第21話 本物と比べるなんて烏滸がましい(改)
俺は瞬く間に中村の懐に入ると、鳩尾目掛けて拳を打ち込んだ。
吸い込まれる様に拳は鳩尾に当たる———事はなく、見えない何かに阻まれてしまった。
「どうしたのですか神羅先生? この程度の力じゃ私に触れることすら出来ません———よっ!!」
「っ」
中村の『よ』と言う所で物凄い衝撃波が生み出され、俺は思わず仰け反ってしまった。
その瞬間を中村は逃さず攻撃を仕掛けてくる。
「ふふふ……あははははははっ!! たかがA級の私がSSS級に対抗出来ている!」
中村の狂気の笑みと共に複数の拳がガトリングの様に俺へと繰り出され、その威力は無視出来ないほどで、西園寺に届きうる威力だった。
まぁその程度はどうと言った事ではないが。
俺は中村の攻撃を軽く流してカウンターの裏拳を食らわす。
今度も同じ様に何かが俺の攻撃を阻む感覚があったが、少し力を入れて無理やりねじ込んだ。
「!? ———チッ!!」
中村が少し無理に身体を捻って攻撃を避けるが、俺は間髪入れず拳を振り抜いて連打を浴びせる。
その全てが阻む何かを軽々とぶち壊して中村に到達する。
「ぐっ……鬱陶しいですよ!! ————$¥5%$#5<×#$¥%3!!」
中村があの、鯨型巨神獣と同じ様な奇妙で不気味な声を上げると———中村を中心に全方位に向かって弾ける様な爆風が巻き起こり、木も地面も吹き飛ばす。
俺は腕を交差させて防ぐが、地面がなくなってしまったため軽く吹き飛ばされてしまう。
しかし直ぐに空中で態勢を立て直すと、空中で中村を見下ろしながら口を開く。
「……それも巨神獣から得た力か?」
「当たり前でしょう! 私の異能は《適合》とか言う雑魚異能なのですから!! まぁそのお陰で人智の超えた力を手に入れたわけですが」
「どうやって巨神獣の力を移植した? それもまだ生きている巨神獣の力を」
「私から言える事はあまりありませんが……1つ言えるのは異能による能力ではありません」
そんなことより……と中村が笑みを引っ込めるとその表情をこれでもかと歪めた。
「SSS級だからと言って———私を見下すなッッ!!」
怒りを孕んだ声と連動して再び衝撃波が発生し、より森を吹き飛ばしていく。
俺は再び回避しようとしたその時、近くに生徒がいる事に気付き、俺は即座に《矛盾の魔力》を発動させて生徒を含めた巨神獣以外の全ての物を保護する。
俺の身体から白銀の魔力が一気に解放されて四方八方へと飛び散り、衝撃波から守る。
「それが神羅先生の異能ですか! 残念ながらその程度では私を止めることなど出来ませんよ!! ———$¥¥°#2¥°€#33€°*¥#¥ッッ!!」
流石EX級巨神獣の力を取り込んだだけあり、俺の《矛盾の魔力》が弾き飛ばされるかの様に徐々に消えていく。
まぁその都度俺の魔力を送って再び張っているので問題はない。
しかし———
「いつまで生徒と言うお荷物を背負って戦えますかね? 私が強くなったのは異能力だけではありません!」
その瞬間、中村の身体がブレた様に見えた時には既に俺の懐に中村の拳が突き刺さっていた。
俺の身体は力に沿って後ろへと勢いよく吹き飛ばされ、木々を薙ぎ倒しながら地面へと砂埃を舞い上げて激突。
「……初めて攻撃を食らったな」
俺は服が多少破れた事以外無傷のまま立ち上がり小さく呟く。
そういえばこの世界に帰ってきてから1度も攻撃と言う攻撃を受けていなかった。
いつもならヤバそうな時は多少体の枷を外して受けていたのだが———
「———気配がチグハグ過ぎて分からないな」
中村のあまりにもチグハグな気配に俺は力の制御を見誤っていた。
チグハグは気配と言うのは、気配だけ言えば巨神獣の気配を持っている以外に特に強くないのだが、先程の通り気配以上の攻撃を仕掛けてくるのだ。
更にあの速度で攻撃できるくせに全くダメージがないのも少しおかしい。
先程の俺のステータスは『SSS-』程度で、奴の敏捷ステータスは間違いなく『SSS』には届いていたはず。
ステータスは基本そこまで3つの差が開く事は無いので余計に怪しい。
……もしかしたら移植は完璧では無いのかもしれないな。
俺はそこまで考え終わると、一先ず森の中の気配を感知する。
森の中を調べてみたが、此方に向かってくるSSS級いかないくらいの気配1つしかなかった。
その気配は十中八九中村だと思うので、もう森の中には生徒が居ないみたいだ。
……よかった。
———やっと戦える。
