最終話 溺愛される人生は続く

「偉いね。タケ。僕を選んでくれてありがとう…」

玄関のドアを閉めると久遠はすぐに僕を抱きしめようと手を差し出してくる。

「やめてくれ。久遠。僕らはもうそういう関係じゃない」

正直な言葉を口にするのだが久遠は理解できないようで首を傾げるだけだった。

「喫茶店にでも行かないか?こんなにも暑いから苛立ってるんだろ?」

「行かない。話はすぐに済む。さっきも言ったけど僕らはもう終わってるんだ。今更出てこられても困る。そもそも終わるも何も僕らは始まってすらいなかっただろ?久遠が勝手に永遠の恋人なんて言っていただけだ。幼かった僕らは耳心地の良い言葉にお互い酔っていた。ただそれだけの関係だったんだよ」

「タケ。大人になったんだな」

久遠は感心するように何度か頷くと僕の頭を撫でようと再度手を差し伸べてくる。

「だから。そういうのもなしだって。僕には恋人がいるし…他の女性に触れられたくない」

「そんな事言われてもな…僕とタケの仲だろ?忘れたのか?」

「忘れてない。僕は今、久遠を拒絶してるんだ。もう関わってほしくない。辛いことを言うようだけどしっかりとこの曖昧な関係を終わらせたい」

「………」

久遠はそこで静かに押し黙ると思案気な表情で空を見上げた。

「今年は例年以上に猛暑だってニュースで言っていた。きっともう一つの人格は夏が嫌で勝手に引っ込んだんだろ…。僕も伝えたいことはしっかりと伝えておく」

久遠は僕のことをしっかりと見つめると美しい声音で愛を囁いた。

「永遠は失われたけれど。僕はいつでもタケを見守っているよ。ずっと心から愛している。でも別れは受け入れるよ」

久遠はそこまではっきりとした口調で僕に言葉を残すとその場に跪いて項垂れた。

「久遠!おい!しっかりしろ!」

軽く肩を揺するといつもの志摩さんの表情に戻っているようだった。

「中で見てたけど…結構大変だったね〜。志摩さんならルナちゃんも中に招いてくれるかな?」

人格が入れ替わったようで志摩は飄々とした態度で戯けた言葉を口にする。

「今日のところは帰ったほうが良いですよ。きっと人格が入れ替わって疲れているんじゃないですか?」

「それもそうだね!じゃあまた〜!」

志摩は庭を抜けると一度こちらを振り返る。

「タケ!ちゃんと終わらせてくれてありがとうね!」

志摩に軽く手を振って応えると僕は玄関の鍵を空けて家の中に入るのであった。


「あの人は?」

家の中に入るとルナは心配そうな表情で僕を見つめていた。

「あぁ。志摩さんと人格を入れ替わって帰っていったよ」

「そう。あの人…凄かったね…オーラなんて見えない私でさえも感じるぐらい凄い存在感だった」

「そうだね…。それで隠していたことなんだけど…」

僕は自分の罪を告白するかのようにルナに許しを請うわけではないが事実を口にした。

「実は僕の初恋相手は久遠だったんだ。仲良くしてくれる年上の女子の中でも久遠が一番好きだった。軽く触れ合って抱きしめ合うぐらいのことは何度もあった。それがルナにバレたらと思ったら急に怖くなって…」

正直に事実を口にするとルナは何でもないような表情で一つ頷く。

「いや…あんな人が年上にいて自分を可愛がってくれたら誰でも好きになるでしょ?私は気にしないよ。過去を含めて今のタケルを愛しているんだから♡」

ルナは優しく微笑むと蒸し暑いというのに僕を包み込むように抱きしめる。

「私達はちゃんと繋がってるよ♡何も心配しないで♡」

甘美な言葉に頷くと許された感覚がしたのか僕は安心して眠気に襲われる。

だが夏休みでも仕事はあるもので…。

両親との約束でサボることも出来ない。

それなので本日の仕事を終わらせるまで全力で働くのであった。


淡い夏休みは終了して僕とルナの関係は少しずつ変わっていく。

スミスは僕らの変化した関係を間近で目にして次第に僕に対する恋心を完全に引っ込めた。

「高校を卒業してもいつまでも一緒にいようね?♡」

ルナの甘ったるい理想の提案に僕は一つ頷く。

「永遠に愛してるよ♡」

ルナからの夢見がちな言葉を耳にして僕は軽く微笑んだ。

永遠の後に愛しているなどと言う言葉を使われてもにわかには信じきれない。

けれどルナからの言葉ならば僕は信じ切ることが出来るだろう。

罰ゲームで出来た恋人に溺愛されることになった僕の人生はこれからも永遠に続くのであった。

                完

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罰ゲームで学校一人気者の女子生徒に告白したら何故かめちゃくちゃ溺愛されることになったんだが… ALC @AliceCarp

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