第24話永遠の恋人を夢見て…

「久遠。久しぶり。今日は満月か新月か…」

そう言って部屋の窓から空を見上げると本日は満月のようだった。

「そんな事はいいんだ。僕が出てきたということはタケ。何かあったんだろ?」

久遠は明らかにいつもの志摩とは違う声色でいつもよりも落ち着いていた。

「あぁ。きっと志摩さんが傷ついたのかもしれない…申し訳ない」

「謝罪は良いよ。何で彼女は傷ついたのかな?」

「それは…」

僕は言い難いことを一生懸命にして言葉にして久遠に伝える。

「そうか。タケ…ダメじゃないか…」

久遠の年上が幼い子を叱るような声音に僕の背筋はゾクッと震える。

それを直接見ていたかのように久遠は一つ笑うといつものように口を開く。

「僕らは永遠の恋人だろ?」

その僕を縛り付けるようなワードを久遠の口から耳にしてしまい一気に気分が落ち込む。

「ごめん。久遠。今日は良い日だったんだ。その思いのまま眠りにつきたいんだ…だから…」

「久しぶりに僕が出てきたんだ。次はいつかもわからない。それなのにここで電話を切るっていうのかい?薄情になったね。それも恋人のせいかな?」

「そうじゃないけど…」

「けど?タケ…どうしたんだい?今日は静かなんだね。それとも会わない間に大人になったのかな?」

「………」

僕は言葉に詰まってしまうと逃げるように電話を切った。

そしてスマホの電源を落とすとすぐにベッドに潜り込む。

懐かしい久遠の声色。

僕らが過ごした輝かしい過去。

「なんで今になって現れるんだよ…」

思わずそんな言葉が口をついてしまい目一杯に瞼を閉じたのであった。


志摩久遠は多重人格。

わかりやすく分けるために普段は志摩さんと呼んでいる。

しかしながら僕と演劇サークルで恋人役をやったのは久遠だ。

志摩は人格が引っ込んでいるときでも記憶を引き継げる。

だが久遠は中で成長しているだけで外のことはわからないらしい。

昔はよくあったのだ。

志摩さんになったり久遠になったり。

でもここ最近はなかったから油断していた。

久遠は僕の初恋の相手。

空想上の理想的な男性のような性格。

圧倒的に外見は男子好みなのに性格が男らしい。

こんな言い方前時代的かもしれないが…。

人間なら誰でも惚れてしまう。

そんな人間が久遠なのだ。

過去の出来事を思い出しながら目を覚ますと部屋にはルナの姿がある。

「あれ…ルナ…?」

寝ぼけ眼で自分の恋人の名前を呼ぶとルナは不機嫌そうな表情をしていた。

「昨日…私が帰った後に何かあったでしょ?電話かけても出ないし、既読も付かないからミコトちゃんに安否確認をしたから安心はしていたんだけど…それでも何かあったんじゃない?」

ルナは一生懸命に僕の心配をしているのが手に取るように理解できる。

「実は…」

僕は志摩久遠の事情を話すが大事な部分だけは隠してしまう。

「そっか…なんか複雑そうだね」

ルナはあっけらかんとした態度で僕の話を聞いていた。

「それでなんで電源を切るまでになったの?」

結局話しの核に進んでいってしまうが、それでも僕は秘密がバレるのが怖くなって黙り込んでしまう。

「わかった。それは聞かないでおく。何か事情があるみたいだし。それで最終確認」

ルナはそこで言葉を区切ると真面目な表情で僕を射抜くように見つめていた。

「私のことを愛しているのよね?」

それに強く頷くとルナはキレイに優しく微笑んで許してくれる。

「それならば何でも構わない。私は絶対に離れたりしないから♡ずっと一緒だよ♡」

ルナは僕を優しく抱きしめると本日も仕事に向かうのであった。


「タケ。今迎えに行くからね」

久遠は炎天下の中、僕の家を目指す。

そこに待っている永遠の恋人を夢見て…。

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