第6話 一方その頃

 今回は三人称視点です。

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 ———時間は少し遡り、神羅達がデートを始めた頃。


「———遂にこの目で見る事が出来ます……!」


 何やら神羅達を木陰から眺める者がいた。

 

「そ、そうですね……ですが、本当に大丈夫なのですか……?」

「そうだぞ。これは完全にストーカー・・・・と呼ばれるヤツでは無いのか?」


 しかしどうやら1人ではなく3人いる様で、その内の2人は何処か遠慮気味だ。


 彼女達の正体は、最初のストーカーが世界一顔が広いことで有名な『神羅様×琴葉様を狂信する会』の会長であるミア。

 そしてそんなミアを嗜めるのが、韓国一人気で世界最高の回復系覚醒者『聖女』ソアと、アメリカ最強にして、公式の覚醒者の中で世界最強と名高い『女帝』アリシア。

 皆サングラスや帽子を被って変装しており、仮にその全てを外せば『World collect』は大変なことになり、運営どころではなくなるだろう。

 

 そんな世界の有名人は———


「———何を言っているのですかお2人共! こんなチャンス2度とありませんよ!? 神羅様と琴葉様のてぇてぇな姿が写真や動画ではなく生で見られるのですよっ!? それを見逃すと!?」

「「……ごくっ……」」

「安心してください! 神羅様達にはすでにお許しを得ております!!」

「「っ!?」」

「し、神羅様達からお許しがあるなら……」

「だ、大丈夫なのか……?」

「———あっ、神羅様と琴葉様が手をお繋ぎになりましたっ!! それも恋人繋ぎっ!!」


 ミアが指差す方向には、お互いに笑みを浮かべて指を絡め合う神羅と琴葉の姿が。

 そんな2人のてぇてぇの姿に、ソアとアリシアの葛藤などあっさりと消え去り、2人同時にミアの指差す方向をガン見し始めた。 


「「何(ですって)!? すぐに見なくては———アアア……てぇてぇ……」」

「でしょうでしょう……!」


 ———神羅と琴葉のデートを見る、というだけで大盛り上がりしていた。


 3人は神羅達が歩き出せば、1個数十億円もする『隠密用高性能リング』を装着して一定の距離を保ちながら尾行(ストーカー)する。 

 流石数十億するだけあり、リングの性能によって偶に2人が周りを確認する様な仕草を見せるものの、バレてはいない様だ。


「……どうしたのでしょうか神羅様……何処かデートよりも他のことに意識が向いている様な気がします」

「確かに……琴葉様も少し不服そうにしていますしね」

「一体どうしたのだろうか……?」


 3人が揃って首を傾げていると、神羅達はショッピングモールの質素なカフェに入る。

 そして3人が入ろうとした瞬間———


 ———ピロンっピロンっ。


「電話? 一体誰から———って琴葉様?」


 琴葉からソアに電話が掛かってきた。

 ソアは何事かと思い、恐る恐る出る。

 そんなソアの近くにミアとアリシアも集まり、必死に琴葉の声を聞こうと耳を傾けた。


「も、もしもし……琴葉様?」

『もしもしソアさん? 少し聞きたい事があるのですけど』


 琴葉の真剣な声色と敬語を聞き、本格的に何かがあったのだと悟ったソアも、先程の浮かれた気分を落ち着かせ、同じく真剣な声色で会話を続ける。

 その異様な空気にミアとアリシアも自然と仕事の様な顔になっていた。


「一体何があったのですか?」

『3人は私達が歩き出す前に何か不審な人物を見ましたか?』

「不審な人物……? 最初の方ですか?」

『そうです。どうやら神羅が、奇妙な2人組の者達が怪しい話をしていたらしいのです』

「……そうですか。此方で調べてみますので、お2人はデートを続けていて大丈夫ですよ」

『え、ですが……』


 通話越しから遠慮がちな声が聞こえてくるが、ソアは見えていないと分かっていても思わずと言った感じで拳を握る。


「———安心してください! お2人のデートを邪魔する奴らは私達が許しません! 絶対に見つけ出してやります!」

『……ありがとうソアさん。それじゃあ切りますね』

「はいっ! 神羅様にもお伝えお願いします」

『分かりました』


 そうして通話が切れ———ソアとミアとアリシアが1度顔を見合わせて頷くと———


「———私は今すぐ『World collect』の入場者を確認してきます。それとSPの方達へ『隠密用リング』を支給して見張りに着かせます」

「なら私もアメリカから覚醒者を複数呼ぶことにする。更にそいつらに異能力検知器も所持させます」

「私も独自に調査してみますね。ソアさん、アリシアさん、そちらはお任せします」

「「はい」」


 こうして一斉に3人は動き出した。







「———さて、私も動こうかなぁ……」


 ソアとアリシアから離れたミアが、1人呟く。

 しかしその呟きを聞かれることはない。


 何故なら———誰もが石像の様に動いていないから。

 しかもそれは人だけでなく、鳥もペットの犬も果てには木々さえもその動きを停止させていた。


「やっぱりコレ使うの疲れるなぁ……神羅様はもう抵抗してるし……流石神羅様! でも———」


 この現象を引き起こした張本人であるミアは、1度ひぃぃ……と声にならないため息を吐いた後、一瞬にしてとある場所に辿り着いた。


 そこは島の中心にあるショッピングモールの地下奥深くにある場所で、普通の方法では行く事が出来ない。

 しかし、ミアにはその程度容易だった。


 地下にあったのは、現代の有名な科学者ですら高度だと唸るであろうハイテクなコンピューターに、中は見えないが何かが入っているカプセル。

 そしてそこには、神羅が言っていた奇妙な2人組もいた。


 ミアは異能を解く。


「だから後数時間で———って第2始祖様!?」

「はい、始祖だよ。それじゃあ……ここの責任者を呼べ」

「———何ですか……ってミアじゃんか。ハローミア。何の用?」


 ミアが珍しく怒りを顔に宿した低い声で言うと、奥の扉が開き、そこから科学者の様な白衣に身を包んだ女が現れる。

 その女はふぁぁぁ……と欠伸をしながら無気力に手を振った。


 そんな女の下に一瞬で移動したミアは耳元で囁く。


「———神羅様のいる時に問題は起こさないって言ったよね?」

「んー? そんなの聞いたっけなぁ?」


 抑揚のない平坦な声で威圧しながら尋ねるミアだが、女はどこ吹く風で受け流していた。



「そう……あくまでシラを切るつもりね。まぁいいわ———同じ始祖として命令する。神羅様が離れるまで一旦中止にしろ、『技術者』」

「———相当神羅様に入れ込んでいるんだねぇ……天然の『覚醒者』様ぁ? まぁ私も解剖はしてみたいけどぉ」

「したら殺す。そして私達のしたことを全世界に公表する」


 ミアは覚悟の決まった顔で、まだ誰もが知らない秘密を口に出した。




「———私達が・・・巨神獣と覚醒者・・・・・・・を生み出した・・・・・・ことを」



 

 それだけ言うと、ミアは再びその場から消えた。

 

「……もう止まることなんてできないんだよねぇ……」


 そんな『技術者』の声はミアに届くことはなかった。 



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