第5話ちょっとやばいかも…
金曜日の放課後のこと。
「じゃあ明日ね。楽しみにしてるから」
自宅までの最寄り駅で降車するとルナは車内で僕に笑顔で手を振った。
「また後で」
後でというのはルナと付き合ってから数日が経つが時間が空き次第ビデオ通話をしているのだ。
他愛のない話に報告など…。
報告とはもちろん女子と関わっていないかの確認をされているのだ。
ルナは疑り深く嫉妬が激しい。
もちろん束縛も激しいわけで…。
ルナの事をあれこれと想像しながら帰路に就いていると…。
「タケル〜!今帰り〜?」
後ろから僕を呼ぶ女子の声が聞こえてきてそちらに振り返る。
「スミス…」
彼女の名前は
生まれた時から中学校まで一緒の幼馴染である。
何よりもスミスの家は僕の家の目の前なのだ。
「あれ?どうしたの?元気ない?」
「いやぁ…ちょっとわけありで…」
ルナとの約束があるのでスミスとも関わることが出来ないと思っていると、そんな事情の知らない彼女はグイグイと僕に話しかけてくる。
「学校はどう?放課後に一人だなんて…もしかして友達できてない?」
スミスは誂うような言葉を口にしてケラケラと笑うと僕の顔を覗き込んでいた。
「いや…友達は沢山いるよ」
「ふぅ~ん。じゃあどんなわけあり?」
流石幼馴染と言うか僕の表情一つ見るだけで事情を分かってくれるスミスを少し尊敬した。
「あぁ…まぁ…彼女の言いつけを守っているんだよ」
「彼女!?彼女出来たの!?どんな娘!?写真はないの!?」
スミスは異常に食いつくと目を輝かせていた。
スマホをポケットから取り出すとルナの写真を見せる。
「待って!超絶美少女じゃん!何で付き合えたの!?」
「それは…」
僕は罰ゲームから発展した告白も含めてしっかりと成り行きを説明するとスミスは苦々しい表情を浮かべた。
「サイテー。趣味悪い遊びしてるね」
「言いたいことは分かるけどさ。仲間が盛り上がっているのに水を指すようなこと言えないだろ?」
「タケルが言い出したわけじゃないんだよね?」
「当たり前だろ」
スミスは仕方なさそうに納得してくれると一つ頷いた。
「それで?彼女の言いつけって?」
「あぁ…女性と関わるなって言われてる」
「………」
スミスは僕の言葉を耳にすると思案しているような表情で空を眺めていた。
「じゃあ今の状況を見られたらまずいってこと?」
それに頷くとスミスは何がおかしいのかケラケラと笑っていた。
「何がおかしい?」
「えぇ〜だって一生女性と関わらないで暮らすことなんて出来ないじゃん。その彼女とはきっと上手くいかないと思うな」
「そう思うか?」
「うん。束縛が激しすぎるしメンヘラ?地雷?そんな感じするから早いこと逃げておいたほうが良いんじゃない?めちゃくちゃ美少女だから勿体ないけど」
スミスの言っている事は理解できる。
それなので一応忠告を耳にしておくと家の前でスミスに別れを告げる。
「じゃあ…」
「あ!そうだ!明日の昼過ぎから家の庭でBBQするからタケルも来てよね!じゃあね〜」
スミスはにこやかに笑うと僕に手を振って自宅に入っていく。
(明日は予定があるんだが…ルナとの約束をこれ以上破るわけにもいかないしな)
そんな事を考えながら自宅に入ると母親が僕の顔を見るなり明日の予定を尋ねてくる。
「明日って暇よね?角さんの家でBBQするから予定空けておいてね?」
「いや無理。彼女と遊ぶから」
正直に明日の予定を口にして拒否をするのだが母親は納得してくれなさそうだった。
訝しんだ表情を浮かべると僕の目の奥を覗き込んでいた。
「彼女?妄想かなにかの話?」
「実在するから」
誂うような言葉を向けられたが凛とした表情で迎え撃つと母親は戯けたような表情を浮かべて口を開く。
「そう。じゃあその娘も呼びなさい。言っておくけど角さんとの予定の方が優先だからね?付き合い長いんだし、これからも付き合いが続くんだから。角さんママとパパには私から一人増えるって伝えておくから。彼女にもちゃんと伝えるのよ」
「ちょっと…!勝手に決めるなよ」
食って掛かって反論の言葉を口にしようとするが…。
「お母さん忙しいから言うこと聞いてちょうだい」
母親は僕をいなして仕事に戻るのであった。
「斯々然々で明日の予定を変更しても良い?」
ビデオ通話でルナに問いかけると彼女は冷ややかな表情を浮かべていた。
だが少しするといつもの微笑みを取り戻して頷いてくれる。
「わかった。ご両親にも挨拶したいし…その幼馴染にも挨拶したいしね…」
ルナのその微笑みは酷く冷たく思えるような妖しいもので僕は出来れば明日は来ないでほしいと少し願うのであった。
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