第7話第二幕が始まろうとしていた
「今まで辛かったでしょ?私に後ろめたい気持ちを抱いたまま付き合い続けていたんだから。でも私だけはタケルを許して愛してあげる。いつまでもどこまでも。ずっとずっと…」
ルナはお仕置きと言っておきながら僕のことを優しく抱きしめると頭を撫でてくれる。
「お仕置きは…」
そんな言葉が不思議と口をついた。
「そんなものしないわよ。私はタケルを愛しているんだから。ずっとずっと愛しているよ」
ルナはその後も僕を優しく抱きしめると頭を撫で続けた。
「ごめんなさい。ルナに悪いことした。でも僕は本当に今ではルナを愛しているから…」
「わかったから。もう大丈夫だよ。心配しないで?」
ルナはその後も頭を撫で続けてくれて僕は申し訳無さで涙しそうだった。
しかしながら涙を堪えるとそのまま目を瞑って彼女の胸に顔を埋める。
ルナは僕を離すとそのままベッドに寝転がせた。
彼女は立ったまましばらく部屋中を眺めていた。
「懐かしい写真…」
そんな言葉が聞こえた気がした。
もしかしたら僕がウトウトしていて空耳が聞こえていただけかもしれない。
まどろみの中でルナがコルクボードに張られている写真を長いこと眺めていたような気がした。
だが睡魔に勝てずにそのまま眠りについてしまうのであった。
夢を見ている。
少年野球団に所属していた時の夢だ。
僕は一年生から六年生までずっとレギュラーメンバーに選ばれていて中々に活躍もしていた。
最終学年のこと。
優勝がかかった試合の夢を見ていた。
相手チームのピッチャーは背の高い女子だったのを何故か覚えている。
同点で迎えた最終回に先頭打者だった僕が意表をついてセーフティバント。
そこから三塁まで盗塁。
内野ゴロの間にホームに戻りサヨナラで優勝したんだ。
試合後に相手ピッチャーは僕のもとに訪れて悔しそうな嬉しそうな複雑な表情を浮かべて言ったんだ。
「いつかまたね」
その女子は酷く可愛い顔立ちだった。
思わず見惚れてしまうほどに…。
中学生になると僕は野球をやめてしまい彼女との約束は果たせなかったのだ…。
そこで目が覚めて部屋を見渡す。
ルナは椅子に座って僕の寝顔を眺めていた。
あの時の彼女とルナが重なる。
(そんなわけ無いか…)
自分の思い過ごしだろうと頭を振るとルナは僕に微笑んで口を開く。
「あの時の写真だね」
コルクボードに刺さっている優勝記念の写真を指さしたルナは懐かしそうに微笑んだ。
「やっぱり…もしかして…あの時のピッチャー?」
ルナはそれに満足そうに頷くと投球ホームを取ってみせた。
「マジか…じゃあ…何ていうか…久しぶり」
何故かそんな言葉が口をつくと少しだけ照れくさい思いに駆られる。
「キャッチボールしない?」
「いいよ。庭に行こう」
階下に降りると古いグローブを二つ手にとってお互い左手にはめた。
そこから僕らは空白だった時を埋めるように、あの時の約束を果たすように日が暮れるまでキャッチボールをして過ごす。
言葉を介さない僕らだけの特別なコミュニケーションを取ると二人して満足げな表情を浮かべた。
「これからもよろしくね?」
「こちらこそ」
そうして僕らはその日から本当の意味での恋人になっていくのであった。
「タケルから離れてくれない?私のものなんだけど?」
スミスは夜の歩道でルナに問い詰める。
「今まではそうだったかもね。でも今は私のものだから」
「必ず奪い返すから。どんな手を使っても」
「望むところ」
スミスとルナは激しい舌戦を終えるとお互い帰路に就く。
ここからルナ以外の女子も加わった第二幕が始まろうとしていた。
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