第18話才能という暴力でぶん殴られた気分

昼休み。

演劇部の舞台を目にしたルナはあまりの出来事に言葉を失っていた。

役に憑依したとしか思えないほど日常生活とは別人の志摩を見てあっけにとられていた。

舞台が終わるとルナは思わず席から立ち上がり称賛の拍手を送っている。

素直に凄いものを凄いと言えるルナを尊敬した。

僕も演劇部に拍手を送ると二人して体育館を後にする。

「素人でも凄いって分かるね…本当にこの間のあの人だよね…?」

ルナは時間差で戸惑いがやってきたようで僕に問いかける。

それに頷いて応えるとルナは目に見えるほどため息を溢していた。

「ちょっとやばいかもね…」

ルナは何に危機感を覚えているのかわからないがその様な言葉を口にすると焦ったような表情を浮かべていた。

「何が?」

「いや…あれだけ才能ある人がタケルにアタックしてるんだよ?簡単になびいても変じゃないでしょ…」

志摩の演技を見てしまい自分には他人に誇れる才能などなにもないと感じたのかもしれない。

ルナは絶望的な表情を浮かべると完全にショックを受けているようだった。

「なびかないよ。僕はルナの恋人だから」

「でも…罰ゲームで告白したんでしょ…?」

「それはきっかけでしかないよ。本当にルナと付き合いたいとは思っていたんだし。その気持ちに嘘はないよ」

「ホント?」

完全に意気消沈しているルナを抱きしめると廊下を歩く生徒にヒソヒソと噂をされる。

「皆に見られてるよ…?」

「良いんだ。僕らは付き合っているんだし。問題ないよ」

ルナは僕の胸に顔を埋めると強く抱きしめ返してくれる。

「校内での不純異性交遊は禁止だぞ?」

風紀委員の腕章を付けた女子生徒が注意をしてきて僕らは一度離れた。

「ん?よく見たら退学になった女子生徒と問題があった…斉藤タケルだったな?」

女子生徒は僕を目にすると少しだけ不審そうな表情を浮かべていた。

「そうですけど…」

「一応忠告はしておく。あまり女子生徒を刺激するな。ではな」

風紀委員の女子生徒は廊下を進んでいくとルナはいつにも増して険しい表情をしていた。

「タケルは何も悪くないのに…」

文句のような言葉を口にすると不満そうな表情を崩さなかった。

「大丈夫だよ。気にしないで」

「でも…」

ルナをどうにか落ち着かせると僕らは廊下を歩いて教室を目指した。

「待って!どうだった!?」

志摩は後から僕らを追いかけてきていたらしく完全に素に戻っていた。

「はい。感想はルナから聞いたらどうですか?」

「完全に魅入ってしまいました。圧倒されたと言うか才能という暴力でぶん殴られたと言うか…とにかく言葉を失いました。こんな言葉しか出てきませんが…凄かったです」

ルナの感想を耳にした志摩はホッと胸を撫で下ろすと気の抜けた表情を浮かべていた。

「よかったぁ〜タケの恋人に嫌われなくて…この間は酷い言い方してごめんね…あの言葉に嘘はなかったけど言い方きつかったよね…」

志摩はルナに謝ると一度頭を下げる。

「役に入り込みすぎると人格変わるの良くないって言われてるんだけどね〜…なかなか治らなくて」

「謝らないでください。それにそのままでも良いんじゃないですか?本当に圧倒的でしたし」

「ん。ありがとうね…。じゃあまたね。タケもまた」

志摩は嵐のように過ぎ去っていくと僕らには沈黙が訪れるのであった。


放課後のこと。

ルナは志摩に触発されたのか僕にある提案をしてくる。

「バイトでも始めない?休日にデートするのにもそろそろ貯金が底をつきそうだし…それに…私もそろそろ何か始めないと…」

意を決した表情を浮かべているルナに僕はどう答えようか迷うのであった。

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