第13話 神羅式レベルアップ術

 ———その日の放課後。


 俺は再び学院の敷地の端にある花畑にやって来ていた。

 昼は色とりどりの花だったが、夕方となった今は日が傾き、花が茜色に染まっている様に見える。


 今回は琴葉に先に帰ってもらった。

 始めは物凄い不機嫌な顔をしていたが、相手が女じゃないのと、境遇が昔の俺に似ていると言えば、意外と直ぐに許可をくれた。


 そして何故ここに再びやって来たかと言うと———


「———済まないな、少し待たせたか?」

「いえ全然大丈夫です! そもそも俺の為に来てもらっているので、どれだけ待たされても文句は言いませんよ!」

「じゃあ始めるとするか」

「はい!」


 ———光輝と手合わせと言う名のレベルアップをする為だ。

 この世界で知られているかは不明だが、レベル差がありすぎると、弱い方に経験値が入る様になっている。

 正直何故かは俺も分からないが、恐らく覚醒者も巨神獣と同じ様に魔力を持っているからだろう。


 一般人は魔力を持たないが、巨神獣と覚醒者は魔力を持つ。

 ここで俺が立てた仮説が、『レベル差の高い相手の魔力を吸収して強くなっているのではないか』と言う事だ。

 まぁ倒さなければ微々たる量の経験値しか貰えないが、俺と光輝のレベル差ならば一気に爆上がりするだろう。


 しかしその前にしないといけない事が1つある。


「光輝」

「はい? どうしたんですか師匠?」


 突然呼ばれてキョトンと首を傾げる光輝。

 彼には俺の手を取った時に、2人の時は師匠と呼びたいと言われたので好きに呼ばせている。

 弟子となった光輝の前に俺はとある水晶を置くと、驚愕に目を見開いた。


「こ、これは……! も、もしかしてステータス測定器ですか!?」

「ああ。貰った」

「貰った!? ステータス測定器って協会の所有物で契約書を交わした貸し借り以外禁止ではなかったですか!?」

「ん……そうなのか? 普通に貰えたぞ」

「それは師匠だけですよ……」


 因みに今俺のもっているステータス測定器は、前回俺の為に用意された改良版ステータス測定器だ。

 つまり、普通の物より大分高性能なので、光輝の分からなかった異能も分かるかもしれない。


「取り敢えずこの水晶に手を乗せてみろ」

「は、はい、分かりました」


 そう言って光輝が恐る恐る手を乗せる。

 すると、いつも通り『計測中』と書かれた文字が現れるが、俺の時とは違い、一瞬で終わった。


『異能力の表示に失敗しました。ステータスを表示します』


————————————

大橋光輝

18歳

Lv.104

体力:208/208

魔力:104/104

攻撃:E

防御:E

敏捷:E

【異能】

《身体強化》《???》

————————————


 表示されたのはこの前学院長に見せてもらったものと全く同じステータス。

 

 完全に固まる俺と光輝。

 その間は何故か他の音すらも止んでいて、完全な静寂が俺達を包む。


 俺はそんな気まずい雰囲気を掻き消すかのように水晶玉を地面に投げ付けた。


「やっぱり使えないなこれ」

「あーー!? そんなことしてはダメですよ師匠!! 物凄い貴重な物なんですから!」


 そう言って光輝が止めようとするので、仕方なく俺は地面に触れる瞬間に受け止める。

 横では安堵のため息を吐く光輝の姿が。


「危なかったです……」

「そんなに必死になる理由は分からないが、取り敢えず始めるとするか」

「そりゃ必死になりますよ……って急に始まるんですね……それで、何をするんですか? 結局異能は分かりませんでしたし……」

「一応考えている。今は技術とかどうとか言っている場合じゃないのはお前もわかっているだろ?」

「勿論です。ステータス差だけで素人が簡単に世界チャンプに勝てるんですから」

「———だからお前のレベルを上げる。一先ず俺を殴ってみろ」

「……………………え?」


 光輝が心底意味がわからないと言った風にくちを半開きにして間抜け顔を晒す。

 

