第19話 校外学習(海)

「———これからの件については言うまでもないと思うが……明日から皆が楽しみにしている———校外学習の時間だ」

「「「「「「「「「「やったあああああ!!」」」」」」」」」」


 俺が言うと共にSSクラスの生徒達の喜びの歓声が上がり、教室が一気にお祭り騒ぎへと変化する。

 今はクラスのボス的な立ち位置だった西園寺が居ないせいか、結構五月蝿いが、まぁテンションが上がる気持ちも分かるので少し待っておこう。


 ———校外学習。

 それは毎年最後の学年が行う、実際の巨神獣と戦うイベントの事である。

 勿論怪我はするが、死なない様に学院の学院長以外の全ての教師がその学年につきっきりになって行う。

 そのためその日だけは最終学年以外は授業は休みである。


「———神羅先生」

「どうした?」

「今回の校外学習には神羅先生も行くのか?」


 そう聞いてきたのは模擬戦で特殊な眼・・・・を使っていた西澤彰だ。

 相変わらず口は悪いが、普通に授業は真面目に受けているらしいので、特に文句も言われていないんだとか。


 しかし、今回はそれを良しとしない者がいた。


「神羅様にタメ口を聞くとは不遜ですわよ! 今すぐ謝罪しなさい!」


 恐らく俺のファンクラブ会員だと思われる———アリア・水無月である。

 席から立ち上がり、西沢をビシッと指差して注意していた。


「あ”ぁ? 別に良いだろうが」

「神羅様は先生である前に覚醒者の頂点であるSSS級覚醒者ですのよ? 敬語を使うのは当たり前ではなくて?」

「それは俺が覚醒者になったらの話だろ。今はまだ覚醒者じゃねぇし、そもそも俺の上司でもないんだから良いじゃねぇか」

「先生には敬語を使うのが当たり前なのですが……」


 2人の言い合いは終わらない様な気がしたので、俺はストップを掛ける。


「西沢、アリア、もう止めろ」

「っ!? は、はい! 神羅様の御言葉とあらば!!」

「……チッ……相変わらず面倒な女め……」

「次言ったらぶっ飛ばしますわ」

「やってみろ」

「お前ら?」

「…………」

「も、申し訳ありませんわ神羅様!」


 そう言ってお互いに火花を散らしあった後、席に着席した。

 周りの生徒は2人が戦えば巻き込まれるので、何も起こらず一安心、と言った風に安堵のため息を吐いている。


「さっき質問に答えるが……俺も校外学習には行く。ただし———」

「「「「「「「「「「「「……ただし??」」」」」」」」」」

「———先程の2人の様に喧嘩をすれば、俺が特別訓練を行なってやる」

「「「「「「「「「「「「絶対に揉め事は起こしません!!」」」」」」」」」」」」


 生徒達全員の声が揃う。  

 どうやら模擬戦後に行なった特別訓練が相当こたえたらしい。


 俺の特別訓練は、異能で体を強化しながらの腕立て2000回、腹筋2000回、100キロのランニング、異能を使いながらそれぞれに合った制御法を行うと言った感じでそこまでキツくはない筈だが、皆最後の異能制御で相当手こずっていた。

 例えばアリアは《神速》の状態で音速と同等の速度で移動するとか、水無月は《限界突破》の状態で卵を潰さない様に10個割って目玉焼きを作るとかだ。

 逆に俺や西沢の異能の様な能力が固定されている物は、ひたすらに俺との模擬戦や自分と向き合う座禅を組んだりしていた。

 

「いい返事だ。それじゃあ、今日の授業を始める」 


 俺は皆の反応を見てこれくらいで大丈夫だろうと、授業を始めた。

 






 放課後、俺と琴葉は珍しく学院に残って学院長室に来ていた。

 理由は簡単で、明日の校外学習について学院長から話があるとのことだ。


「……早く要件を言って下さい」

「せっかちねー琴葉ー。少しくらい待ってくれてもいいじゃないー?」

「———学院長、早く用件を頼む」

「もー神羅先生も……な、何でもないわー」


 恐らく俺もせっかちだなーとか言おうとしたのだろうが、琴葉のガチ殺気を浴びて少し震えていた。


「……神羅に何か言ったら許さない」

「もー分かったわよー。絶対に言わないから。で、今回来てもらった件何だけど———神羅先生と琴葉にはもしもの時のために『訓練島』に行って監視をして貰いたいの」


 ———訓練島。


 それは今回行く所で、数十年前に日本の排他的経済水域に出現した島であり、そこには比較的弱い巨神獣が生息している。

 その島は俺が呑み込まれる前にもあったが、1度もA級以上の巨神獣が出ていない事で有名なのだとか。


 それに目を付けた日本政府が、覚醒者を育成するための郊外実習の現場としたわけだ。


 しかし、彼女の顔を見る限り、何かある様に見える。

 

「俺は別にいいが、何故俺達が必要なんだ? 正直言ってA級くらいなら倒せる教師は何人も居るだろう?」

「そうよそうよ。私達は別に行かなくてもいいじゃない」


 俺が疑問を口に出すと、琴葉も便乗して子供の様にそうだそうだと学院長を威嚇しながら言う。

 こうな子どもっぽい所も可愛いと感じるのは俺だけなのだろうか。


 俺が若干琴葉に見惚れていると、学院長が大きくため息を吐いた。


「あーあー私の前でイチャイチャするの禁止!! 口から砂糖が出ちゃうわ。それと、神羅先生達を呼ぶ理由だけど……少し気になることがあってね」


 そう言った学院長がとある紙を渡してくる。

 その紙を琴葉と一緒に見てみると、数枚の写真が貼ってあった。

 更に言えば、俺はそいつをよく知っていた。


「———琴葉、明日は何があっても俺から離れるな。絶対だ」

「え? どうし———あ、うん分かった」


 琴葉は何かを俺に聞こうとしたみたいだが、俺の険しい顔を見てすぐに頷く。

 いつもなら琴葉の意見も聞いてやるのだが、今回ばかりは異論は認めれない。

 

「学院長、明日は学院長も来てくれ」

「え? どうしたの急に」

「いや……ただ、絶対に明日は来てくれ。来ないなら明日の校外学習はSSS級覚醒者の権限を使って中止にする」


 俺はそれだけ言うと、もう一度手元の写真に視線を移す。

 

 そこには———嘗て俺を吸い込んだあの鯨型の巨神獣に似た見た目の生物が写っていた。








「———それじゃあ転移門へと移動してください」


 ———次の日、学院一の人気教師として琴葉が最終学年、総勢数百人の生徒達を転移門へと誘導する。

 転移門はこれまた『技術者』の発明らしく、世界にも数個しか存在しないのだとか。

 そんなものを持っているこの学院は如何に大事にされているかが分かる。


 まぁ同じ学年と言っても実力差は相当あり、SSクラスと底辺と呼ばれる光輝のクラスとでは象と蟻ほどの実力差があるらしい。

 

 だが、そのクラスには強くなった光輝がいるので大丈夫だろう。

 

 光輝のレベルは既に100万を超えており、異能は未だ開花していないものの、ステータスは既にSに到達した。

 格闘能力は元々高かったので、仮にSSクラスの者と戦っても、半分以上に勝てる実力がついている。


 俺が光輝の方を見てそんなことを考えていると、沢山の生徒が俺達に手を振っているのに紛れて、光輝が此方を見て笑顔で手を振り出した。


「神羅先生! 俺、頑張ります!!」


 そんな明るい顔をした光輝を見て少し笑みを溢すと、強くなった弟子に向けて手を上げた。


「……頑張れ」


 俺がそう言うと、光輝は更に顔を明るくして転移門の中に消えていった。



「———じゃあ私たちも行こっか」

「……ああ」


 数分後、生徒達が全員転移された後、残った半分の教師達と共に俺と琴葉も転移門に入る。


 俺は転移による浮遊感を感じながら、心に誓った。


 誰も被害を出さずに無事に帰ってくることを———。



 

 こうして後に、全世界を騒がせる騒動となる校外学習が始まった。

 

 

—————————————————————————

 遂に第2章の終盤に差し掛かりました。

 是非お楽しみに!

 

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