第一章第三幕 過去はいつでも追いつくスピードで追いかけてくる
第15話風変わりな探求者
先に言っておく。
冗談でも永遠にとか一生の後に「愛してる」などという言葉は使わないことをおすすめする。
例え永遠を誓い合った相手にでもこの様な重たいセリフを軽々しく口にするものではない。
などと説教臭いことを言いたいわけではなく…。
目の前の女子生徒、
「志摩さん…僕は貴女の恋人になった覚えはないです」
妄想癖が強いと言うか思い込みが激しい彼女に言って聞かせるのは至難の業だった。
「いいや、タケは私の永遠の恋人さ♡あの日からずっと…」
意味深な表情を浮かべている志摩に訝しんだ表情を浮かべているルナ。
この状況を打破するには事実を口にすることだけが得策に思えた。
「いや、小学生の頃に演劇クラブで恋人役やっただけじゃないですか…」
遅ればせながら志摩久遠の紹介をするのだが…。
彼女は僕の一歳年上の先輩である。
両親が名のある役者だったか何かで彼女も少々芝居がかったところがあるがそれには目を瞑ろう。
小学生の頃も同じ学校に通っており、当時の校長先生の一言で学年の隔たりを無くそうというようなスローガンのもと全学年合同で学期毎にクラブ活動が設けられた。
その時、たまたま同じ演劇クラブで一緒になったのが志摩久遠と言う女子生徒。
「僕の恋人役には斎藤タケルくんを推薦するよ」
当時の志摩は何と言うか…端的に言ってボクっ娘だったのだ。
それが高校に入ると直っていたらしい…。
「そう言えば…志摩さんって…」
「それ以上は言わないで!絶対に!思い出すのもダメ!」
急に芝居がかった所作をやめて等身大の高校三年生の女子生徒の姿に戻る志摩。
「えっと…」
「言わないで…!絶対に!私も思い出したくないの…」
「じゃあその永遠の恋人とか言う恥ずかしいのもやめておいたほうが良いですよ。大学生になった頃にまた羞恥で悶えるんじゃないですか?」
一応忠告と言うかアドバイスのような言葉を僭越ながら口にするのだが…。
志摩は急に鋭い視線をルナに向けると宣戦布告のようなものを口にした。
「今はキミの恋人かもしれない。けれどタケは私だけの永遠の恋人だ。一時的に貸すことは心苦しいが許してあげても良い。だが…」
志摩はそこで踵を返すと捨て台詞のように一言。
「いつか必ず私の手に取り戻す。油断したら掻っ攫うから覚悟しておけ」
敵意全開でルナに言葉を投げかけた志摩はその場を後にするのであった。
「えっと?あの人はギャグであれをやってるの?」
ルナの厳しすぎる言葉選びに僕は少しだけ志摩を不憫に思った。
「本人はいつでも真面目だよ。あれだって多分ハマっている舞台か何かに感化されてのことだと思うし…」
「ん?将来は役者になりたい人?」
「そうだよ。一度で良いから志摩さんの本気の芝居を見たほうが良いと思うな。きっと今みたいに茶化せなくなると思うよ」
「そんなに凄いの?」
「凄いっていうか…うん…僕の語彙力じゃ説明できないや」
志摩の事を褒めたのがお気に召さなかったのかルナは少しだけ頬を膨らませていた。
だがすぐに何かを思い出したかのように表情を明るくさせると僕に予定を尋ねてくる。
「そうそう!今週の土曜日って空いてるよね?また角さんに邪魔されたりしないよね?」
グイグイと訪ねてくるルナを一度落ち着かせると一つ頷く。
「空いてるよ。休日はルナと遊ぶために大体空けているでしょ?」
「良かった♡じゃあ土曜日の午後1時にうちに来て?♡」
その恋人からの誘いに僕はゴクリと生唾を飲み込むとポケットに入っている財布に一度触れてアレの存在を確かめるのであった。
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