2章 落第生と宿願の相手

第1話 昇格と再びのステータス検査

「———じゃあちょっと行ってくる」


 沖縄の事件から1週間後、俺は何か報告することがあるという事で第10安全地帯の協会の支部に呼び出されていた。


「大丈夫だと思うけど……気を付けてね? 元気で戻って来てね?」

「心配なのも分かるけど別に少し協会に行くだけだ。琴葉は昼からのデートの準備をしててくれ」


 そう言ってみるも、俺に前科があるせいか依然心配そうに眉を八の字にしている。

 まぁでも居なくなったことを言われるとなんとも言えないので現在困っているのだが。


 因みに俺は今も水野家に住んでいる。

 一応ちゃんと家は買ったと2人には言ったのだが、「昔の様にこの家に居てくれても全然いいのよ?」とありがたいお言葉を貰ったので、半ば居候の様な形で置かせてもらっているのだ。

 勿論お金は2人に無理矢理にでも払っているが。


「琴葉、そんなにしつこいと神羅君に嫌われるわよ。彼女ならどっしりと構えておきなさい」

「で、でも……」

「神羅君〜琴葉は私が何とかしとくから行ってもいいわよ〜」

「ありがとうございます。———じゃあ行ってくる」

「ああっ、神羅……」


 何とか家を出た俺は琴葉に止められれば行けない自信があるので、急いで第10安全地帯の協会へと飛んでいく。

 琴葉の家は日本の旧長野辺りにあり、現在の日本の首都である第1安全地帯にあるため、近畿地方にある第10安全地帯とはそこまで離れていない。

 そのお陰でゆっくり景色を眺めながらでも数分で到着するので、飛行出来る巨神獣が居ない限りは約束の時間に遅れることは殆ど無い。


 俺は第10安全地帯で一番目立つ高層ビルの近くに降り、その高層ビルの横にある少し小さめのビル———協会支部の中に入る。

 ほんの数週間では全く変わっておらず、相変わらずいつもの様に洋介さんを除いた『要塞』の皆が昼間から酒を飲んで駄弁っていた。


「———あっ、我らが第10安全地帯のスターである神羅のじゃないか〜。最近顔見てなかったから寂しかったぞー!」

「にゃはははははは! 神羅君も一緒に飲もー☆」

「だ、ダメですよ、お酒を誘ったら! 神羅さんには恋人さんが居るんですから! ———神羅さん、風の噂……と言うかたくさんのニュースで見たのですがおめでとうございます」


 綾人さんと心さんが酒に酔ってだる絡みをしてくる傍ら、1人ジュースを飲んでいた咲良さんがそう言って俺に何か包装された物を渡してくる。

 

「これは?」

「お2人の為にペアルックのマグカップを買ってみたのですが……」

「ありがとう。今後使わせてもらおう」

「はいっ! お2人が同棲でも始めたときに使ってください! それでは私がこの2人を何とかしますので受付の方に行ってください」


 いい加減飲むのやめてください! と言いながら2人の頭を何処からともなく取り出したハリセンでぶっ叩いていた。

 いい音鳴るな……と思いながらも、このカオスな状況を解決してくれそうな陽介さんを周りに視線を巡らせて探してみるが、残念ながら見当たらない。


「洋介さんは何処に居るんだ? 挨拶くらいはしたいんだが……」

「リーダーは奥さんと子供とお出かけだよ☆」

「ずるいよな、リーダーだけ既婚者とか! 琴葉様は神羅に取られたし俺も彼女が欲しいよおおおおおお!!」

「綾人さんやめてください物凄く恥ずかしいんですっ!!」

「いだっ!? ちょ、ちょいま———痛い! 痛いって!」

「にゃはははははは!! いいぞーもっとやれー☆」


 悲痛の雄叫びのせいで周りの視線を集めてしまったことにより、恥ずかしそうに顔を真っ赤にした咲良さんによって綾人さんがオーバーキル並にバンバン叩かれる。

 そんな2人をつまみにビール片手に大爆笑している心さんが一番酷い。


 俺はこのカオスな空間からそっと離れ、受付に居る夕薙さんの下へ直行。


「———あっ、神羅様お久し振りです。今日はわざわざ第1安全地帯から来ていただきありがとうございます! 一応此方に来ていただいた理由につきましては、神羅様の所属が第10安全地帯なので神羅様の情報は此方に入ってくるんです」

