第9話新たな展開

現在進行系のスミスからの突然の告白を受けて僕はただただ黙っていた。

「私の気持ち。気付いていたんじゃない?」

「それは…」

そこまで口にして僕は過去のことを思い出していた。

少年野球時代。

優勝をした瞬間もスミスは一番に僕の元へやってきて抱きついて喜びを表現していた。

それだけで好意を持たれているとは思っていなかったのだが…。

中学でもスミスは僕に異常に話しかけに来ていたし登下校はいつも一緒だった。

自宅が目の前なのでそれも自然な流れだと思っていたのだが、それは自然な流れではなかったらしい。

同級生にはよく冷やかされていたのにスミスは満更でもない顔をしていた。

思い当たる節はいくらでもあったのだが僕は見てみぬふりを続けていたのだ。

それは何故かと言えばスミスとは大人になってもずっとご近所なのだ。

いつまでも幼馴染なスミスと恋愛関係に発展したくない。

付き合ってもスミスとは気が合うだろう。

だけどもしも別れたときのことを考えるとスミスとは付き合いたくないと考えてしまう。

幼馴染という関係性が崩れるのは絶対に嫌なのだ。

「気付いてて無視してたんだね…」

「そういうわけではないんだけどね」

「じゃあ何?」

「スミスとは幼馴染のままいたいだけなんだ」

「………私はそうじゃないな」

僕らは言葉に詰まり黙ったまま帰路に就く。

自宅の前に着くとスミスは僕に提案をしてくる。

「あの娘にナイショで付き合っちゃう?」

「………」

黙ったまま首を左右に振ることを考えているとスミスは先に口を開く。

「っていうのは冗談だけど。これからは暇さえあればタケルの部屋に行くね?♡」

スミスはそれだけ言い捨てると僕の返事も聞かずに自宅に入っていくのであった。


「あの娘と何もなかったよね?」

ビデオ通話中にルナは疑心暗鬼になっているのか僕に問いかける。

「なにもないよ」

「ホント?」

「うん。何かあったら困るし」

「困る?」

「僕にはルナが居るから」

正直な気持ちを口にするとルナは満足したのか嬉しそうに微笑んだ。

「モテるタケルも大好きっ♡」

あまりにも感情が乗っていたので思わず♡を想像してしまった。

「それじゃあまた明日ね。放課後はネットカフェにでも行こ?」

「うん。わかった。明日ね」

そこで電話を切ると明日に備えて眠りにつくのであった。


帰りのHRが終わった頃。

クラスメートの女子生徒が僕のもとを訪れる。

「タケルく〜ん。今日クラスの皆で遊び行くんだけど〜。どう?」

気の抜けた声を出す蛇川へびかわカナに首を左右に振って応えると彼女は僕に耳打ちをする。

「彼女の言いなりになってばかりいると別れた後に独りになっているかもよ?今の内に前みたいに他の女子にも良い顔しておいたほうが良いんじゃない?前のタケルくんの方が絶対魅力的だったよ?♡」

蛇川は僕の手を引いて立ち上がらせる。

そこにやけに冷ややかで殺意の籠もった空気が流れる。

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