第26話 果てしない空間の中で

 俺が目を覚ますと———幾億回と見た光景が目の前に広がっていた。


 その光景はたった数ヶ月しか経っていないのに無性に懐かしく感じる。

 まぁ別にいい思い出などは殆どなく、大抵は苦しかった事や死にそうになった事くらいしかないが。


 それにしても……相変わらず何もなく、気が狂いそうな程に真っ白で無機質な空間は気味が悪い。


「もう2度と……こんな所には来ないつもりだったんだがな」


 俺は辺りを見渡してポツリと溢す。

 しかしやはり運命とは分からないもので、こうしてまた来てしまった。


 ただ1つ利点を挙げるとしたら……此処なら何をしても外の世界に被害が出る事はないだろう。

 出たとしても、この空間の所持者がダメージを殆ど肩代わりしてくれているので、そこまで酷くはならないはずだ。


「さて、それじゃあ早速始めるか」


 俺は此処なら全力を出せる、と魔力の出力を外の世界の5倍にして、その全てを拳に集中させて一滴も溢すことなく纏う。

 魔力と魔力がぶつかり合い、バチバチと電気が生じて火花が散る。

 更には魔力の圧力で辺りの空気が重くなり、地響きが鳴り始めた。


 そんな中———


「————ッ!!」


 俺は歯を食いしばって、久しぶりに出す8割くらいの本気どで拳を振り抜いた。

 

 ———ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ———ズガァァアアアアアアアンンッ!!


 地面も障害物も何もかも破壊しながら、ものの数秒で拳圧が空間の壁に到達し、派手な音を立ててぶち当たった。

 途端にピシッと小さなヒビが壁に入る。


 しかしすぐに再生して塞がってしまうので、俺は攻撃の手を一切緩めない。


 それどころか虚空を殴り続けることによってより速く、より鋭く精錬されて威力も破壊範囲も広がっていった。

 やはりたった数ヶ月だったが、相当鈍ってしまっていたらしい。


 まぁ常に身体能力に枷を掛けていたし、命の取り合いの様な死闘なんて一度もなかったので弱くなっていて当然と言えば当然だった。


 しかし、久しぶりに本気で体を動かしたから、少し昔の感覚を取り戻してきたかもしれない。

 この調子なら、あと数万発で一撃で壁を壊せるくらいには練度が戻るだろう。


「まぁ———アイツが何も対策せずに俺を中に入れたとは考えにくいが」


 一度この空間を無理やり破って出て来た俺を忘れていそうな奴では無かったし、間違いなく過去一の攻撃だった自信がある。

 そのため、アイツが何の対策もせずに無意識に俺を中に入れたとは到底思えない。


 俺がそんな可能性について口に出した瞬間———まるで指し示したかの様なタイミングで突如、俺へと一目散に向かってくる強大な気配に気付いた。

 それ・・は速度を落とすことなく光速で動き、拳が極大化・・・・・した人型の化け物が俺の目の前に現れ、全身から膨大な魔力を立ち上らせながら俺へと巨大な拳を打ち付けてきた。


「ギシャアアアアアアアア!!」

「はっ、真っ向勝負は一体何年ぶりだ? いいだろう———少しは楽しませてくれよ」


 俺を潰そうと迫る拳を———同じく拳で迎え撃つ。

 2つの拳が衝突した瞬間、爆発音があたりに響き渡るが、化け物の巨大な拳は跡形もなく吹き飛び、その余波がソイツの頭を吹き飛ばした。


「……やはり簡単に出させてはくれないか」


 俺は頭が吹き飛んだ人型の化け物の後ろに見える無数の何処かが極大化した半人型の化け物を見て、思わずため息を吐く。


「「「「ギギギ……ガガァァァ……」」」」


 まるでゾンビの様な奇妙な呻き声を上げる半人型の化け物。


 彼らの等級は恐らくA級上位からSS級上位くらいまでの力があるだろう。

 しかも俺が感知した気配には、その無数の化け物よりも更に恐ろしく強力な何かがある事も分かっていた。


 面倒な……と辟易するも、どのみちこの空間を破壊する以外にアイツを斃す方法はなく、そうするには力を溜めないといけないので、直ぐに頭を切り替え———



「———回避不可なら、俺のウォーミングアップに付き合って貰うぞ」



 拳をぎゅっと握り、化け物目掛けて拳を振り抜いた。


 