「他の支部には情報は行かないのか?」

「一応行くのは行くのですが……賞状とか覚醒者ライセンスが此処に届くんですよね……」


 もう少し融通が効けばいいんですけど……と愚痴る夕薙さんの後ろから― ――突如人が現れた。

 まるで瞬間移動してきたみたいに。


「……誰だお前は」

「ん? あーおい夕! お前まだ俺のこと話してなかったのか?」

「い、今話そうとしていた所です」

「いやもう俺来ちゃったから自分で説明知るし」


 見た目40代のダンディーなムキムキのオジサンが俺に手を差し出してきた。


「俺の名前は東真太郎あずましんたろう。一応S級覚醒者でこの支部の支部長やってる」

「初めまして東さん。俺は……」

「おっと、自己紹介は不要だぜ。お前のことはしっかり聞いてくるからな。それと……色々と話したい所があるから少し移動しよう———《空間移動》」

 

 東さんと握手をしていると、突然景色が変わる。

 そこは先程の喧騒の響き渡る場所ではなく、よくドラマとかである社長室的な部屋だった。

 それにしても———


「いきなりはどうかと思うが?」

「いやぁー悪い悪い。言うのすっかり忘れてたわ! まぁ神羅は俺よりも強いし転移酔いしてる様子もないから大丈夫だろ!」


 そう言う問題ではないと思うのだが……どうやらこの人は見た目の通りズボラな性格らしい。

 よく見てみればスーツもヨレヨレだし、靴も汚れが目立つ。

 ただ、多分悪い人ではないのだろう。


「ところで……賞状とか、覚醒者ライセンスとは?」

「ん? ああーはいはい理解理解。チッ……アイツ何にも説明してないじゃねぇか! まぁ手短に言うと、これから神羅はSSS級覚醒者になるからそれの賞状と新しいライセンスの受け渡しだな」


 東さんはそれだけ言うと、机の上に置いてある金庫から段ボールを取り出し、その中から黒色のライセンスと何かよく見る賞状が出て来た。

 

「これがライセンスで……こっちが賞状な」


 少し雑に投げ渡してくる東さんが、突然ピタッと動きを止めると、何かを思い出した時に「あっ」と声を上げた。

 すると机と一体化しているタブレットの様な画面を何か操作し始める。


「何をしているんだ?」

「いやな、お前前回、『技術者』が作ったオリジナルステータス検査の機械壊したろ? それを聞いた『技術者』が更なる改良を重ねたプロトタイプを作ったらしくてな……使わせろって五月蝿いんだよ」


 そんな面倒なことしなくてもいいのに……とゲンナリした様に東さんがため息を吐く。


 ……確かにそんなことあったな。

 あまり衝撃的じゃ無かったからかすっかり忘れていた。


「まぁ別に構わない。それでその機械は?」

「おお! 受けてくれるか! 最近の若い奴らは極度にステータス検査を嫌がるからなぁ……了承してくれるか気になってたんだ」


 少し待ってろ、と宣う東さんが言った通り、少し待っていると夕薙さんが少し緊張した趣で支部長室? に入ってくる。

 その手には前回と何ら見た目は変わらない水晶型のステータス測定器を持っていた。


「し、支部長……持って来ました……」

「お、サンキュー。ついでに夕も神羅のリベンジ測定見ていくか?」

「あ、は、はい……ご一緒に見学させていただこうと思います……」


 まぁ一介の受付人が支部長の誘いを断れるはずないよな。

 どうやらこの支部長結構強いらしいし。


「じゃあ行くぞ」

「ああ……期待の新人が一体どれ程のモノなのか見せてもらおうじゃないか」


 俺はゆっくりと水晶の上に手を置くと、前回同様、空中に『計測中』と書かれた文字が出て来た。 

 しかしちゃんと改良されている様で、前回よりも計測中の表示が長い。


「おおーこれは長いなぁ。すんごい結果が出るんじゃないか?」

「さすが『技術者』ですね……ほんの数週間で計測できるようになると———」


『———error。対象者のレベルが高過ぎるため計測できません。error。対象者の魔力が高過ぎるため計測出来ません。error。体力を計測出来ません…………異能の計測に成功しました。表示します』


—————————————

斎藤神羅

549,843,295歳

Lv.表示不可

体力:表示不可

魔力:表示不可

攻撃:表示不可

防御:表示不可

敏捷:表示不可

【極致異能】

《矛盾の魔力》《表示不可》

————————————



「———…………あれ?」

「おお! ステータス測定器がerrorを起こすのを俺は初めて見たぞ!? 凄いな神羅! これでSSS級覚醒者確定だな!」


 夕薙さんが間抜けた声を上げ、東さんが子供の様に目をキラキラと輝かせてerrorと言う音声を繰り返すステータス測定器を眺めていた。 

 しかし2人同時にとある一部分を凝視したのち、俺の方を見る。


「「………… 549,843,295歳……? 極致異能……?」」

「…………」


 ———さて、どうしようか。

 

 俺はこの状況をどう切り抜けるか必死に頭をフル回転させた。


—————————————————————————

 第2章の開幕です!

 さて、一体神羅はどう切り抜けるのでしょうか。


 マジでフォローと☆☆☆宜しくお願いします。モチベ維持に繋がるので!  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る