第21話第四幕が始まろうとしていた
「先輩も何かの罰ゲームですか?」
ルナは飄々とした態度でイケメンの先輩に問いかける。
しかしながら相手は意味がわからないようで困惑していた。
「いや、だって…私に彼氏いるの知ってますよね?校内でも有名ですし」
「知ってるよ。でも俺のほうがルナちゃんに釣り合っていると思うからね」
「………」
ルナは再び黙り込むと思案気な表情で空を見上げていた。
「えっと…俺じゃ不満?」
彼は母性本能をくすぐる不安そうな表情をルナに向ける。
だがルナは戯けたような表情を浮かべるだけだった。
「はい。不満ですね」
「俺の何処が不満なの?」
「えっと…初めて話すのに名前呼びなところとか、ちゃん付けで呼ばれるのも鳥肌立ちます。普通にキモいなぁって思いました。それに彼氏いる相手に告白してくる俺様なところも無理ですね。人の恋路を邪魔するような輩に良い人間なんて居ないのは知っていますから。はっきり言って無いですね」
ルナは正直な気持ちを隠しもせずに全力で相手にぶつけると嫌悪の表情を浮かべていた。
「は?初対面で酷いこと言うね?そんなに言われる謂れはないんだけど?」
「先に酷い行動を取ったのは先輩の方ですよね?私の彼氏に失礼だとか思わないんですか?タケルが今どれだけ心配になっているか理解できませんか?世の中の女は全て自分のものだとか思ってます?学校でどの様な評価を受けているか知りませんが私は毛ほども興味ないので。ごめんなさい」
ルナは軽く頭を下げるとその場を後にしようとする。
「待てよ!」
本性を顕にした彼はルナの肩を掴みに掛かる。
手を挙げるとは思わなかったが僕以外の男性がルナに触れるのは我慢ならなかった。
思わず陰から飛び出していき彼の腕を掴む。
「なんだよ…!見てたのかよ!」
「先輩。僕の恋人に触れないでもらってもいいですか?」
「何様だお前!俺に命令するな!」
「命令じゃないですよ。お願いです」
「ふざけんなよ!スカしてんじゃねぇ!」
モデルをやっている先輩の細長い手足で僕の頬は叩かれる。
だがはっきりと言って非力過ぎる。
怪我をするわけもなく痛みもこれと言ってない。
「満足しましたか?自分が振られてショックなのはわかりますが…心中お察しします」
丁寧な言葉づかいでやり過ごそうとしていると逆上されてしまう。
「お前…!おまえぇぇ!!!」
自分を見失った醜い男子生徒の雄叫びが体育館裏に木霊する。
「ルナに危害を加えないのであればどれだけ八つ当たりしてくれてもいいですよ」
哀れに思ってしまい彼に手を差し伸べる様な提案を口にするが…。
彼は自分を惨めに思ったのかその場で蹲ってしまう。
これではまるで僕がいじめているようだ。
こんな状況を誰かに見られてはいけない。
「先輩。明日から夏休みです。海にでも行って今日みたいに色んな女性にナンパすればいいじゃないですか。きっと百発百中ですよ」
慰めの言葉を口にすると彼は首を左右に振って口を開く。
「学校一の人気者ぐらい落とせないなんて…俺に魅力はないのか…しかも人生で初めてキモイだなんて罵倒を受けた…最悪だ…最悪すぎる。しかもその彼氏に慰められるなんて…終わった…俺は終わりだ…」
彼は完全に意気消沈しており項垂れたままその場で蹲っていた。
完全に生気の抜けてしまった彼をその場に放って置くのも忍びなく思っていると、
「俺には構わずもう行ってくれ…」
そんな言葉を投げかけられて僕らはその場を後にする。
「お互い良い夏休みにしましょう」
慰めの言葉を皮肉にならないように口にすると僕らは帰路に就く。
校門を抜けた辺りで志摩が僕らを待ち伏せていて何がおかしいのか微かに笑みを浮かべていた。
「志摩さん。さようなら」
ルナは面倒くさそうに先手を取って別れの挨拶を口にする。
だが志摩はそんな事お構いなしに僕らの顔を交互に見ていた。
「学校一のイケメンを差し出せば、そっちにいくと思ったんだけどなぁ」
残念がる志摩は呆れたように嘆息した。
「え?じゃああれは志摩さんの差金ですか?」
ルナもルナで呆れ返ったようにため息をつくと志摩と対峙した。
「そういうわけじゃないよ。彼がルナちゃんのこと好きって言うから後押ししただけだよ」
「いい迷惑でした。もうこういうのはやめてください」
ルナは剥き出しの嫌悪を隠しもせず志摩に向けている。
だが志摩は飄々とした態度でそれを受け流すと結果がわかって満足したのか僕らに手を振った。
「じゃあまたね♡夏休みにタケの家に行くから♡その時は三人で♡」
ルナは今にも吐き出しそうな仕草を取るが志摩は笑顔で手を振って応えた。
「もしかして…志摩さんって…ルナのことも好きなんですか?」
僕の質問に志摩は激しく頷く。
「私どっちもいけるから♡」
などと言うと今度こそ手を振ってその場を後にするのであった。
夏休みに突入する前に突然の志摩の告白で僕らは戸惑ってしまう。
ここから地続きであるのだが新たな物語が始まろうとしていた。
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