俺は森全体を覆っていた《矛盾の魔力》を解除して此方へと向かってくる中村の下へ光の如き速度で疾駆した。
「———まさか神羅先生自ら私の下へやって来てくれるとは嬉しいですねぇ!」
「早く終わらせたいからな」
俺が面倒くさそうに言うと、歓喜の表情から一転、次第に無表情になっていく。
「……先程まで私に手も足も出ない神羅先生に終わらせる事など不可能ですよ」
「———いつ俺が本気だと言った? お前は見ていなかったのか? あの時の俺を」
「っ———ガハッ———ッ!?」
俺は身体のリミッターを外し、先程の中村の速度を優に超える速度で中村に蹴りをお見舞いする。
ギリギリ俺の蹴りに反応した中村が避けようとしていたが、鳩尾を避けただけでそのまま直撃し、今度は中村が力に沿って遥か上空へと吹き飛ばされた。
しかしそれだけでは終わらない。
「疾———」
俺は短く息を吐き終える間に大気圏へと弾き飛ばされた中村に追い付くと———踵落としで撃ち落とそうとしたが、ギリギリの所で回避され、右腕を吹き飛ばすに終わってしまった。
「ぐぁあああああああ私のう、腕があああああああっっ!??!」
しかしどうやら相当痛かったらしく、中村は空中で肩を抑えながら悲鳴を上げる。
「あ”あ”あ”アアアアアア———ッッ!! よ、よくも私の腕をッッ!! ぐぅぅぅ……も、もう許さん……! 貴様は生け捕りにしろと言われていたが……今、この場で殺してやる……!!」
「とんだ責任転嫁だな」
そんな俺のツッコミなどまるで無視して中村は魔力を全身から噴き出して叫んだ。
「———#######%€$¥€#######!!」
途端———中村の掌に集まった膨大な魔力が真っ赤に染まると同時に数十倍に膨らみ、直径1メートルほどの巨大な塊となり、それは更に膨らんでいく。
「ははははははははははははこれで貴様は終わりです!! 所詮SSS級覚醒者などEX級巨神獣の力を手にした私には勝てないのです!」
そう言って狂った様に高笑いする中村を見て、
「———……はぁ……全然駄目だな」
「なっ———」
俺はあまりの呆れてしまい思わずため息が漏れた。
だってそうだろう?
「この程度の力で———アイツを語るな虚像」
俺の宿敵はこんな物じゃない。
「お前程度の奴が本物を語るな烏滸がましい」
「なっ、なっ———き、貴様ッッ!!」
俺は激怒する中村を見ながら再び《矛盾の魔力》を発動させる。
———《矛盾の魔力》。
これは一度説明したと思うが、矛にも盾にもなるどんな場面でも使える変幻自在、万能な魔力だ。
しかし俺が今まで使っていたのは全て盾としての使い方だった。
勿論盾として使用していてもSSS級巨神獣を倒せるくらいの攻撃力はあるが、その程度の攻撃力では空間を破壊するどころか空間の中にいる強者にすら通じない程度の攻撃力しかない。
俺の体を纏っていたのもあくまで俺の服を守るため。
しかし———今回は違う。
「《矛盾の魔力:モードシフト・撃滅》」
瞬間、《矛盾の魔力》が俺の身体を内側から一気に流れて髪も瞳も白銀に変化した。
そして俺がグッと拳を握るとその拳に即座に膨大な魔力が集まって、中村の真っ赤な光が霞む程の眩い輝きが辺りを真っ白に染め上げる。
俺の姿を見た中村が茫然とした表情で言葉を漏らす。
「な、なんだそれは……!」
「お前の様な借り物には永遠に届かない領域だ」
俺は尚も集まる魔力を従えて、拳を構える。
その姿が気に入らなかったのか、中村は顔を激怒や憎悪、嫉妬などの様々な醜い感情に歪みに歪めて、遂には直径100メートルにも及ぶ膨大な魔力の塊を俺へと放った。
「う、うわあああああああああああああああああああああ死ねぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ———ッッ!!」
鮮烈な真紅の魔力塊が、俺へとゆっくり迫る。
それは普通の奴らならきっと直ぐに諦めるであろう魔力量に規模だった。
しかし俺はただひたすら冷静に、それを見上げて緩やかに拳を魔力塊に撃ち付けた。
ドッ—————————————————
————————————————————
————————————————————
———————ッッ!!
白銀の魔力を纏った拳圧が一瞬にして真紅の魔力塊を爆散させた。
更に放たれた白銀の拳圧は昇龍の様に空を駆けて一筋の光となって消える。
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