第20話 討伐試験と裏切り者
いざ訓練島に転移門で行ってみると……
「思ったより普通の島だな」
「そうだね。私は沢山巨神獣がいるって聞いてたからもっと殺伐としてるのかと思った」
琴葉がそう言うのと全く同じことを俺も思っていた。
毎年何百人もの生徒が巨神獣を狩るのに、一向に減らないと言うのはもはや島が飽和状態なのではと2人で勝手に思っていたからだ。
元々それほど広くない島だと聞いていたのも俺達が誤認していたのに作用しているかもしれない。
「流石にそんな危険な場所なら生徒は連れて行きませんよ」
少し遅れて入ってきた中村先生もこれには苦笑いと言った感じだった。
まぁ少し考えればそんな殺伐としていないと分かるので何も言えないが。
俺は切り替えるように中村先生に訊いてみる。
「……生徒達は何処へ?」
「もう既に行きましたよ?」
「いや、そうじゃなく、どのクラスが何処に行ったのか聞きたくてな」
俺がそう言うと、中村先生が鞄からこの島の地図を取り出し、俺達に丁寧に教えてくれる。
「海岸エリアには比較的巨神獣が少ないので成績の低いクラス。森の入り口付近から中腹まではそこそこ巨神獣が出ますが大した等級でもないので成績が平均並みのクラス。森の深部は成績上位のクラス。そして———森の中心部、B〜A級の巨神獣が住む所はSSクラスが行っています」
「海からは巨神獣は来ないのか?」
「海には一定範囲の結界が張ってあるのでモンスターは侵入できません! それに校外学習の時間は教師3分の1で結界の維持をしているので問題ないでしょう」
「その教師達は何処にいるんだ?」
「海の底の特殊施設ですね」
中村先生があっけらかんとした感じで言う。
「なるほどな……だから成績が悪い奴らが海岸なのか?」
「その通りです。幾ら覚醒者であろうともまだ子供ですから死なせる訳には行きません」
やはり海岸は光輝達のクラスだったか。
まぁもしもの時は俺が助ければ良いし、この島にいる巨神獣の中で1匹たりとも光輝が敵わないような相手はいないので、
「なるほどな。ありがとう中村先生。俺たちは自分の持ち場につかせてもらうぞ」
「はい! 頑張って下さい!!」
そう言って礼をする中村先生の下から、俺は昨日言われた場所へと向かう。
「……神羅、どうしたの?」
「……何でもない」
持ち場に向かう道中で琴葉が訊いてきたが……今はまだ言えない。
因みにだが俺と琴葉の持ち場は森の中心部である。
本来は違ったのだが、昨日SSS級権限を使ってそこを担当にしてもらった。
しかし———
「思ったよりも
「ああ……それによくみれば日本では見たことない種類の木だ」
俺達数分で到着し、森の中で驚きの声を上げる。
葉の特徴や木の幹から少し調べてみたが、残念ながらヒットするものは無かった。
それに異常なほどに枝分かれしており、陽の光など完全に遮断している。
「これだと敵の接近に気付けないこともあるかも……」
琴葉が心配そうに溢す。
だがそんな心配をしてしまうほどに森の中は暗く、昼なのに夜に来たのでは無いかと錯覚してしまうほどだ。
まぁ基本的に覚醒者の目は暗視能力にも長けているので大丈夫だと思うし、そもそもここまで来るのはSSクラスと言う選ばれた天才のみなので、何ら問題ないだろう。
しかし琴葉がそう言った言葉を求めていないことは分かっている。
「もしもの時は俺達が助けてやればいい。そのためにここに居るんだろ?」
俺は琴葉の頭を軽く撫でると、意識して優しい声色で告げる。
すると若干落ち着いたのか、「そうだね」と照れ笑いを浮かべて魔力感知を始める。
俺もそんな琴葉を見ながら森の中の気配に良く注意した。
森の見回りを初めて早3時間が過ぎた。
既に至る所から戦闘音や雄叫びに巨神獣の咆哮が聞こえてくる。
しかし今の所重傷者は出ておらず、何事もなく例年通り進んでいた。
だが、俺からすればそれは嵐の前の静けさに感じてならない。
「あっ、そう言えばさっき気になってた事が1つあるんだけどいい?」
そんな中———琴葉が唐突にそんなことを訊いてきた。
だが、別に特に隠すこともないので頷くと、琴葉が首を傾げながら言う。
「さっきからずっと気になってたんだけどね、何で中村先生と離れるときにあんなに険しい顔してたの? 別に気分が悪くなるような事は何処にも無かったと思うけど……」
「……実はな———」
俺が琴葉に重要なことを告げようとしたその時———
———ドガァァアアアアアアアアアアンンッッ!!
