第4話 アプリがバズる

 同日深夜、某SNS。


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 まるこ@鬼嫁系インフルエンサー☑ @maru2023aa

 ウチの旦那を叩いてイケメンにしてみたwww


 うまたろう@umauma

 返信先: @maru2023aaさん

 ひどすぎて草


 ちみ@uieu9989e

 返信先: @maru2023aaさん

 元ネタは何ですか?


 まるこ@鬼嫁系インフルエンサー @maru2023aa

 返信先:@uieu9989e

 これだよ~


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 たろう@tarotaro29281

 返信先: @maru2023aaさん

 なにこれ? 企業アカウント?


 がう@3872913eique

 返信先: @maru2023aaさん

 アイコンがカナブンwwwww

 読まれてなさすぎwwww


 まい@maimama18782

 返信先: @maru2023aaさん

 アプリ名わろ


 うにうに@uni883781

 返信先: @maru2023aaさん

 アプリ意外に使えるかも。

 亡くなった旦那がプレゼントしてくれたオルゴールが直った!


 まるこ@鬼嫁系インフルエンサー☑ @maru2023aa

 返信先: @uni883781さん

 全アタシが泣いた(´;ω;`)


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「このセンスのないアプリ名……間違いないわね!」


「くふっ」


 照明を落とした無機質な部屋で、SNSを見ていた少女が少々不気味な笑い声を立てる。


 サラサラの金髪にサファイアのような碧眼。

 有名私立高校の制服である蒼いブレザーに身を包んだ少女の名は、山川 真由巫女 ヘンダーソン(やまかわ まゆみこ へんだーそん)。


 日本最大の総合エンジニアリンク企業、山川重工の共同CEOにしてアイドルJKインフルエンサーという、漫画のような存在の少女である。


「ぐふふ、見つけたわよ、!」


 ずびしっ、とタブレットに向かって指を突き付ける。

 仕事の都合でイギリスに留学していたせいで、疎遠になってしまった幼馴染で、初恋の人。


「うへへ、このまゆちゃんが、今度こそお兄ちゃんをゲットするんだから!」


 ぶばっ


「やっべ、鼻血が……」


 鼻血で制服のインナーを真っ赤に染めるマユミコ。

 アイドルJKらしからぬ醜態だが、今はオフだから問題ないのだ。


「……ふう、善は急げね!!」


 傍らのガラステーブルに置いたスマホを起動すると、どこかへ通話をつなぐ。

 己の運命が動き始めたことを、まだ知らないトモキなのだった。



 ***  ***


「……マジで?」


 結局会社の仮眠室で夜を明かしてしまった。

 シャワーで目を覚ました後、かなでん公式アカウントを開いた俺の第一声がこれである。


 それは仕方がないだろう。

「いいね」は良くて10、表示回数がせいぜい200回の公式アカウントが、とんでもない数字を叩き出していたのだ。


 その原因は、昨日の投稿。

 アイナが作ってくれたアプリをアップした記事だ。


「ふお?」


 スリープ状態から目覚めたアイナが不思議そうな顔でPCの画面を覗き込んでくる。


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「えっと」


 何度目をこすっても数字は変わらない。

 コメントの一部を確認する。


 これ何に使うんだよ、と揶揄するようなコメントもあるが、おおよそ好意的な反応だ。


「ああ、有名インフルエンサーに見つかったのか」


 若い女性に絶大な人気のある毒舌カリスマインフルエンサーが引用した記事がバズったらしい。アプリストアのログを確認すると、「なおるくん」も5万人くらいがダウンロードしたみたいだ。


「や、やった!」


 DMを確認すると、数社のネットメディアから取材の申し込みが入っている。

 ライバル企業に比べ、ネットでの知名度で後れを取っている弊社である。

 これは充分な”成果”と言えるだろう。


「ありがとう、アイナ!!」


 俺はアイナを抱き上げると、くるくると回る。


「ふへ!?

 トモキが喜んでる……うれしい♪」


 俺の腕の中で、にへらっとした笑顔を浮かべるアイナ。

 今日のおやつには大好きなシュークリームを買ってやろう。


「よ~し、やるぞ!!」


 俺は成果発表会までの1週間、会社に泊まり込みアイナの調教に励むことを決めた。

 だが、舞い上がっていた俺は気付かなかった。


『いやでも、このアプリ危なくね?』


 大量のコメントと引用先の中に、批判的なものが混じっていたことに。

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