第18話:開店準備

「すごい! なんか話一気に進んだね?」


 かき氷屋のお店が決まり、かき氷機も借りられたのだからたしかに大きな進歩だ。


「そうそう。基本的には村長さんのおかげ」


「やるじゃん村長!」


 ビシッ! と親指を立てるユキ。


「そりゃ、伊達に村長やってないぜ」


 同じく顎に手を当ててポーズを取る村長。ノリがいい。


 麦茶を飲みながら、わはは、と笑い合う。まぁそれだけ幸せな空間ということだ。


「で、ネルちゃんはこれからお掃除?」


「うん。とりあえず結構埃っぽかったし、大変そう」


「あのちっちゃいお店だよね。調理場とカウンターしかない感じの」


「おう。あそこでもかき氷屋なら十分だろ?」


「うん。そうだねぇ。ただ、掃除するだけじゃなくて、お店の名前とか、看板とか、外装とか、宣伝とか、メニューとか、いろいろ考える必要はあるから……すぐに開店! ってわけにはいかないなぁ」


 ユキは聡明だ。十歳でここまで考えられる子はなかなかいないだろう。彼女の母が学校に通わせたいと思ったのも頷ける。


「そうね確かに。そもそもシロップがないわよく考えたら」


「市販のでいいんじゃないか。家庭用のなら多分売ってるぞ」


 商店街に行けば確かにシロップくらいは手に入るだろう。


「それでもいいけど、折角なら美味しいの作りたいじゃん」


「市販品だとコストもかかりそうだから、できるなら自作したほうがいいわ」


 元手がそんなにない状況なので、できれば節約をしたい。


「作り方……は、お菓子屋さんに聞いたほうがいいね。それ次第でメニューとか値段は決まるから、あとはお店の名前かな……おっと、そろそろわたし収穫の手伝いに行かなきゃ」


「そっか。終わったらまた村長さんのうちで落ち合おうか」


「そうだねー。わたしも色々手伝ったほうがいい気がするんだけど、お野菜ないと困るしねぇ」


「まぁ、とりあえず私がやれる範囲で頑張ってみるよ。夜相談するね」


 ユキと別れ、まずは掃除道具をもって店の掃除に取り掛かる。村長の家から商店街までは五分もかからないので楽だ。まずは掃き掃除、拭き掃除を中心にしつつ、メニューや外装のことを考えた。


 幸い、商店街の近くに公園や神社があるが、すぐに食べたい人もいるだろう。店の前にイスとテーブルでも置こうか。そんなことを考えながら掃除をしていると、あっという間に夕方になった。ひとまず中の掃除はひと段落したので、ユキと合流するため、村長の家に向かう。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「お、ネルちゃんお疲れ。掃除はどう?」


 家の前、村長と話しながらユキが待っていた。


「ユキちゃんもお疲れさま。ひと段落したから、あとは内装外装の準備かな……夕飯準備しながら相談しよう」


「お前ら、忙しいから準備も大変だろ。今日は飯食ってけ」


 村長が二人に呼び掛ける。


「え? いいの?」


「おう。魚も焼いてあるからすぐ食べて、その分店の準備に時間使いな」


 夕食用の魚は、掃除するにあたって村長の家で預かってもらっていたのだ。


「助かるー。村長野菜あげるよ」


「おう。これは明日に使うか。二人とも店の準備の間は飯作ってやるから食べてけ。あとユキ、仕事しばらく休んでネルと一緒に作業しな。おばちゃんには俺から言っとくから」


「え、でもお野菜が」


「それも含めて出してやる。気になるなら後で店の家賃と一緒に請求するから、とりあえずかき氷屋準備進めちまえ。二人の生活のためなんだから、二人でやったほうがいいし、そのほうが効率的だろ」


 これは、本当に助かるフォローだった。正直、かき氷屋といってもカスタネルラにはほとんどイメージがわかない。ここから先一人でどうしようか、悩んでいたところだったのだ。


「……村長、助かります、ありがとうございます」


「俺としても商店街に新しい店ができるのは歓迎だからな、気にするな」


 そうして、村長と、奥さんと、村長の息子さん娘さん(初めて会った)。と五人で食事をとった。カスタネルラと娘さんが同い年ということもあり、話は弾み、かき氷屋のメニューについても色々意見をもらうことができた。


 食事をとって、すっかり暗くなった道をユキと手をつなぎ、歩く。


「今日は楽しかったねぇ」


「そうだね。色々話も聞けたし……明日はお菓子屋さんにシロップの作り方聞かないと」


「メニューの相談もしたいね。学校終わったらお店行くから、一緒に行こう」


「うん」


 右手に温かさを感じながら、カスタネルラは空を見上げた。虫の音が、響く中、一筋の流れ星がかすかに瞬く。


「あ、あれ流れ星じゃない!?」


 ユキも見ていたらしく、空を指して喜んでいる。


「流れ星に願うと、叶うって聞いたことがある」


「じゃあ次に見つけたときのために準備をしておかないとね」


「ユキちゃんは何を願うの?」


「うーん……色々あるけど、とりあえず」


 ――ネルちゃんとずっと一緒にいたい、かな。


 そう、微笑みながら、彼女は言った。叶わないことを知っているような、儚げな、表情だった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る