第17話 最強覚醒者は、琴葉と共に家族に報告に行く
『破壊者』とか言う屑が襲来して来てから1週間と少し経ち、既に騒動は鎮静化が進んでいる。
あの後、ベンは凄腕の回復系覚醒者に治してもらったらしいが、四肢は既に消滅していたせいで治せないとのことだ。
まぁそれに関しては俺は反省もしていないし奴の自業自得だと思っている。
しかし俺のせいで SSS級覚醒者が戦闘不能になったためにEX級巨神獣の討伐は先送りになってしまった。
だが、完全に向こうが悪いと言うことで、直ぐにメンバーを変えてやり直すらしい。
因みに俺も琴葉もあの時の騒動が嘘の様にいつも通りの生活を送っていた。
そして今日は学校が休みの日曜日。
学院で教師をしている事自体が依頼のため他の依頼は一切受けていないので、俺達も休みである。
まぁ普通の教師は今日も休みじゃないのかもしれないが、俺達には特にすることも無いので普通に休みを貰っていた。
「……よし、起きるか」
俺はぼんやりとした頭を一瞬で覚醒させて目を覚ます。
現在の時刻は10時30分過ぎで、いつもより3時間以上起きるのが遅い。
「———あっ、おはよう神羅。やっと起きたね。相変わらず休日は起きるの遅いよね」
「ベッドが俺を離さないんだ」
「ふふっ、昔とおんなじこと言ってる」
部屋を出て1階に降りると、琴葉が朝ご飯を作っていた。
エプロン姿を見るのは随分久し振りだが、昔よりも多少大人びたせいかとても良く似合っている。
「あっ、今は失礼なこと考えたでしょ」
「多少大人びたから昔よりもエプロン姿が似合ってるな」
「あ、ありがとう———ってそうじゃない! 多少って何!? 私はもう立派な色気溢れる大人だよ!」
頬をリスの様に大きく膨らませてむくれる琴葉。
その姿はどう考えても大人ではなく、どちらかと言えば子供が拗ねている時の表情である。
まぁそれでも可愛いのは可愛いのだが。
「それで、今日の朝ご飯は……サンドウィッチか?」
「露骨に話逸らしたね……まぁいいけど。はい、直ぐに食べて」
そう言って俺にサンドウィッチの乗った皿を渡してくるが、どこか急いでいる様な気がする。
俺は少し気になったので訊いてみた。
「今日何処か行くのか?」
「……え? もしかして……今日何の日か覚えてない?」
琴葉に訝しげに訊かれ、少し考えてみる。
今日が何の日か……残念だがイマイチピンと来るものはないな。
また何か忘れているのだろうか?
15年から前の記憶は本当に曖昧なので、憶えていないことなど無数にあるだろう。
つい最近まで自分の誕生日でさえ忘れていたのだから。
俺が本気で分からず首を傾げていると、琴葉が少し哀しそうで寂しそうな顔で言った。
「確かに憶えていなくてもしょうがないけど……今日は———神羅の家族の命日だよ」
「—————————あ」
琴葉に言われた途端、ふと昔の家族との1つの思い出が蘇る。
———それは家の近くの山の丘で、俺も琴葉も幼くウチの家族も生きており、琴葉の両親もまだ若い。
丘の上に一本ぽつんと立った大きな木の下は俺達のお気に入り。
そこからは街が見渡せる絶景スポットで、何度もレジャーシートを広げてピクニックをしていた。
そして確か両親が事故で死んだ時———2人の墓はそこに作ったはずだ。
今思えばどうやってあそこに作ったのか分からないが、間違いない。
「…………………琴葉」
「……どうしたの?」
「———今から行こう。あの街が見える丘に」
「……思い出したんだね」
「少しだけだがな」
事実、本当にそれ以外の家族との思い出は全く思い出せない。
「それじゃあ行こっか」
俺は琴葉が差し伸べる手を取った。
「———どう? 久しぶりに来た感想は」
「…………確かに懐かしい気がする」
俺は白くてつばの広い麦わら帽子を被り、涼しそうな肩出しの白ワンピースに身を包んだ琴葉の問いに、ゆっくりと頭を動かして周囲を見ながら呟く。
記憶の中の景色と殆ど変わらず、森の中にいきなりぽっかりと禿げているかのように草原が広がっており、丘の上には一本の大きな木が未だ立っていた。
昔より巨神獣の増えたこの世界で被害を受けることなく残っていてくれている事は素直に嬉しい。
逆にこんなにいい場所をつい先程まで忘れていた俺の馬鹿さが窺える。
そして夏の終わりが近付いているからなのか、涼しい風が身体を撫でる様に吹くので、とても心地よい。
昔もこんな感じだったのだろうか。
「———神羅? 大丈夫? 急にぼーっとして」
「……いや、何でもない。それじゃあお墓に行こう」
俺達は風に揺れる木々や草花の音を聞きながらゆっくりと歩を進める。
こう言った落ち着く所は心が洗われる様で好きだ。
昔はよく此処で琴葉と昼寝をしていたらしい事を先程家を出る際にお義父さんが言っていた。
だが、これ程に心地よければ確かに寝てしまうのも無理もない。
特に子供の頃は直ぐに眠たくなるしな。
「……琴葉はどれくらいの頻度で来てたんだ?」
「大体1年に1回くらいかな。もしかしたら此処に神羅が居るかもと思って」
「心配掛けて申し訳なかった」
「いいよ別に。私は今こうして神羅と再会して、恋人になって、此処にまた来れたことが何より嬉しいから」
そう言ってはにかんだ笑みを浮かべる琴葉の澄んだ瞳を、俺は思わず吸い込まれる様に殆ど瞬きもせずじっと見つめてしまった。
突然立ち止まった俺に琴葉はきょとんとして首を傾げる。
「どうしたの? 何かあった?」
「いや……俺の恋人が琴葉で良かったなと思ってな」
「!?」
琴葉が俺の言葉を聞いて何度か瞬きをした後、恥ずかしそうに目を逸らした。
「ど、どうしたの急に……もうっ、早く行くよっ!」
琴葉が帽子のつばで顔を隠しながら、俺を引っ張って丘の上の木に向かって小走り。
明らかに照れ隠しと分かるその行動に癒されると共に自然と口元に笑みが溢れる。
まるで子供の頃に戻ったかの様に野原を駆け、あっという間に丘の上の木の下へと辿り着いた。
既に琴葉は平常心を取り戻しているが、未だ手は握っている。
そこから2人で既に嘗てとは変わってしまった景色を少し眺めた後、木の下にある2つの墓石に目を向ける。
俺はゆっくりと近づくと、そっと優しく触れた。
「———ただいま父さん、母さん。15年も放っておいてごめん」
こうして俺は数億年ぶりに家族に挨拶をした。
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