第19話:新装開店

「よし! 準備おっけー! これで明日からお店開ける……かな?」


 あれから数日、ユキだけでなく、村長やその家族、お菓子屋さん、他にも色々な人やお店に協力してもらったり、意見を聞いたりして、かき氷屋の開店準備を進めていた。


「私も自信ないけど、多分、大丈夫かな。シロップ作った、メニューも作った、看板も、外装も、ゴミ箱も、簡単なテーブルとイスも、チラシも用意した」


「かき氷機、プラスチックのスプーンと容器、レジ、小型冷蔵庫、オーケー」


「ネルちゃん自分で氷出せるから冷凍庫いらないの強みだよね」


「水さえあれば氷はなんとかなるからね……水道も使えること確認済みだし、うん、たぶん大丈夫」


「明日は学校お休みだから、朝から一緒に頑張ろう!」


「うん。――こんなに緊張するの、初めてかも」


 もしかしたらあの時、魔方陣を書けと言われた時以上かもしれない。


「折角だからさ、今作って食べてみようよ。試食は何度もしたけど、改めて」


「うん。そうだね。何味がいい?」


「わたしイチゴ!」


「じゃあ私はメロンにしよ」


 一抱えほどの氷を作り出し、かき氷機にセット。ここ数日で何度となく行ったように、氷を削り盛り付ける。シロップは、イチゴジャムやメロンの果肉、ミカンの缶詰などを使って一工夫。市販品とは差別化を図っていた。


 時間はもう夕方に差し掛かり、商店街を行き来する人たちは忙しない。店の前のテーブルでかき氷を食べるカスタネルラとユキをみて、物珍しそうに見ていく人や声を掛けていく人もいた。そういう人たちにはチラシを渡して明日から開店の旨を伝える。


「んー! 美味しい! わたしかき氷ってお祭りでしか食べたことないけど、これずーっと美味しいし、なんか元気が出てくる気がするよ」


「シロップが手作りだからかなぁ。その分値段はちょっと高くなるけど」


 特にメロンは買うと高いので、栽培している畑にお願いして、傷や形が悪いものを格安で仕入れている。


「んー、もちろんシロップもおいしいんだけど、氷だと思うんだよね、普通と違うのは。ネルちゃんが作った氷だから、ネルちゃんのエキスでも入ってるのかな」


「エキス……」


 実際、魔術によって作られているので、魔力が混入している可能性は十分にあるのだが。


「うん、美味しかった! これならきっと売れるよ」


「だといいな。……よし、考えても仕方ない。今日も村長さんの家でご飯ご馳走になろう」


「すっかりお世話になっちゃったから、無料券渡しておこうね」


 カスタネルラとユキはかき氷の容器を片付けた。シロップとその材料は小型冷蔵庫に保存している。


「よし。じゃあ明日、頑張ろう!」


「うん、頑張ろう!」


 二人で笑い、夕方の商店街を歩く。――本当に、楽しみだ。


◆◇◆◇◆◇


「はい、イチゴお待たせしましたー!」


「ユキちゃん、次メロン!」


 翌日、学校が休みということもあり、また宣伝の効果もあり、かき氷屋は大盛況だった。食べる場所が全然足りなかったので、村長が商店街にある空き地を開放して、テーブルとイス、ベンチやパラソルを商店街のいろんな店から借りて設置してくれた。今はみんなそこでかき氷を食べながら思い思いに雑談をしている。


「良かったな、好評で」


「あ、村長! ありがとうございます、まさかこんなに来てくれるとは……」


「助かったよー、神社とか公園はちょっと遠いから、そこで食べてもらう、だとここまで盛り上がらなかったと思うし、ありがとう!」


「前にも言ったが、商店街が活気づくのは俺にとっても嬉しいことだからな。そういや、昼飯食べる時間ないだろ。何か持って来てやるよ」


「ありがとうございます!」


 村長は奥さんの手作りおにぎりを作ってきてくれた。合間に食べたおにぎりは、今まで食べたどんな物よりも美味しかった。


◆◇◆◇◆◇


 結局、その日は夕方までお客さんが途切れることはなく、三日分を見込んでいたシロップが切れて店じまいとなった。


「いやー、すごかったね! 大成功!」


 イエイ! とハイタッチをするユキ。


「うん、良かった。みんな美味しいって言ってくれて、うれしかったわ」


「元気になる、って言ってたからやっぱりネルちゃんのエキスの力が大きいと思うよ。夏バテしてたおじいちゃんおばあちゃんが喜んでた」


「ほんと? 嬉しいな……」


 ――カスタネルラは、手のひらを見つめる。自分の力は、基本的には何かを倒すことを目的としたものだ。異世界ではこの力で他人の命を奪って生きてきた。それが。


「私のこの力が、誰かに喜んでもらえることなんてあるんだね」


 今日は、たくさんの人の笑顔を見た。恨み言、断末魔、憎しみ。そんな感情とは程遠い、喜び。


「なんかね、初めて、私は生きていていいんだと思えたよ」


 魔王を倒すなんて大きなことをしなくても。自分には価値があるのだと、人を喜ばせることができるのだと。――そう、知ることができた。


「ユキちゃん」


「ん? なに」


「ありがとうね」


「よくわからないけど、どういたしまして」


 二人、微笑みあった。そうして、人生で一番幸せだった一日が、終わっていく。また明日も、同じように幸せであればいい。そう思いながら、夕焼けの空を見上げた。


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