第3話 いざクラン『夜明けの証』へ①

「———神羅には私の所属している『夜明けの証』の本拠地に来て欲しいの」


 デートの次の日の朝、突如琴葉がそんな事を言い出した。


「勿論神羅にもいろんな用事があるのかも知れないのは分かって———」

「いいぞ」

「———っていいの?」

「ああ。琴葉の頼みを拒否することはないぞ」


 俺は特に予定も無いし依頼でも受けようかと思っていた所なので丁度いい。

 それに、そもそも琴葉よりも優先順位が高いことなんてこの世に存在しないのだ。


 因みに、結局昨日はお互いに久し振りのショッピングだった事もあり、百数十万もの金額を思いっ切り散財してしまっただけでなく、全て俺が奢った。

 勿論琴葉は自分の方がお金を持ってるから自分が奢ると言っていたが、別に俺もこれ程の大金を出してもまだまだ有り余るほど持っているので、何とか説得して奢ることが出来た。

 

「いつから行くんだ?」

「え? 特に指定はされてないけど……会長が会いたいんだって」

「理由は?」

「うーん……特に言ってなかったし、私も知らない」


 副会長の琴葉も知らないのか?

 ならSSS級覚醒者になったことが何か関係しているのだろうか?


 確か『夜明けの証』の会長はSSS級覚醒者だったはずだ。

 前回実際に会った時は確かに琴葉よりも強力な気配を放っていたのを覚えている。

 

 まぁ何があるにせよ、行ってみてみる他あるまい。


「じゃあ今から行くか」

「あ、じゃ、じゃあ……えっと……」


 琴葉が少し言いにくそうに言葉を濁す。

 しかし「私は神羅の恋人……私は神羅の恋人……」と言う謎の呪文を何度かぶつぶつと呟いた後、琴葉は顔を真っ赤にさせて小さな声でボソボソと言う。


「わ、私をお姫様抱っこして連れてってくださぃ……」

「それくらいなら全然いいぞ———ほら」

「ふわっ……あ、ありがとう……」

「別に琴葉は俺の彼女なんだからもう少し我儘言ってもいいんだぞ」

「ふぁい……」


 琴葉はよほど嬉しかったのか、俺の腕の中で完全に蕩け切っていた。

 まぁそんな琴葉も新鮮で可愛いのだが。


「じゃあ行くぞ。しっかり捕まってろよ」

「ふぁい……きをつけますぅ……」


 完全にポンコツと化した琴葉に癒されながら、俺は『夜明けの証』の本拠地へと向かった。







「此処が『夜明けの証』の本拠地か?」

「うん。一応日本最強の看板を背負ってるからビルも大きいの。別にこんなに大きくなくてもいいと思うんだけどね」

 

 復活した琴葉に連れられ、俺の住んでいる高層ビルより更に大きな、地上5、60階くらいはありそうなビルの中に入る。

 中は物凄く豪華絢爛で、何処かの高級ホテルかと見間違えそうなほどだった。

 しかしクランと言うからには沢山人がいると思ったら、1人も居ない。


「これは……凄いな」

「———そう言ってもらえると嬉しいよ」


 俺のつい溢れた言葉に反応した男の方を向くと……。


「やぁ久し振りだね神羅君。まぁちゃんと話したことはないんだけど」


 そこには一際強力な気配を纏った会長と思わしき人が立っていた。

 前回会った時と違って車椅子ではなく、普通に立っている。


「あ、会長居たんですね。神羅を見てたら気付きませんでした」

「……酷くない?」

「酷くありません。会長なんかより神羅を見ていたいので」


 琴葉に散々な事を言われて本気で傷ついているのか、笑みを浮かべたまま吐血している会長と呼ばれた男。

 しかし何とか耐えると、琴葉は諦めたのか俺に話し始める。


「と、取り敢えず……今日は来てくれてありがとう。僕は朝霧直也。このクランの会長をやっている」

「俺は斎藤神羅だ。早速1つ訊きたいのだが……クランの仲間達はどこにいるんだ? 沢山居そうなイメージなんだが」

「あ、ああ……ちょ、ちょっと一箇所に集めているんだよ。君に会ったら何するか分からないからさ。あ、あははは……」

「ん? 俺は襲われるのか?」

「大丈夫だよ神羅。襲われたら私が返り討ちにして説教するから」

「そうならない様に今誰も居ないの! だから絶対に返り討ちにしないでよ!?」

「……約束は出来ないです」


 琴葉はツンとした感じで朝霧会長から目を逸らす。

 そんな琴葉に朝霧会長は顔を手で覆って大きなため息を吐いていた。


 ……試しに俺から言ってみるか。


 俺はこのほんの少しの間に朝霧会長が非常に可哀想に思えてきた。

 まぁ昔から琴葉は俺や家族以外には基本こんな感じだったので懐かしいと言えば懐かしいのだが、朝霧会長は苦労していそうだ。


「琴葉、俺は大丈夫だからやめとけ」

「うんっ! 神羅がそう言うなら絶対に返り討ちにしないよ!」

「神羅君の言う事は聞くんだね……」

「当たり前じゃないですか。神羅は私の恋人で世界一大切な人なんですから」

「うん、もうよく分かったから取り敢えず場所を移動しようか」


 俺達は疲れ切った様子の朝霧会長に連れられて、エレベーターに乗る。

 そこで俺は1番気になっていた事を訊いてみることにした。

 