「ど、どうしてレベルを上げるのに師匠を殴らないといけないんですか!? 俺はてっきり巨神獣を倒しに行くと———」

「今お前が巨神獣と対峙したら死ぬぞ」

「ぐふっ……た、確かにそうですけど……」

「なら俺を殴れ。殴れば分かる。それに今度手合わせをすれば自ずと殴る事になるだろう?」


 俺がそこまで言うと、「確かにそうですね……」と言い、俺の目の前に立って拳を握る。


「本気でやれよ」 

「分かりました!! それじゃあ行きます!! ———はぁあああああ!!」


 光輝が《身体強化》も使用して俺を殴る。


 ———バシンッ!


 E級とは言え、俺の様に一般人と変わらないとか言うレベルではないので、それなりに力が篭っていた。

 まぁ俺からすれば蚊に刺された程度で全く気付きもしない程度ではあるが。

  

 しかし突如光輝が大声を上げる。


「なぁあああああああ!? れ、れ、レベルが1500も上がったんですけど!? も、物凄い体が軽い!? し、師匠! これは一体どう言うことですか!?」


 テンパりながら聞いてくる効果に自論をざっくり説明する。

 すると光輝は声も出ないと言った様子で口をパクパクさせていた。


「そ、そんな事が……でも実際に俺のレベルは上がってるし……」

「試しに《身体強化》を使わずもう一度俺を殴ってみろ。どれくらい強くなったか確認したいだろ?」


 俺がそう言うと、先程とは違い、満更では無さそうな様子だ。

 まぁ今まで全く強くなれなかったのに、一気に強くなれた事で自分の力を試したくてウズウズしているのだろう。


「で、ではもう一度だけ……———!?!?」


 光輝が俺を殴った瞬間。


 ———ズドンッ!


 先程とは桁違いの音が鳴り響き、軽く周りから爆煙が舞った。

 相変わらず俺に取っては痛くも痒くもないが、その威力の違いは一目瞭然だ。

 その光景に光輝は薄ら笑いを浮かべて「これが俺の力……」などと呟いている。


「ま、またレベルが1100も……一体師匠のレベルは幾つなんですか……?」

「それは企業秘密だ。それと———」


 俺は軽く腕を振るって光輝を上空に投げ飛ばすと、俺も追いかける様に空へと跳躍。

 突然景色が変わった事と、強烈な浮遊感と圧迫感で目を白黒させている光輝に忠告する。


「な、何が……」

「今の俺の動きが見えたか?」

「い、いえ……見えてません……」

「因みに今の俺の動きはSSクラスの有村や佐伯も視認出来る程度の速度だ」


 俺がそう言うと光輝が顔を強張らせた。

 そんな彼に更に続ける。


「確かにお前は先程よりもあり得ないほど強くなった。しかし、それはお前の基準だ。まだまだこの学院の3分の1の相手にも敵わないだろう。だから———決して驕るな」

「わ、分かりました……! 今後は力に溺れたりしません!!」


 そう言って気を引き締める光輝。


 先程からいきなり強くなれた副作用とも言うべき状態に光輝が陥っていたので、少し現実を見せてやる事にしたのだ。

 今のまま強くなればあの西園寺の様な感じになりそうだったからな。

 

 しかし結構脅したのでもうそうなることはないだろう。

 俺が1人満足していると———


「———取り敢えず俺を助けてくださいししょおおおおおおおおおお!!」


 どんどん落下していく光輝が顔を真っ青にしてそう叫んでいた。


 ……普段から数万メートル上空を飛んでいるせいでなんとも思ってなかったな。

 そう言えば普通の覚醒者は1000メートルくらいの高さから落ちれば即死だった。


 俺は急いで光輝の回収に向かった。


 


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