第2話 嫉妬する琴葉

「……で、教えてくれるんだろ? ん?」

「私は別に聞かなくても大丈夫です。上位の覚醒者にでもなればプライベートを隠す人は多いですし」


 こう言う時に性格が出るな。

 まぁ東さんは見るからに子供みたいに好奇心旺盛そうだし、夕薙さんは相手のことを尊重出来る受付人にぴったりな性格をしている。

 まぁ生きるのには東さんの方が楽そうだけど。


 しかしどうするか……予めこの2人には話して他に漏れない様にしてもらうか?

 ただ信じてもらえるとは到底思わないし、信じて貰おうと思ってもいない。

 まぁ琴葉とお義父さんお義母さんには信じて貰えたし、物凄く心配されたけど。


 ダメ元で話してみるか?


「夕薙さん、俺の過去を調べたことあるか?」

「え、あ、はい。正直目を疑いましたが……」

「あ? 夕……お前そんな大事なこと俺に言ってなかったのか!?」

「言おうとしましたよ! ちゃんと神羅様に許可を貰えば!」


 ぐわっと目を見開いて夕薙さんに掴み掛かる支部長に夕薙さんが言い返す。

 

「幾ら支部長でも、神羅様の方が立場は上なのですから当然言うにも本人の許可が必要なんです!」

「……まぁそうだな。すまない、少し興奮していた」


 夕薙さんにど正論を言われ、少し頭が冷えたのか夕薙さんを離し、疲れた様に椅子に座る。

 

「それで……神羅はどうだ?」

「俺は別に言われても構わない。どうせ隠してないしな」

「———だそうだ。言え、夕」

「……わかりました。斎藤神羅、出身などの情報は省きますが、17年前に一度覚醒者登録しています。ですがその時は———F級です」

「はぁ!? そんなバカな!」


 ダンっ! と机を叩きながら立ち上がり、再び机と一体化したタブレット端末を操作し始め、突如手を止めた。

 チラッと覗くと、そこには昔の俺のステータスと覚醒者登録の記録が表示されていた。


「この様にステータスもしっかりと記録されており、間違いなくF級でした」

「…………馬鹿な」


 もう訳が分からないとばかりに顔を手で覆う東さん。

 しかしすぐに東さんが俺に聞いてくる。 


「……一体何があった?」

「この世界のEX級巨神獣に鯨型の巨神獣はいるか?」

「あ? う、うーん……鯨型なぁ……今の所海中のEX級巨神獣は1体以外見つかってないなぁ……」

「現在確認されているEX級巨神獣は、日本の近くのマリアナ海溝に生息している蛸型『クラーケン』のみです。あとは陸上、上空、南極などに生息している種はどれも海に長時間滞在出来ません」


 俺の突然の問いに東さんは聞いたことがないと言い、夕薙さんも具体的な内容を話してくれたが、勿論聞いたことがないらしい。

 

「ただそれとお前の年齢に何の関係があるんだ?」

「EX級巨神獣の腹に閉じ込められてた」

「「……は?」」

「俺は15年前、砂浜で鯨型の巨神獣にランク測定器を使った。その時測定器はerrorを起こした。SSS級まで測れるモンスター測定器が、だ」

「!? まさかEX級巨神獣だって言うのか!? なら仮に15年前から居たはずなのに何で今も見つかっていないんだ!?」

「それは知らんが、そいつに喰われた俺は、無機質な空間に俺の歳分閉じ込められていた。その結果、俺は15年間この世界から姿を消していた」

「まさか……そんな事があり得るのか……? いや、あり得ないこともない、のか……?」

「……否定は出来ませんね。何せ巨神獣自体が謎多き生物ですので……」


 夕薙さんの言う通り、未だ巨神獣は謎多き存在。

 俺自身も何故あんな数十キロ程の体長しかないのに中に太陽系程の多きさの空間があるのか不思議でならない。

 それに中に生息していた生物はどれもこの世界で言うS級以上の強者ばかり。

 