「そう言えば俺は何で呼ばれたんだ?」

「実は協会からね、同じSSS級覚醒者としてSSS級覚醒者としての役割を教えてあげて欲しいと言われていてるんだ。あともう1つ理由があるんだけど……それは後にして、一先ず僕の部屋に移動してから話そう」   


 エレベーターの扉が開き、すぐ横の部屋に朝霧会長が入っていったので、俺と琴葉も続く様に入る。

 朝霧会長の部屋と思われる此処は、先ほどの豪華絢爛な一階とは違って、よく言えば質素、悪く言えば殺風景な部屋だった。

 部屋には机とパソコン、エアコンにテレビとソファーが置いてあるのみ。  


「此処が朝霧会長の部屋か?」

「そうだよ。会長は要らないものを置きたくない主義らしいわよ」

「何もなくてすまないね。お茶くらい出せる様にならないといけないんだけど……」


 まぁイメージとしてこういう時は何かしら出されるのは確かだが、別に俺は必要ないと思っているので特に気にしない。

 琴葉も「いつも通りのこと」とソファーに座って気にしていない様子。


「別に俺達は大丈夫だ。それより早く本題に入らないか?」

「うん、僕も早く終わらせて次の方に取り掛かって欲しいから手短に話すよ」


 朝霧会長が俺にタブレットを渡してくる。

 そのタブレットには世界地図が載っており、日本の他にアメリカ、ロシア、オーストラリア、イギリス、太平洋のハワイ辺りに印が付けてあった。


「……これは?」

「世界に生息しているEX級巨神獣の棲家だよ。SSS級覚醒者の主な仕事は、他国のSSS級覚醒者と共にこう言った最強格の巨神獣を倒すことと……後は国の象徴的な意味もあるかな」

「今までEX級巨神獣を倒したことは?」


 朝霧会長がスッと目を逸らし、気まずそうに頬をかく。

 その様子から容易に成功していないことが分かる。


「……一度も成功していないのか?」

「い、いや、一度だけ成功しているよ!? まぁ僕が参加したのは全部失敗してるけど……」


 ……昔より皆強くなっているんじゃないのか?

 15年だぞ?

 それくらいあれば才能がある奴なら俺なんかみたいに数億年もレベル上げに励まなくてももっとレベルが上がるだろうに。


「まぁそれはいいとして……他には?」

「他は……教育かな?」

「教育?」


 俺は何のことかよく分からないと言った様に首を傾げていると、先程まで静かだった琴葉が口を開く。


「15年前にもあった『覚醒者学院』って覚えてる?」


 覚醒者学院……正直全く記憶にない。

 と言うか15年前の記憶はほぼ全て覚えていないので、何とも言えないのだが……。


「国が設立した才能ある子供を育てる機関のことさ。最近の上位覚醒者は殆どが覚醒者学院の出身と言ってもいい」

「まぁ私は行ってないけどね。この会長にスカウトされて神羅を探すのを手伝ってもらうために入ったけど」


 ……俺のために入ってくれてたのか。

 

「ありがとう……琴葉」

「えへへ……神羅のためなら何でもするよっ」


 俺の腕に抱きついて頬ずりする琴葉を見て、会長は苦笑いしているが突然真剣な表情に変わる。


「……こんなことは御門違いだと十分に理解しているけど、1つだけ頼みがあるんだ」

「「……??」」

「まぁちょっと見てみてくれないかい?」


 深刻そうな顔をした朝霧会長について行き、再びエレベーターに乗り込み、何十階か下に降りて扉が開くと———




「———いい加減諦めてよ姫花っ!! 琴葉ちゃんはもう神羅様のものなの!!」

「「「「「「「そうだそうだ!! いい加減諦めて祝福しなさいよ!!」」」」」」」


 優さん率いる女性陣達と———

 

「———琴葉様は皆の女神なのですっ! 絶対にあの神羅とか言うポッと出に取られてたまるものですか!!」

「「「「「「「そうだそうだ!! 琴葉様に男は必要ないっ!!」」」」」」」


 姫花さん率いる男性陣がバチバチにやり合っていた。


「———神羅君……頼むからこれを鎮静化させてくれッ!!」


 朝霧会長が若干涙目になりながら綺麗に90度に頭を下げた。


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 今日の6時にもう1話投稿する。

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