海の方から爆発音と言うよりも何かの衝突音と言った方が正しいかもしれない音が聞こえて来た。
更には海の方から俺ですら軽く流せないほどの殺気が溢れている。
しかし少し懐かしい感じの一度感じたことがある殺気だった。
「やはり来たか……」
「神羅……?」
「琴葉は俺に何があったか知っているだろう? ———アイツだ」
「…………………えっ? あの写真の奴?」
琴葉が驚いたように俺を見てきたので、俺は頷く。
「間違いない。あの殺気を間違える筈がない」
俺がこの世界から一度離れる時———アイツに吸い込まれる瞬間に感じた強力な殺気。
当時は震えて絶望することしかできなかったが、今は違う。
「琴葉、俺は今から行ってくるから急いで情報を学院長に伝えてくれ」
「あれ? あの写真見た後、2人になったけど伝えてないの?」
「ああ。あの時はまた別のことを話していたんだ」
「一体誰の———」
「———大方私の事でしょう?」
「!?」
突如聞き覚えのある男の声がして、琴葉が驚きでビクンッと震えた。
俺はそんな琴葉を護るように立つと、その男に話しかける。
「やはりアンタも絡んでいたんだな———中村先生」
「何故バレたのかは全く謎ですがね?」
男———中村先生が俺の睨みを「怖い怖い」とヘラヘラしながら受け流しながらも、此方を疑心の篭った瞳で見ていた。
俺はそんな中村から目を逸らさず、警戒しながら理由を整然と述べる。
「まず初めに気になったのはアンタの遅刻日数だ。俺がこの学院に来て1ヶ月程しかいないが、アンタは教師の癖に遅刻が多すぎる」
「私が朝に弱いと言う可能性もありますが?」
「次に不自然に思ったのは生徒達の模擬戦をしていた時だ」
俺がそう言うと、ピクリと一瞬だけ中村の眉間が動いた。
「あの場で戦っていたのは皆S級は確実にあった。それどころか西園寺に至ってはSS級の力を持っていた」
「……それに何が関係あるのですか?」
「分からないのか? お前は何級の覚醒者だ? 俺はA級と聞いているが? A級がSS級の力を目の当たりにして怯えの感情が一切湧かないのは凄いな」
「……我慢していただけかもしれませんよ? それだけでは私が敵だと分からないは———」
「———生徒のいる場所」
俺がそう言うと、意味が分からないと言った風に言葉を止めた。
「教師なら生徒のいる場所など知っていて当然では?」
「だが学院長は担当のクラス以外の生徒の場所は教えていないらしいぞ」
「!?」
「それに、結界の位置については担当の教師以外は誰も知らない。それに———」
俺は1番気になっていた事を中村に問う。
「どうしてお前から———鯨型巨神獣の気配がするんだ?」
中村は俺の言葉を聞いた瞬間———あまりにも場違いで不気味な笑みを浮かべた。
同時にゾクリと背筋が凍る様な殺気が飛んでくる。
「それは———私を倒してから訊いてみては?」
「そうだな———ではそうさせて貰おう」
「ちょっ、神羅———」
俺は琴葉を小型転移装置で学院長の下へ転移させる。
彼女にコイツの相手をさせるのは少々無謀すぎるし、彼女には怪我すらして欲しくないからな。
俺は軽く拳を握ると———
「海のアイツを倒すためにも———お前は速攻で倒す」
「出来るものなら、ね?」
笑みを浮かべて手を広げている中村へと攻撃を仕掛けた。
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