「———ふぅ。こんなものか」


 俺は、足下に無数に散らばった何処かしらの部分が吹き飛んだり、殆ど全てが無くなった死体を眺めながら大きく息を吐く。

 一応雑魚どもは一掃したが、まだ本命が残っている。


「「「「…………」」」」


 ソイツらは他の化け物とは違い、何処か一部分が極大化するのではなく、殆ど完璧に人間に近い姿形をしていた。

 しかし人間とは違って顔はのっぺりとして目や鼻はなく、口もあるにはあるのだが、声すら発さず感情も全く出さない。

 また———


「……コイツら何者だ?」


 少なくとも俺が居た時には存在しなかった生物だ。

 一部の極大化した人型の化け物も、俺が居た時はそれほど数は多くなく、閉じ込められていた間に俺が滅ぼしたはずだった。


 まぁ俺が外の世界にいる間に、相当な年月が経ったのだと思うが———


「……どうも不可思議なことが多いな」

「「「「…………」」」」


 4体の巨神獣とはあまりにも違いのある人型の化け物———『ヒューマ』と名付けるか———が無言のまま、突然腕から剣や盾の様な物を生やし、数多の属性の魔法を展開する。

 更に突然1体の『ヒューマ』が光ったかと思うと、他の3体の体も光り、気配が強くなった。


「はっ……化け物がバフ掛けたのか? それに武器も剣に盾———どうも人間くさいな」


 俺が一体何者なのか、と訝しげに睨んでいると———突然腕から2本の刃を生やした『ヒューマ』が一瞬の内に俺の懐へと侵入した。

 更に低い体勢から流れる様に剣を振るう。


「っ、これは……」


 俺はギリギリの所で上半身を後ろに倒して回避するが、避けきれなかった様で髪の毛が数本宙に舞った。

 だが、『ヒューマ』の攻撃はこれでは終わらず、追撃とでも言う様に、流れる様に剣舞を舞う。


 その動きは全く無駄がなく、崩そうにも隙が無かった。

 更に俺が反撃しようにも、盾を生やした奴が攻撃をガードしたり、魔法が邪魔をして反撃する前に次の攻撃が来る。

 そして仮に攻撃が当たっても、相当な防御力を持っている様で1発では死なず、直ぐに回復されてしまう。


 正直言ってとても戦いずらい。

 何故か化け物と戦っていると言うより、人間と戦っていると感じてしまうほどに連携も取れて技術も備わっていた。


 まぁだが———


 

「———この程度で俺に勝てると思わない事だ」



 俺は地面を思いっ切り踏み抜いて地面を揺らすと、不安定になった足場によって体勢を崩した盾役の懐に入り、拳を穿つ。


「———《矛盾の魔力・炸裂》」

「———……」


 拳から流れた白銀の魔力が盾役の『ヒューマ』を包み込むと、瞬く間に『ヒューマ』の防御力を物ともせず細切れに切り裂いた。

 

 しかしまだ止まらない。


 今度はその場で、剣を生やした『ヒューマ』と魔法を放つ『ヒューマ』に一瞬の内に数百もの拳圧をお見舞いする。

 2体が拳圧にかかりっきりになっている隙を狙って支援系の『ヒューマ』を殴って消し飛ばす。


 残り2体。


 更に未だ拳圧を対処出来ていない魔法系の『ヒューマ』は俺の拳を避けることができず殴り飛ばされて上半身が跡形もなく消え去った。


 残り1体。


 俺はボロボロになった剣を生やす『ヒューマ』を見下ろして、現在の状況を見ているであろう者に告げる。



「———お前じゃ役不足だ。死にたくなければお前が来い」



 俺は拳を振り抜いてガードされた剣ごと爆散させた。

 パラパラと破片が辺りに飛び散り、地面に落ちる。

 それを眺めていると———



「———やっと来たか」

『…………お前は妾自ら殺してやる……!』



 所々に鯨の特徴を残し、怒りに顔を醜く歪めた半人型の『ケートス』が現れた。



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