第7話 巨神獣襲来
———それは突然起こった。
「……あれ?」
「どうした?」
「……分かんないけど、この島の地下から一瞬巨神獣の気配がした様な……」
陽が少し傾き夕方に差し迫った辺りくらいで琴葉が突然海の方へと顔を向けた。
何事かと思ったが、どうやら琴葉自身もその違和感の正体を掴めていないらしい。
しかし、琴葉の感知力は俺を超えるほどなので、一概に琴葉の気のせいと言うわけでもないだろう。
「———探してみるか?」
「———いいの?」
俺がそう提案すると、琴葉が恐る恐るといった感じで訊いてきた。
まぁ先程気にせずデートをしようと言った手前、自分がデートを中断させるのは如何なものかと思っているのだろうが、
「琴葉がやりたいことは、俺のできる範囲で全部叶えてやるって決めてるんだ。だから気にするな」
「……ありがと神羅。それと、ごめんね」
「謝らなくていい。じゃあ———探していくか」
「…………うんっ」
俺達はそうして先程までいた超大型服屋から出て、人の少なそうな所を探す。
だが、思った以上にこの島に人が集まっている様で、中々人の少ない場所がなかった。
「どうしてこんなに多いんだ?」
「今日は夜に打ち上げ花火があるらしいよ。それも数万発くらいの世界最大級の。だからそれを見るために沢山の人が来てるのかも」
「なるほど」
確かに花火なら沢山の人が来るかもしれないな。
韓国では打ち上げ花火って少ないイメージがあるので、物珍しさに余計集まっているのかもしれない。
「———神羅」
「ああ、ちゃんと俺も今回は感知した」
しかし、それは琴葉の言っていた地下からの反応ではなく———島から数キロほど離れた上空に此方に向かって来ている巨神獣の気配だが。
数はざっと数百体くらいで、自家用ジェットの時よりだいぶ多く、何やらS級はチラホラと、SS級とSSS級も2体ずついるらしい。
「ちょっとソアさんに電話———」
———〜〜〜〜〜♪
琴葉が掛けようとしたのとほぼ同時にソアさんから逆に電話が掛かってきた。
『———神羅様、琴葉様! ソアですが、どうやら此方に向かってくる巨神獣がいる様です』
「ああ、それは俺達も気付いた」
『うっ……神羅様のお声が私の耳元に……じゃなくて、私自身は反対なのですが、韓国からお2人に援助要請が出されました』
「———了解だ。今すぐ向かう」
『即答ですか!?』
「———というわけだから電話切るね」
琴葉はそう言って電話を切ると、腕時計型の何かを操作して一瞬にして戦闘スーツへと着替えた。
俺は前回の戦いで戦闘スーツを大破させたのでこのままの姿で行くしかない。
「———それじゃあ行くか」
「———うん」
俺達は巨人獣の下へと飛翔した。
「…………多いな」
俺は目の前に居る大量の鳥型巨神獣を眺めながら小さくため息を吐く。
幾ら一体一体が弱いと言っても、何百体も居れば手こずるのは間違いない。
「あ、そう言えば韓国から『土地に被害がなければ幾らでも力を使って貰って構わない』だって」
「そうか。それなら余裕だな」
俺は意識して身体の枷を外し、明らかに身体能力が上がったのを確認するとグッと拳を握る。
「———消えろ」
ゴォオオオオオオオオオッッ!!
———瞬間空間を揺るがす程の極大の拳圧が、巨神獣達をまるで塵の様に消し飛ばず。
これによって粗方減ったが、S級以上の巨神獣達数十体が残っている。
「A級までは全滅したな」
「相変わらず凄いね。…………私も早く隣に立てる様に……」
「ん? 何か言ったか?」
琴葉が最後何かを呟いていたが、巨神獣の叫び声が五月蝿いせいで聞き取れなかった。
しかし『なんでもない』とはぐらかされてしまう。
少し気になったが、巨神獣が襲いかかってきたせいでそのタイミングを逃してしまった。
「———グルルルァアアアアアアアアア!!」
「……ドラゴンか?」
「うん。SSS級竜型巨神獣『レッドドラゴン』だよ。世界に数体居るらしいけど、中々みられない種だね。……大体はヨーロッパ辺りにあるはずだけどなんで此処に居るんだろう?」
琴葉はそう言って首を傾げながらも、例の水創造と絶対零度の合わせ技の異能を発動させて的確にS級巨神獣を殺していく。
俺も負けてはいられないな。
「———《矛盾の魔力:モードシフト・撃滅》」
全身から銀色の魔力が噴き出し、俺の身体を包み込み、身体を白銀に染め上げて周りに白銀のオーラが顕現。
その果てしなく輝く魔力は辺りの全てを威圧する。
「グルル……」
そしてそれは1番後方にいたレッドドラゴンにも届いた様で、低い唸り声を上げて数百メートルはありそうな巨体に似合わない速度で俺に接近しては自然な動きで前脚を振るう。
前脚の鋭利な爪は、当たれば確実に服は切り裂かれてしまうだろう。
因みにこの服は琴葉に選んでもらった大切な服だ。
本当なら戦闘の時には絶対に着ていたくはないのでこう言ったデートの時にしかきないのだが。
なので———
「———お前の攻撃に当たるわけにはいかないんだ」
俺は一瞬にして奴の背後に周り、その身体の半分以上もありそうな立派な翼を手刀で切り落とす。
まるで業物の刀で斬ったかの様にゆっくりとズレ落ちた翼を見たレッドドラゴンは、痛みと驚きで悲痛の咆哮を上げる。
「グルォアアアアアアアアアア……ッッ!?」
翼を片方失ったレッドドラゴンは空中に留まっていることができず地に堕ちていく。
しかしそれを悠長に見ている俺ではない。
「これで終わり」
今度はレッドドラゴンの腹側に移動すると、全力で拳を振り抜いた。
———ズドオオオオオオオオオオオッ!!
「ガ、ガァ……」
腹に大きな風穴を開け、心臓を始めとした臓器を失ったレッドドラゴンは、瞳のハイライトを消してゆっくりと地面に堕ちていった。
俺はレッドドラゴンが死んでいるのを確認すると、琴葉のいる上空へと即座に帰還した。
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