第12話恋人は生涯一人じゃなくても良い

ベッドで悶ている情けない姿をその相手に見られて僕は慌てて平静さを取り戻す。

「どうしたんだ?スミス」

「いや、暇だったから…」

「暇だからって僕の部屋に来なくてもいいだろ?」

「何?来てほしくない理由でもあるの?」

「いや、僕にはルナがいるから…」

事実を口にするとスミスは少しだけ苦々しい表情を浮かべて頬を膨らませた。

そのままスミスは椅子に腰掛けると膨れ面のまま僕に問いかける。

「罰ゲームで出来た恋人に執着する必要なくない?仲間内でのゲームは終わったんだから別れればいいじゃん」

「そういうわけには…」

「どうして?本当に好きになったとか言わないよね?じゃあ聞くけど何処が好きなの?確かに成瀬さんは超絶美少女だけど性格が良いとは思えないな」

「恋人が出来て独占欲が強まっているだけで元は性格も良いんだよ。それに僕にだけは優しいから問題ない」

「今はでしょ?これから問題が起こるかもしれないじゃん」

「そんなことは…」

「言い切れるの?どうして?」

質問攻めのスミスに嫌気が差すと明らかに見えるように嘆息してしまう。

「何?そんなに鬱陶しいの?一応忠告しているんだけど?」

「わかったよ。でも大丈夫だから。心配しないで」

「心配だよ。タケルには不幸になってほしくないから」

「………」

そこで僕らは無言で視線が交わるとスミスは意を決して僕に問いかける。

「私でいいんじゃない?」

「それは…今は考えられない」

「………」

スミスは無言で僕のことを射抜くように真っ直ぐな視線を送っていた。

だが僕はそれから逃れるように視線を外す。

「ちゃんと考えてみて。これからのこと」

スミスはそれだけ言うと僕の部屋を後にするのであった。


夕食を食べてルナとビデオ通話をする。

そして眠りにつく頃、一応スミスの言葉を思い出して未来を想像する。

それでも僕とルナはこれからも末永く付き合えていける気がした。

それなのでそこで頭を振ってスミスの言葉を脳内から無理やり消し去った。

眠りにつけば次の日がやってきていつもどおり学校に行くのだろう。

目を瞑って…。


翌日。

放課後の掃除時間のこと。

蛇川カナは僕のもとを訪れるとこの間のように絡んでくる。

「今日こそは皆で遊びに行こうよ♡恋人いる人も普通に来る健全な遊びだからさ♡」

その誘いに首を左右に振った所で蛇川は僕に耳打ちする。

「別に恋人は生涯一人だけじゃなくても良いんだよ?♡」

その真理をついたような言葉にゴクリと唾を飲み込んだ所で思わずハッと目を覚ますほどの冷たい殺気を感じるのであった。

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