第5話 冷蔵庫

 昴は改めて冷蔵庫を確認する。修理依頼が来た時点でかなり古い型番ということはわかっていたが、思っていたほど古さは感じない。きちんと手入れされている証拠だ。前面下部の電源スイッチはONになっていたが、パイロットランプは消えており、庫内も冷えていなかった。昴は一旦冷蔵庫を引き出して、裏側に回転させた。下部にあるパネルを外し内部を確認する。コンプレッサーは部品交換の跡が見られた。昴は手慣れた手つきでいくつかのチェックを行い、基盤の不良と断定した。幸い、コインパーキングに駐車してきた社用車には部品がある。交換すればすぐに直せそうだ。昴は開けっ放しになっている事務所のドアをノックして話しかけた。

「お客様、今よろしいでしょうか?」

「どうぞ、お入りください」

昴からは直接見えない左側の奥の方向きから女性の声が聞こえた。

「失礼します」

昴が事務所に入ると作業机で女性は、『嫌な宿題』と言っていた確定申告の記入に宣言通り取り組んでいるようだった。

「どう?あの冷蔵庫、直りそう?」

女性は作業を一旦止め、昴の方を向いて訪ねた。表情はどことなく不安そうだ。

「はい、基盤という部品の故障でした。以前お伝えしたお見積りの範囲で修理可能ですが、修理を続行してもよろしいでしょうか?」

昴が答えると女性は椅子から突然立ち上がり、満面の笑顔で

「ホント!?ぜひぜひお願いします!…超嬉しい!…あ、オバさんなのに「超」という言葉を使っちゃって超恥ずかしい…」

と顔を赤らめ、少し恥ずかしそうに椅子に座り直した。

昴は女性の予想外の喜び方に対するリアクションがすぐに思い浮かばず、

「では、部品を取りに行ってきます」

と言って通用口へ向かうのが精一杯だった。

 

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