「そこで俺はひたすらレベルを上げた。前言っただろう? 俺のレベルは999,999,999だと」

「……嘘では無かったのですね」

「レベル999,999,999だとぉ!? ……そりゃあ測定器でも測れない訳だ」


 結局この測定器無駄だったな……と床に捨てる東さんと、その測定器を「これ物凄く高いんですよ……!」と慌てて拾う夕薙さん。

 ……憐れすぎる。

 

「兎に角、俺の年齢が異常なのはそれが理由だ」

「……これは報告———」

「ダメだ。そんな事をすれば俺はもう2度と戦わない。琴葉と2人で隠居する」


 俺が2人に———殆ど東さんだが———少し威圧を掛けると、途端に全身を痙攣させて全身から汗を滝の様に流す。

 正直可哀想だが、今回ばかりは譲れない。


 そもそもこの力はあまりにも異質過ぎる。

 仮に公表すれば俺だけでなく周りに被害が加わるかもしれない。

 それにその巨神獣を手に入れようと様々な人々が命を落としてしまう事もあり得る。

 出来れば脱出した時の攻撃で死んでくれていれば良いのだが……おそらく死んでいないだろうな。


 俺はすぐに威圧を解くと、途端に深呼吸を繰り返した東さんは、俺に頭を下げる。


「———申し訳なかった。公表はしないことにしよう。これは俺達だけの機密だ。分かったか夕!?」

「も、勿論ですっ!」

「じゃあ俺はもう行くぞ。これから琴葉とデートなんだ」


 俺がそう言うと、2人があっけに取られた様に目をパチパチと瞬きを繰り返す。

 そんな2人を俺は見ながら、窓から空へと飛び立った。







「———と言うことがあったんだ」

「えっ……言っちゃったの……? だ、大丈夫だった?」


 俺が話し終えると、琴葉が心配そうに俺の顔を覗き込む。

 

 現在俺達はデートの真っ最中。

 今回は俺の服を買うのが目的だが、その他にも適当にぶらぶらしながら寄りたいところに寄ると言うウィンドショッピングなる事をしていた。


 因みに琴葉は身バレしない様にレンズの大きな眼鏡をしているが、普段とは雰囲気が全然違う。

 勿論そんな琴葉も物凄く可愛い。


 そんな中、少しの休憩で琴葉のお気に入りの喫茶店に入った俺は琴葉が気になるとのことで、先程の内容を話していた。


「ああ。2人とも絶対に話さないと誓ってくれた」

「まぁ……神羅が良いなら私は良いんだけどね。……私にだけ特別に教えくれてたと思ってたのに……」


 不満げに頬を膨らませ、飲み物を口に運ぶ琴葉がボソッと言ったことを俺は全て聞き取っていた。

 どうやら琴葉は俺が勝手に他の人に話した事に嫉妬しているらしい。


「……相変わらず琴葉は可愛いな」

「っ!? や、やめてよ……そんなこと言っても機嫌は治らないからね!」


 ふんっ! とそっぽを向いて「私不機嫌です」オーラを出している琴葉だが、構って欲しいのかチラチラと俺を見ている。

 そんな可愛い琴葉に頬が緩むのを感じながら、俺はそっと手を頭に乗せ、髪を解く様に撫でてみる。

 すると面白いくらいにビクッと体を震わした後、先程の不機嫌そうな表情から一転、気持ちよさそうに目を閉じて完全に俺に身を任せていた。

 可愛い。


「悪かったな。もう誰にも言わないから」

「……約束して」

「分かった。俺の秘密はもう誰にも言わない。約束」


 俺が小指を出すと、少し嬉しそうに口元を緩めた琴葉も同じく小指を出して絡ませる。

 子供の様なやり取りだが、これも立派な約束の仕方だと俺は思う。

 

 こうして指切りの定番の歌を歌った後、琴葉が少し気まずそうに呟く。


「……面倒くさくてごめんね」

「良いんだよ別に。どんな琴葉でも受け止めてやるから」

「…………ありがと」


 そう言って嬉しそうに笑った琴葉は、俺の肩に頭をそっと乗せて目を瞑る。

 そんな琴葉の頭を再び撫でながら、俺はそっとコーヒーに口を付けた。


 何故か先程よりコーヒーが甘く感じたのはきっと気のせいだろう。


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 昼の12時と夕方の6時。


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