第12話 学院一の無能者と、神羅のエゴ
「———神羅先生! 身体強化するとどうしても自分の感覚とズレるんですが、どうすればいいですか!?」
「慣れるしかないな。家とかで身体強化を弱めに常時発動してみるといいそうすれば徐々に強化に違和感がなくなる」
「———神羅先生! 僕は魔力が上手く使えず異能も不安定なのですが、どうすればいいですか!?」
「まずはしっかりと頭の中でイメージをする事だ。あとは、魔法系の異能力の授業を受ければ格段に魔力への理解力が上がるだろう」
俺は会うたびに質問をしてくる生徒達に返答しながらもずっと1人の生徒を探していた。
異質な気配を纏っており、俺がこの学院にいる二つ目の理由である———大橋光輝だ。
彼はどうやらあの2人以外とは本当に交友関係がないらしく、生徒達に聞いてみても貰える返答は芳しくない。
それどころか、所々から『落ちこぼれ』や『来る意味のない雑魚』などと酷い言われようだった。
正直言って全くいい思いはしない。
それどころか嫌悪感も覚えてしまう。
だから、言っていた生徒は全員この学院で1番怖いと有名になった琴葉にチクったが。
元落ちこぼれとしてはそう言った言葉は自分が自覚しているが故に重くのしかかるので、余計萎縮してしまう。
虐められるくらいならそっとしておいてもらった方が何倍もマシだ。
しかしそれはそうと———
「本当に全くいないな。あの2人に聞いてみるか」
俺はこのまま探しても見つかりそうに無いので、彼の唯一の友達である有村と佐伯と聞いてみることにした。
彼女達はいつも食堂に居るらしく、基本は2人で行動しているようだ。
———と言うことで食堂にやって来た。
流石日本一の覚醒者学院なだけあり、従来の食堂ではなく、ただでさえ普通の学校より2、3倍デカい校舎と同じくらい大きな建物が別にある。
そしてその中には完全にショッピングモールにある様な有名店がズラリと並んでいた。
更には服や家電、書店なども開店しており、完全にショッピングモールの様だった。
「この中から探すのか……骨が折れそうだな」
俺は少し予想外に苦戦しそうだとため息を吐く。
しかし彼女達を見つけなければ光輝も見つけられない。
本当は校内放送で呼び出すと言う手もあったが……それだと少し目立ちすぎるので却下した。
「さて……探すとするか。まずは1階からだな」
俺はフードコートがある1階から探し始めた。
捜索から僅か5分。
案外直ぐに2人の姿を確認した。
と言うか遠目から見ても分かった。
何故なら2人———その中でも特に佐伯詩織が目立っていたからだ。
有村の席には一般人程度のラーメンが置いてあったが、佐伯の座るテーブルには大量の料理が置いてあり、それをまるで飲み物を飲んでいるかのように高速で食していた。
まぁしかし、彼女の異能力の事を考えると分からない事もない。
そもそも強化系の覚醒者はよく食べるらしいからな。
それにしてもよく食うな……と感心しながら俺は2人に近付く。
「———有村、佐伯、少しいいか?」
「はい? 今食事中なので後に———って神羅先生!?」
「ど、どうして神羅先生が私達に……?」
「食事中に済まないな。実は少し聞きたいことがあってな」
「「は、はぁ……?」」
2人して突然俺に話しかけられたのと、聞きたいことがあると言ったせいか、呆けた返事が返ってくる。
俺は突然食事中に話しかけたことに若干申し訳なく思い、手短に済ませるために早速本題に入ることにした。
「少し大橋光輝に用事があってな。彼が今どこに居るか知らないか?」
「あ、それなら学校の敷地の隅にある花畑のベンチにいると思いますよ」
有村がほぼノータイムで答えてくれた。
しかし花畑か……そんな所があったのか。
あの学院長、意外と端折って説明しやがったんだな。
今更ながらに学院長の適当さに気付き、その内問い詰めてやろうと心に決める。
「ありがとう。それと食事の邪魔をして悪かったな」
「全然大丈夫ですよ!? 詩織はマジでお預けにした方がいいくらいですから!」
「ちょっ、朱里!? 何でそんなこと———」
「そんなのアンタが———」
言い合いを始めた2人からそっと離れ、俺は教えてもらった花畑に向かう。
場所は未だ分からないままだったが、上空から見れば花畑など一目瞭然だったので、速攻で見つかった。
そしてそこにはちゃんと大橋の姿も確認出来る。
「———大橋、少し話いいか?」
「!? し、神羅先生!? どうしてここが……ああ、2人に聞いたんですね」
あの2人は意外と口が軽いですし……と若干不満気に呟く大橋。
彼はもう既にご飯を食べたようで、見た所弁当などはなかった。
「それで……俺にどの様な用事ですか?」
「———お前は同じ生徒達に『落ちこぼれ』『無能』『来る意味のない雑魚』とか言われているらしいな」
「ああ……神羅先生も知っていたんですね。まぁ事実なので何も言えないんですけど」
そう言うが、彼の顔は露骨に苦しそうに歪んでいるので、相当心の傷は深そうだ。
しかしそれと同時に何処か諦めの表情を浮かべている。
その姿が———
「———気に入らない」
「!?」
———昔の俺と被って見えるから。
いきなり気に入らないと言われた大橋は一瞬驚いたかの様に目を見開くが、直ぐにその瞳も顔も怒りに染める。
そしてガタンッとベンチの肘掛けを叩きながら立ち上がると、憎悪の感情を乗せて言葉を放った。
「先生に……SSS級覚醒者になれるほどの才能を持っている神羅先生に何が分かるって言うんですかッッ!! 力も権力も金も誰もが羨む恋人も———全てをその手に掴んだ先生にッッ!!」
そう吐き出した後で、大橋は正気に戻ったかの様にハッとした表情の後、気まずそうに目を逸らす。
「す、すいま———」
「———分かるよ」
「!?」
分かるに決まっている。
だって———
「———お前は昔の俺に似ている。才能がなく、惨めに虐められ、それを強い幼馴染に守られていたあの頃の俺に」
「……あ…………え?」
大橋は俺の言葉を聞き、ただただ呆けた声を出した。
そんな彼をみて俺は決意する。
本当なら……もっと慎重に調べていく予定だったが、今の反応を見る限り、彼は恐らく自分の力に気付いていないので問題ないだろう。
俺は彼に聞いてみる。
これは俺のエゴだ。
彼にはこれ以上酷い状況を味わって欲しくない。
人間は時に巨神獣などよりよっぽど恐ろしいく、残忍な生き物だ。
強者に従い、自分より弱者を貶める。
俺はそのことを身をもって体験した。
その辛さも虚しさも絶望感も何もかも。
だから俺は———
「———お前は強くなりたいか? 強くなりたいなら———俺が全力で手助けしてやろう」
———彼を強くしてやりたい。
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