」
二人の下に駆けてきた政務部の部長にマルティナが問いかけると、部長は一枚の紙をマルティナに手渡す。
そこに書かれているのは――カドゥール伯爵領からの救援要請について、そんな不穏な内容だった。
「……もしかして、瘴気溜まりですか?」
マルティナが眉間に皺を寄せながらポツリと問いかけると、部長は厳しい表情で頷く。
「ああ、その可能性が高いらしい。あり得ない数の魔物が森から溢れ出てきて、一つの街はすでに乗っ取られているようだ。そこで第二騎士団の派遣と、瘴気溜まりの可能性ありということで実情に詳しいマルティナ、さらにはふだんは王領のみで活動する第一騎士団の騎士も、マルティナの能力を理解しているということで派遣されることになった。また光属性の魔法使いも前回よりは減っているが、八名派遣される。それから急遽の遠征ということで、各所との調整を現地で行う役目としてロランの同行も決まった」
部長の説明を聞いて、マルティナとロランは共に厳しい表情で陛下からの書状である紙を見つめた。
「派遣は明日ですか……早いですね」
「そうだ。だからすぐに準備をして欲しい。それから、カドゥール伯爵領は馬を走らせて三日はかかる。二人は騎士の馬に同乗して向かうことになるので、途中で倒れないためにもよく寝ておけ」
「分かりました」
「すぐに準備を始めます」
二人が頷いて準備を始めようと動き出したところで、政務部の奥から一人の男がやってきた。
「部長! 私も現場に行かせてください!」
そう叫んだのは、マルティナの同期であるシルヴァンだ。
「……そういえば、お前はカドゥール家の人間だったな」
「はい。私が向かった方が、現地で色々と円滑に進むはずです!」
「確かに一理あるか……分かった。ではお前もメンバーに加えてもらえるよう上に伝えておく。お前も準備をしろ」
「分かりました。ありがとうございます!」
シルヴァンは部長の言葉に笑顔で頷いてから、マルティナに顔を向けて鋭い瞳で睨みつけた。
「私の邪魔はするなよ」
「……私も役立てるように頑張ります」
「シルヴァン、和を乱すなら同行は拒否するぞ」
「いえ、失礼いたしました」
ロランに声をかけられたシルヴァンは素直に頭を下げると、身を翻して政務部の奥に向かって二人の下を離れていった。
次の日の早朝。王宮の門前には多数の騎士が集まっていた。その中にはマルティナとロラン、シルヴァン、そして八人の光魔法使いもいる。
「マルティナ、こっちに来てくれ。他の二人も頼む」
「あっ、ランバート様。おはようございます」
三人が共にランバートの下へ向かうと、二人の第一騎士団員を紹介された。マルティナがランバートの馬に同乗し、ロランとシルヴァンはこの二人と共に現地へ向かうことになるらしい。
「ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」
「いや、構わない。こちらこそ現地ではよろしく頼む。特にマルティナの知識は各所で必要になるだろう」
「はい。精一杯頑張ります。……そういえば、魔物の種類などは分かっているのですか?」
「正確なところは分からないが、報告ではアント系の魔物だったらしい。しかし見たことがない色をした魔物も多くいたようで、種類までは報告がなかった」
――アント系の魔物で見たことがないとなると、この辺の森の中にはいない魔物だろう。そうなると砂漠地帯に生息しているアント系魔物や、湿地帯にいる種類、もしかしたら水中に生息している種類のものもいるかもしれない。
「実物を見て分かり次第、弱点や相手の攻撃パターンなどをお伝えします」
「ああ、頼んだぞ。……マルティナは此度の救援要請、原因は瘴気溜まりだと思うか?」
「……はい、その可能性が高いかと。見たことがない種類の魔物という話を聞いて、より疑念が確信に近づきました」
「やはりそうか……瘴気溜まりがある前提で現地に向かおう」
ランバートのその言葉にマルティナが頷いたことで、ちょうど全員の準備が整ったらしく、第二騎士団の団長が出立の合図をした。
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