第二章 四面楚歌の国
第5話:バトルロイヤル
軽い酩酊感。おそらくこれは転移の影響だろう。またも見慣れない場所。新たな異世界に飛ばされたらしい。
カスタネルラは周囲を見渡す。探すまでもなく、自身の背後に一人の少年が立っていた。驚いたような、喜びに満ちているような、顔。
「ほ、本当に、来た……」
彼が、今回の召喚者、だろうか。その割には特に魔力を感じない。ただ、その手には巻物のようなものを持っている。アレが召喚用の魔道具、なのだろう。薄暗い室内だ。物が雑然と並んでいる。召喚の際はこういう場所でなくてはならないものなのだろうか。
「初めまして。私はカスタネルラ。それで……私は、何をすればいい?」
挨拶は事務的に。カスタネルラは努めて感情を殺した。どんな悲惨な状況にも、耐えられるようにと。
「お、俺は、
「バトルロイヤル?」
自信なさげな少年の様子に不安を覚えつつ、カスタネルラは事情を聞いた。たどたどしい説明も多かったが、まとめるとこういうことらしい。
・とある場所でバトルロイヤルが開催され、勝者は願いを叶えることができる
・少年には叶えたい願いがあるが、戦闘能力がない
・そのため、祖父の形見の巻物を使い、カスタネルラを呼び出した
・細かい説明は、この後とある場所で行われるので一緒に来てほしい
説明を聞き、カスタネルラは頷いた。
「なるほど……事情は概ね理解したわ。――ただ、一つだけ教えて」
「ああ」
「あなたの願いは、何?」
少年は、少し唇をかんで、カスタネルラの目を強く見つめた。
「――――救いたい人がいる。誰の命に代えても」
カスタネルラは、少年の想いを聞いて、少し笑みを浮かべた。
「これからよろしく、ソウジくん」
◆◇◆◇
「――これが、この世界の町……」
カスタネルラは、説明が行われるという場所に総司と共に向かっていた。既にあたりは暗く、この時間からの外出に不安もあったが……そんなものは、大通りに吹き飛んだ。
「え? ああ、そうか。別世界から来たから、見慣れないか」
「こんなにも、夜が明るいのね、ここは」
カスタネルラの住む町は、大陸の中では文化レベルが最も進んでいて、夜でも出歩けるよう街灯の整備はなされていた。だが――ここは、レベルが違う。特に商店の明かりは恐ろしいほどだった。夜がここまで眩しく、人々は当たり前に闊歩するのか。
「うん。そりゃ路地とか暗いところもあるけど、店は夜明るいから、出歩くのに困りはしないな」
「ここまで進歩をしていても――こんな中でも、殺し合いは行われるのね」
「本来はやっちゃいけないことだ。でも、そういう世界は、残念ながらどこにでもあるみたいだ」
総司は、少し後ろめたそうに言う。それに参加して、利を得ようとしている自分を恥じているのかもしれない。
「――時間を取らせたわね。行きましょう」
色々事情や、この世界のことを聞いてみたい気もしたが……まずは、目的地に向かうことにした。カスタネルラがすべきことは馴れ合いではない。――強くなる。それだけだ。
◆◇◆◇
「お集まりありがとうございます。ではこれから、ゲームのルールを説明します」
とある高い建物の広い一室。薄暗いが大きな窓で外が良く見える。そこで、黒服の背の高い男性が、笑みを浮かべながら口を開く。
集まっているのはカスタネルラたちを除き六組。人数はバラバラで特に規定はないらしい。
「まず、事前に伝わっていると思いますが、皆様には、殺し合いをしていただきます。場所はこの町――桜花町内であればどこでも構いません。この町内においては、あらゆる犯罪はもみ消されます。ただ、この町を一歩出れば、殺人は犯罪ですので間違いのないように」
町内全部を使ったバトルロイヤル……なるほど、思ったより時間はかかりそうだ。カスタネルラは話を聞きながら他の参加者たちをちらりと見た。――少なくとも、魔力量が特筆して高いものはいない。火竜の時のような圧も感じない。これなら、少なくとも手も足も出ない、ということはないだろう。
「殺し合いの結果、生き残ったものに、『願いを叶える道具』を貸与します。戦いでの敗者から魔力を吸収し、望みをかなえる仕組みですので、どんな願いでも叶う、というわけではないですが――例えば、不治の病を治す程度なら、可能かと」
男は、こちらを――総司の方を見て、にやりと笑ったように見えた。
「殺し合い自体にルールはありません。どんな道具を使っても、何人が参加しても大丈夫です。ただ――代表者も必ず殺し合いには参加すること。それは守っていただきたい」
なるほど。例えば、戦闘能力のないものを代表者として、どこかに逃走。その隙に雇われ兵たちが他の代表者を皆殺しに、ということはできないということだ。となると自然、カスタネルラが代表者にならざるを得ない。
「期限は、本日から二週間。それまでに決まらなければ――参加券は失われ、願いは叶いません。また、一日に最低一回、一時間は、戦闘範囲に入っていただきます。そうしないといつまでたっても終わりませんからね。守られない場合は参加権が失われます」
「万が一、リタイアしたい場合は、後ほどお伝えする電話番号までご連絡を。……説明は以上です。では、代表の方はこちらに。参加権を配布します。――同時にこれは、撃墜マーク。他の参加者分含め、七つそろえたものが勝者です」
黒服の男の元へ、参加者たちが並ぶ。参加者の右手に、何か魔術を施しているようだ。――おそらく、契約に関わる何か。
カスタネルラの順番が来た。胡散臭い男だ、と思いながら、促されるままに右手を差し出す。すると――男が何らかの魔術を発動させた。抵抗したい気持ちはあるが、受け入れる。特に命への危険はなさそうだ。魔術の後に右手を見ると、ピンク色の花びらが一枚、描かれていた。
「これが、参加券です。倒すとその相手の花びらが、右手に移ります。貴女は――花を咲かせられるでしょうか?」
――なんとも、趣味の悪いゲームだ。カスタネルラはそっと嘆息した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます