第18話 最強覚醒者は、琴葉と共に家族に報告に行く②

 ちょっと感傷に浸らせてやってくれ。

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 俺は父さんと母さんの墓の前に座る。

 墓は木の下の根元にポツンと2つ並べて建っており、木漏れ日に当たって少し輝いていた。


「よくこんな所に墓を建てられたな」

「神羅のお義父さんとお義母さんが自分達のお墓のために貯めてた貯金を使ったんだよ。もうだいぶ前から骨を埋めるなら此処って決めてたのかもね」


 それは初耳だ。

 まぁ用意周到な父だったはずなので、お金を貯めていたことに関しては何も違和感はない。

 だが、此処は俺達の敷地では無いので、買い取るにしても相当お金が掛かった筈だが、それに加えて俺の生活費まで……一体どれ程貯めていたのか。


 覚醒者ではなかったはずだが、そんな大金を稼げる両親には脱帽の一言だな。


 墓には2人の名前と共に、花束が1つおいてあった。

 見た感じ造花では無いし、枯れてもいないのでつい最近来た事が分かる。


「この花束は琴葉が置いてくれたのか?」

「ううん。多分私のお父さん達が置いたんだと思う。この前行ってきたって言ってたし」


 そういえば数日前に何処かにふらっと出掛けてたなあの2人。

 なるほど、あの時に此処に来ていたのか。


 俺の両親の墓を気に掛けてくれるお義父さんとお義母さんにありがたく思いながら、俺は墓に話しかける様に口を開く。


「何から話そうか……そうだな、まずは———今まで1度も墓参りに来ていなくてごめん」


 両親が死んだ時は俺は15歳くらいだったはずなので、まだ身長も今ほど高くはなかったはずだ。

 俺が食べられるまで数年はあったが、確かお墓参りは一度も行っていない気がする。


 その当時の俺は、何年経ってもふと家に帰れば家族が出迎えてくれると思っていたからだ。

 しかし墓に行けば両親が死んだことを自分が認めることになる。

 そのため墓の存在は知っていたが、1度も行った事がなかった。

 

 もう1つの理由は、単純に今の自分を見て貰いたくなかったからだ。


 覚醒者になってもステータスも雑魚でF級巨神獣の1匹も倒せない情けない俺を。

 いつも琴葉に護って貰ってばかりで、琴葉が居ない学校では虐められても碌に何も出来なかった俺を。 


「俺は昔ずっと弱くて情け無くて、こんな惨めな姿を父さんと母さんに見せられなかった」


 そんな自分に辟易していた矢先———俺に絶望と共にチャンスが天から与えられた。


 そう———あの巨神獣との邂逅だ。


 アレによって俺の人生が180度変化と言っていい。

 あの時あの場所でアイツに吸い込まれていなければ今も俺は惨めな思いをして自己嫌悪に陥り、琴葉ともこう言った関係になれていなかったかもしれないな。

 

 まぁその分死ぬほどの痛みも苦しみも虚無感も味わったし、自我が崩壊しそうになったことも多々あった。

 しかしそれを乗り越えて今こうして此処に立っている。


「俺、もう父さん達より幾億年も年上なんだ。驚きだろ? そこまでしないと琴葉を護れる力を手に入れれなかったんだ」


 我ながら才能がないものだと、密かに自嘲する。

 仮にこれが琴葉なら、数百年で俺並みの力は手に入れれるのでは無いだろうか?


 ———まぁだけど。


 俺は再び2つの墓に手を置くと、安心させる様な声色で呟く。


「何を言えば良いか分からないけど……兎に角、俺はもう———大丈夫だよ。今まで心配掛けてごめん」


 多分父さんも母さんもずっと心配してくれていただろう。

 父さんも母さんも情に厚かったし、ありがたい事に俺を溺愛してくれていたからな。

 そのお陰で大して性根が歪まずに生きれた気がする。


 さて、最後に言わないといけない事があったな。


「———琴葉」

「ん? どうしたの———っ!?」


 俺は琴葉の肩を抱き、2人に1番大事な報告を、少し子供っぽいが昔の様な口調で言う。




「———父さん、母さん! 俺の小さい頃からの願いが叶ったぞ! 俺は今———とっても幸せだ!」




 その瞬間、木々や草花を大きく揺らす一陣の風が丘を撫でる様に吹いた。

 何故か俺にはそれが二人が祝福しているように感じ、少し視界が霞む。


 俺は少し恥ずかしくなり琴葉の肩を離し、顔を見られない様にそっぽを向く。

 そんな俺の気持ちを察してくれたのか、琴葉も何も言わずにそっと寄り添ってくれていた。







「…………よし、そろそろ帰るか」


 それから少し経った後、俺はその場から腰を上げる。

 2人に言いたいことは言えたのでもう満足だ。


 しかしどうやら俺が思ったよりも長い時間いた様で、既に太陽は真上へと移動し、燦々と照らしていた。

 木陰を抜けると大分暑そうだ。


「……少し待って」

「ん? どうした?」


 琴葉が帽子を取って膝に置くと、頭を下げた。


「お久しぶりです。遂に15年目にして神羅を見つけました。私は2人のお陰で再会できたと思っています。本当にありがとうございました……!」


 そう言った後、琴葉は再び帽子を被り、立ち上がり、パンパンとワンピースの裾に付いた草を払う。


「もう良いのか?」

「うん」

「じゃあ帰るか」

「うん。…………ねぇ神羅」

「どうした?」

「来年もまた一緒に行こうね」


 琴葉がぎゅっと手を握って俺に微笑み掛ける。

 俺はそんな琴葉の小さく細い手を優しくぎゅっと握り返して笑みを浮かべた。



「ああ———また必ず行こう」



 その時、まるで俺達にさよならと言っているかの様に一際強い風が吹いた。

 

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